寝酒と迎え酒は不眠症の発症リスクと相関しているのか?
酒に含まれるアルコールの代謝経路は、これまでの研究結果からほぼ明らかとなっています。アルコールは、まずアルコール脱水素酵素(ADH)によってアセトアルデヒドに分解されます。 次にアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸に分解され、この酢酸は全身循環にのり、筋肉や脂肪組織で二酸化炭素と水に分解され、呼気や尿、汗となって体外へ排出されます。ALDHには2つのタイプがあり、特にALDH2型がアルコール分解において大きな役割を果たします。しかし、日本人の約4割ではALDH2型の酵素活性が弱く、アセトアルデヒドの体内濃度が高まりやすいとされています。このため、白人と比較して、日本人は2日酔いになりやすいとされています。
日本だけでなく、さまざまな文化圏で寝酒や迎え酒といった風習があります。寝酒とは「寝つきを良くする」、「ぐっすり眠れるようにする」ために寝る前に飲むお酒のことで、迎え酒とは「気持ちを落ち着かせる」、「二日酔いを治す」ために朝に飲むお酒のことです。これらはポジティブな目的で用いられますが、実際の効果については明らかになっていません。
そこで今回は、農家の健康な中高年者を対象に、不眠症と寝酒・迎え酒の関係を検討した横断研究の結果をご紹介します。
746例(平均年齢 59.5歳、女性 25.9%)を対象に、自記式質問票をもとに「寝酒」、「迎え酒」の定義が行われました。不眠症の定義は、Athens Insomnia Scale(AIS)日本語版≧6または前年度の睡眠薬の使用でした。ロジスティック回帰により、性別、年齢、睡眠関連障害の有無、飲酒頻度、1回あたりの飲酒量を調整し、「寝酒」、「迎え酒」による不眠症のオッズ比(OR)が算出されました。
試験結果から明らかになったことは?
不眠、寝酒、迎え酒はそれぞれ174例(23.3%)、140例(18.8%)、37例(5.0%)で確認されました。
不眠症の有病率 オッズ比 OR (95%信頼区間) | |
寝酒をする参加者 | OR 2.00(1.27〜3.16) vs. 寝酒をしない参加者 |
不眠症の有病率 オッズ比 OR (95%信頼区間) | |
迎え酒をする男性参加者 | OR 3.26(1.55〜6.87) |
人口統計学的因子および交絡因子で調整した後、寝酒をする参加者は、寝酒をしない参加者と比較して、不眠症の有病率が有意に高いことが示されました(OR 2.00 [95%信頼区間 1.27〜3.16])。また、迎え酒は、男性の不眠症の有病率の高さと独立して関連していました(OR 3.26 [1.55〜6.87])。
不眠症のオッズ比 (95%信頼区間) | |
寝酒と迎え酒の両方をする参加者 | OR 4.77(2.01〜11.3) vs. 両方をしない参加者 |
寝酒 | OR 4.09(1.14〜14.7) p=0.031 |
迎え酒 | OR 1.81(1.08〜3.06) p=0.026 |
寝酒と迎え酒の両方をする参加者は、寝酒と迎え酒の両方をしない参加者に比べて、不眠症と高い有意な関連を示しました(OR 4.77 [2.01〜11.3])。さらに、不眠症については、寝酒よりも迎え酒の関連性が顕著でした(OR 4.09、95%CI 1.14〜14.7、p=0.031; and OR 1.81、95%CI 1.08〜3.06、p=0.026)。
コメント
寝酒および迎え酒は、睡眠や覚醒にとってポジティブな文脈で用いられますが、実際の効果については明らかとなっていません。
さて、日本の農家を対象とした横断研究の結果、寝酒と迎え酒はアルコール摂取の量や頻度とは無関係に不眠症と関連していました。ただし、あくまでも相関関係が示されたに過ぎません。国や地域、社会情勢などの置かれた環境によって、不眠症に影響する交絡因子が異なります。継続的な検証が求められます。
続報に期待。
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