原因不明の慢性咳(UCC)を見抜く臨床的特徴とは?― 米国7施設の多施設研究(横断研究; Allergy Asthma Proc. 2025)

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慢性咳嗽の原因とは?

長引く咳(慢性咳嗽)は、喘息やCOPD、後鼻漏、逆流性食道炎など明確な原因を特定できるものが多い一方で、これらの既知疾患がなく、原因不明の慢性咳(unexplained chronic cough:UCC)として分類される症例が一定数存在します。

本研究は、UCCと原因が特定できる慢性咳(explained chronic cough:ECC)を比較し、臨床的に両者を区別するための特徴やリスク因子を明らかにした、多施設横断研究です。


背景

著者らは以前、正常または軽度の肺機能を持ちながら、咳止め薬を頻用する高齢女性ではUCCの可能性が高いことを報告しました。
しかし、UCCを確定的に区別する臨床指標はこれまで明確ではありませんでした。今回の研究では、患者背景、合併症、環境因子などを含め、UCCを特徴づける要素を網羅的に解析しています。


試験結果から明らかになったことは?

◆研究概要

項目内容
研究デザイン多施設横断研究(電子アンケート調査)
実施施設米国7か所の咳嗽専門センター
対象患者慢性咳嗽を有する150名(UCC群29名、ECC群121名)
解析方法単変量解析(t検定・χ²検定)および多変量ロジスティック回帰分析
主要目的UCCをECCから識別する臨床的リスク因子の特定
副次目的咳の重症度に関連する要因の抽出

◆主な結果

分析項目結果統計値・傾向
UCC vs ECCの人数29名(19.3%) vs. 121名(80.7%)
年齢・性別・人種・季節性有意差なし
後鼻漏の有無OR 4.8(95%CI 1.6–15.3)UCCで有意に少ない
咳の重症度に関与する因子UCC患者、慢性気管支炎および/または肺気腫の患者、高血圧、喫煙歴、高BMI、女性、教育水準、および環境刺激物質
環境刺激に対する咳の反応性香水(p=0.006)、洗剤(p=0.01)、芳香剤(p=0.03)、冷気(p=0.007)、タバコ煙(p=0.05)で有意に強いUCC群で咳反射過敏が顕著

◆考察

本研究では、後鼻漏の欠如がUCCを区別する最も顕著な特徴であり、既知の上気道疾患が関与しない咳嗽である可能性を示唆しました。

また、UCC群は環境刺激(香水、冷気、煙など)への感受性が高く、いわゆる「咳過敏症候群(cough hypersensitivity syndrome)」との関連が考えられます。さらに、女性・高BMI・元喫煙者といった背景も多く、気道感作や神経過敏性の関与が推定されます。


◆試験の限界

  • 対象症例数が比較的少なく、特にUCC群は29例と限定的。
  • 自己申告アンケート形式であり、診断や症状の主観的要素を含む。
  • 各施設での評価方法(咳のスコアや画像検査など)が統一されていない。
  • 咳嗽の原因検索における検査(気管支鏡・pHモニタリングなど)は詳細に記載されていない。

◆今後の展望

  • 客観的な咳感受性検査神経性マーカーを用いたUCC診断基準の確立。
  • UCCに対するニューロモジュレーター(例:ガバペンチン、P2X3拮抗薬)の有効性検証。
  • UCCと咳過敏症候群の病態生理学的な連続性の解明。

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◆まとめ

要点内容
主な目的原因不明の慢性咳(UCC)と既知疾患による咳(ECC)の臨床的差異を解析
主要結果「後鼻漏がないこと」がUCCを強く示唆(OR 4.8)
特徴的傾向女性・高BMI・元喫煙者・環境刺激に対して咳が強く誘発される
臨床的意義UCCは「感覚過敏・神経性咳嗽」に近い病態を反映する可能性

慢性咳嗽の原因は特定できないことがあり、対症療法のみとなるケースがあります。このような症例に対して、後鼻漏の有無が原因を特定するための一因になる可能性があります。

症例数が限られていることから再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 米国のアンケート調査の結果、原因不明の慢性咳嗽と原因が明らかな慢性咳嗽の有意な判別因子は後鼻漏であった。原因不明の慢性咳嗽患者、慢性気管支炎および/または肺気腫の患者、高血圧、喫煙歴、高BMI、女性、教育水準、および環境刺激物質(香水 p=0.006、家庭用洗剤 p=0.01、芳香剤 p=0.03、冷気 p=0.007、タバコの煙 p=0.05)に対する反応性が高い患者で咳嗽はより重症であった。

根拠となった試験の抄録

目的: 以前、私たちは、咳止め薬の服用量が多く、医療機関を受診する回数や頻度が多く、肺機能が正常またはほぼ正常である高齢女性は、喘息や慢性閉塞性肺疾患よりも原因不明の慢性咳嗽(UCC)である可能性が高いことを報告しました。本研究では、原因が明らかな慢性咳嗽(ECC)とUCCを区別できる臨床リスク因子を特定することを目的とした。

方法: 米国の7つの咳嗽センターで慢性咳嗽(CC)の患者に、検証済みの電子質問票を配布した。平均±標準誤差、連続変数の頻度(一元配置分析)、カテゴリ変数のクロス集計頻度(二元配置分析)を計算しました。t検定とノンパラメトリック一元配置分析を使用して、UCCとECCの単変量比較を行った。

結果: 合計150名の患者が登録され、そのうち29名がUCC、121名がECCと分類された。家族歴、年齢、性別、人種、季節性によるUCCとECCの鑑別に有意差は認められなかった。多重ロジスティック回帰分析の結果、後鼻漏の有無がUCCとECCの有意な鑑別因子であることが示された(オッズ比4.8、95%信頼区間 1.6-15.3)。咳嗽の重症度は、UCC患者、慢性気管支炎および/または肺気腫の患者、高血圧、喫煙歴、高BMI、女性、教育水準、および環境刺激物質(香水 p=0.006、家庭用洗剤 p=0.01、芳香剤 p=0.03、冷気 p=0.007、タバコの煙 p=0.05)に対する反応性が高い患者でより重症であった。

結論: UCC患者は、ECC患者と比較して、特定の人口統計学的特徴、併存疾患、および環境刺激物質によって引き起こされるより重度の咳嗽を呈する頻度が高かった。これらの臨床的特徴は、UCCの診断を加速させるリスク因子を特定するのに役立つ可能性がある。

引用文献

Multicenter questionnaire study investigating characteristics of adults with unexplained chronic cough versus explained chronic cough
Alisa Gnaensky et al. PMID: 40958184 PMCID: PMC12419969 DOI: 10.2500/aap.2025.46.250065
Allergy Asthma Proc. 2025 Sep 1;46(5):422-430. doi: 10.2500/aap.2025.46.250065.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40958184/

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