抗凝固薬+抗血小板薬の併用は必要か? ― 脳梗塞・心房細動・動脈硬化を併存する患者での評価(Open-RCT; JAMA Neurol. 2025)

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非弁膜症性心房細動(NVAF)と動脈硬化性疾患(ASCVD)併存患者での評価

脳梗塞(またはTIA)を発症し、非弁膜症性心房細動(NVAF)と動脈硬化性疾患(ASCVD)を併存する患者は、再発リスクが極めて高い一方で、抗血栓療法による出血リスクも高い集団です。

このような患者に対して、抗凝固薬単独抗凝固薬+抗血小板薬の併用のどちらが望ましいかは、長年議論されてきました。

今回ご紹介するのは、日本で実施された多施設ランダム化比較試験(RCT)で、この併用療法が本当に臨床的利益をもたらすかを検証した報告です。


試験結果から明らかになったことは?

◆背景

これまでの観察研究や一部サブ解析では、心房細動に動脈硬化性疾患を伴う場合、抗血小板薬の追加で虚血イベントが減る可能性が示唆されていました。しかし、その一方で出血リスクの増加も懸念されており、「両剤併用の純粋な臨床的利益(net clinical benefit)」は明らかになっていませんでした。

本試験は、この未解決の臨床課題に対して、日本全国41施設が参加し、ランダム化後に検証を行ったものです。


◆研究概要

項目内容
研究デザイン多施設・オープンラベル・ランダム化比較試験
実施国日本(41施設)
登録期間2016年11月〜2025年3月
対象者発症8〜360日以内の虚血性脳卒中またはTIA患者で、以下を全て満たす者:
・非弁膜症性心房細動(NVAF)
・少なくとも1つの動脈硬化性疾患(頸動脈・頭蓋内動脈狭窄、非心原性脳梗塞、虚血性心疾患、末梢動脈疾患)
介入抗凝固薬単独 vs 抗凝固薬+抗血小板薬(併用)
主要評価項目2年間の「虚血性心血管イベント+重大出血」の複合アウトカム
副次評価項目虚血性イベント単独、出血イベント(重大および臨床的に意義のある軽度出血)
解析時期2024年4月〜10月(中間解析により早期終了)

◆試験結果(表)

項目併用療法群 (n=159)単独療法群 (n=157)ハザード比 [HR]
(95%CI)
p値
主要複合アウトカム(虚血+出血)17.8%19.6%0.91(0.53–1.55)0.64
虚血性イベントのみ11.1%14.2%0.76(0.39–1.48)0.41
重大+臨床的に意義のある出血19.5%8.6%2.42(1.23–4.76)0.008

出血リスクが有意に増加した一方で、虚血性イベントは減少せず。
純粋な臨床的利益は認められませんでした。


◆試験の限界

  • 試験は中間解析でfutility(有効性の見込みなし)と判断され、早期終了している。
  • 各抗凝固薬(DOACやワルファリン)・抗血小板薬(アスピリン・クロピドグレルなど)の種類・用量は統一されておらず、薬剤差が影響した可能性。
  • 対象患者の平均年齢が77歳と高齢で、出血イベントの絶対リスクが高い集団である。
  • 日本国内のみの試験であり、民族差や医療体制の違いにより国際的な一般化は限定的

◆今後の展望

この結果は、「動脈硬化性病変を合併した心房細動例に抗血小板薬を追加すべきか」という古くて新しい問いに対し、明確な方向性を示しました。

今後は以下の点が検討課題となります:

  • 個別化医療(precision medicine):血小板活性や遺伝子多型に基づく併用適応の選別
  • 短期間のみ併用(数週間〜数ヵ月)の安全性検証
  • 抗血小板薬の種類別(クロピド化グレル vs. アスピリン)による比較研究
  • 画像診断(頸動脈プラーク・冠動脈CT)と臨床転帰の相関解析

◆まとめ

日本の多施設RCTの結果、抗凝固薬+抗血小板薬の併用療法は、抗凝固薬単独に比べて虚血イベントを減らさず、出血リスクを有意に増加させることが示されました。

つまり、この併用は原則として推奨されず、抗凝固薬単独が標準治療であることが再確認されたといえます。
出血リスクの高い高齢者では、特に慎重な薬剤選択と定期的な見直しが求められます。

症例数は限られており、かつ早期終了していることから結果の解釈は慎重に行った方がよいでしょう。

再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 非盲検ランダム化比較試験の結果、虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作と、同時発生している非弁膜症性心房細動およびアテローム性動脈硬化性心血管疾患を有する患者において、抗凝固療法に抗血小板薬を追加しても、抗凝固薬単独療法に比べて純粋な臨床的利益は得られず、出血リスクが高まった。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性: 虚血性脳卒中に加え、非弁膜症性心房細動および動脈硬化性心血管疾患を併発している患者は、虚血性イベントの再発リスクが高くなります。抗凝固療法と抗血小板療法の併用は虚血リスクを低減する可能性がありますが、出血を増加させるため、最適な抗血栓戦略は依然として不明確です。

目的: 抗凝固療法に抗血小板薬を追加すると、虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作と、同時に起こる非弁膜症性心房細動および動脈硬化性心血管疾患の患者における純粋な臨床的利益に影響を及ぼすかどうかを判断する。

試験デザイン、設定、および参加者: 本試験は、2016年11月から2025年3月にかけて、全国41施設で実施された多施設共同、非盲検ランダム化臨床試験である。対象患者は、発症後8日から360日以内の虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作、非弁膜症性心房細動、および少なくとも1つの動脈硬化性心血管疾患(頸動脈または頭蓋内動脈狭窄、非心原性塞栓性脳卒中、虚血性心疾患、または末梢動脈疾患)を有する。データは2024年4月16日から2024年10月14日まで解析された。

介入: 患者は、併用療法(抗凝固薬と抗血小板薬)または抗凝固薬単独療法を受けるように無作為に割り付けられました。

主要評価項目および評価基準: 主要評価項目は、2年以内の虚血性心血管イベントと重篤な出血の複合であった。副次的評価項目には虚血性心血管イベントが含まれ、安全性評価項目には重篤な出血および臨床的に重要な非重篤な出血が含まれた。

結果: 合計316名の患者が併用療法群(n=159)または単剤療法群(n=157)に無作為に割り付けられた(平均年齢 77.2 [SD 7.4]歳、女性90名[28.5%])。試験は無益性の中間解析後、2023年7月18日に終了した。主要評価項目の累積発生率は、併用療法群で17.8%、単剤療法群で19.6%であった(ハザード比[HR] 0.91、95%信頼区間[CI] 0.53-1.55、P=0.64)。併用療法群と単独療法群では、虚血性心血管イベントがそれぞれ 11.1% と 14.2% (HR 0.76、95%CI 0.39-1.48、P=0.41) で発生し、重大な出血と臨床的に重要な非重大出血がそれぞれ19.5%と8.6%(HR 2.42、95%CI 1.23-4.76、P=0.008)で発生しました。

結論と関連性: このランダム化臨床試験では、虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作と、同時発生している非弁膜症性心房細動およびアテローム性動脈硬化性心血管疾患を有する患者において、抗凝固療法に抗血小板薬を追加しても、抗凝固薬単独療法に比べて純粋な臨床的利益は得られず、出血リスクが高まりました。

試験登録: ClinicalTrials.gov 識別子 NCT03062319

引用文献

Optimal Antithrombotics for Ischemic Stroke and Concurrent Atrial Fibrillation and Atherosclerosis: A Randomized Clinical Trial
Shuhei Okazaki et al. PMID: 41051787 DOI: 10.1001/jamaneurol.2025.3662
JAMA Neurol. 2025 Oct 6. doi: 10.1001/jamaneurol.2025.3662. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41051787/

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