出血コントロールのためのカルバゾクロム追加はトラネキサム酸単独療法より優れているのか?
出血をコントロールするために考えられている薬剤の効果を評価することは重要です。代表的な薬剤として、トラネキサム酸やカルバゾクロムなどが使用されています。
トラネキサム酸(TXA)は出血性外傷患者の死亡リスクを低下させることが示されていますが、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム(カルバゾクロム)はTXAと併用されることが多いものの、カルバゾクロムがさらに外傷患者の出血コントロールを改善するかどうかは不明です。
そこで今回は、TXAに加えてカルバゾクロムが出血コントロールを改善することにより、輸血や死亡リスクを低減できるかどうか検証した後向き研究の結果をご紹介します。
本試験は、2011年から2019年までの外傷患者の診療記録をレトロスペクティブに解析しました。年齢16歳以上、重大な出血があり、CRASH-2(Clinical Randomisation of an Antifibrinolytic in Significant Haemorrhage)研究に準じて受傷から8時間以内にTXAを投与された患者を対象としました。本試験の主要転帰は、受傷から24時間以内に投与された赤血球(RBC)、新鮮凍結血漿(FFP)、濃縮血小板(PC)の総量でした。副次的アウトカムは、受傷後4週間以内の院内死亡、血管閉塞性イベント、治療でした。
試験結果から明らかになったことは?
このレトロスペクティブな評価期間中に、5,764例の外傷による入院が登録されました。合計326例が選択基準を満たしました:TXAに加えカルバゾクロムを投与した259例(TXA+CSS群、n=259)、TXAのみを投与した67例(no-CSS群、n=67)。
TXA+CSS群 | no-CSS群 | P値 | |
赤血球(RBC)投与量 | 0(0~2)単位 | 0(0~6)単位 | <0.01 |
新鮮凍結血漿(FFP)投与量 | 0(0~4)単位 | 2(0~8)単位 | <0.01 |
濃縮血小板(PC)投与量 | 0(0~50)単位 | 0(0~40)単位 | 0.04 |
死亡 | 15.1% | 6% | 0.07 |
血管閉塞性イベント | 2.3% | 4.4% | 0.40 |
赤血球(RBC)と新鮮凍結血漿(FFP)の投与量はTXA+CSS群ではno-CSS群に比べ有意に少ない一方で、濃縮血小板(PC)の投与量はTXA+CSS群に比べno-CSS群で有意に少ないことが示されました。
死亡率はno-CSS群6%、TXA+CSS群15.1%でした。死亡率および血管閉塞性イベントには両群間に有意差はありませんでした。
各タイプの輸血量を説明変数とし、重回帰分析を行いました。CSS投与は赤血球輸血量の減少の独立因子(標準偏回帰係数-0.1、95%CI -3.1 ~ -0.1、p=0.04 )であり、FFPやPCの輸血量には影響を及ぼさないことが確認されました。
死亡を説明変数とした多重ロジスティック回帰分析を行ったところ、CSSはいずれの死因に対しても独立した因子ではありませんでした。
コメント
出血コントロールのために止血薬が用いられますが、その併用効果については充分に検証されていません。
さて、本試験結果によれば、後向き研究の結果、トラネキサム酸単独療法と比較して、カルバゾクロム追加は外傷患者の赤血球輸血量を減少させました。カルバゾクロム追加は血管閉塞のリスクを増加させませんでした。また、カルバゾクロム追加による死亡リスク低下は認められませんでした。
診療データの後向き研究であることから、あくまでも仮説生成的な結果です。トラネキサム酸単独療法と比較して、カルバゾクロムを追加することによる有効性・安全性の評価が引き続き求められます。
続報に期待。
☑まとめ☑ 後向き研究の結果、トラネキサム酸へのカルバゾクロム追加は、トラネキサム酸単独療法と比較して、外傷患者の赤血球輸血量を減少させるものの、血管閉塞のリスクは増加させなかった。また、カルバゾクロム追加は死亡率を低下させなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:出血をコントロールするために考えられている薬剤の効果を評価することは重要である。トラネキサム酸(TXA)は出血性外傷患者の死亡リスクを低下させることが示されている。カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム(CSS)はTXAと併用されることが多いが、CSSがさらに外傷患者の出血コントロールを改善するかどうかは不明である。
方法:本研究の目的は、TXAに加えてCSSが出血のコントロールを改善することにより、輸血や死亡を減らすかどうかを検討することである。2011年から2019年までの外傷患者の診療記録をレトロスペクティブに解析した。年齢16歳以上、重大な出血があり、CRASH-2(Clinical Randomisation of an Antifibrinolytic in Significant Haemorrhage)研究に準じて受傷から8時間以内にTXAを投与された患者を対象とした。
主要転帰は、受傷から24時間以内に投与された赤血球(RBC)、新鮮凍結血漿(FFP)、血小板濃縮物(PC)の総量であった。副次的アウトカムは、受傷後4週間以内の院内死亡、血管閉塞性イベント、治療とした。
結果:このレトロスペクティブな評価期間中に、5,764例の外傷による入院が登録された。合計326例が選択基準を満たした。TXAに加えCSSを投与した259例(CSS群、n=259)とTXAのみを投与した67例(no-CSS群、n=67)。死亡率はno-CSS群6%、CSS群15.1%であった。死亡率および血管閉塞性イベントには両群間に有意差はなかった。各タイプの輸血量を説明変数とし、重回帰分析を行った。CSS投与は赤血球輸血量の減少の独立因子(標準偏回帰係数-0.1、95%CI -3.1 ~ -0.1、p=0.04 )であり、FFPやPCの輸血量には影響を及ぼさないことが確認された。また、死亡を説明変数とした多重ロジスティック回帰分析も行った。CSSはいずれの死因に対しても独立した因子ではなかった。
結論:カルバゾクロムは外傷患者の赤血球輸血量を減少させるが、血管閉塞のリスクは増加させなかった。また、カルバゾクロムは死亡率を低下させなかった。本研究は、外傷による出血の管理に貢献することができるが、カルバゾクロムの効果を明らかにすることを目的としたさらなる研究が必要である.
キーワード:出血、スルホン酸カルバゾクロムナトリウム、出血、トラネキサム酸、輸血、外傷
引用文献
Effect of Carbazochrome Sodium Sulfonate in Addition to Tranexamic Acid in Bleeding Trauma Patients
Yuka Okazaki et al. PMID: 35282544 PMCID: PMC8908800 DOI: 10.7759/cureus.22018
Cureus. 2022 Feb 8;14(2):e22018. doi: 10.7759/cureus.22018. eCollection 2022 Feb.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35282544/
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