はじめに:この論文でわかること
昔から「よく寝る子は育つ」と言われますが、実際に夜間の睡眠時間が子どもの身長に影響するのか、科学的にははっきりしていませんでした。
そこで今回は、日本の全国規模の出生コホート研究(Japan Environment and Children’s Study:JECS)を用いて、1歳半時点の夜間睡眠時間と3歳時点の身長との関連を調べた研究結果をご紹介します。
研究の概要
研究デザイン
- 全国規模の前向き出生コホート研究(Japan Environment and Children’s Study:JECS)
- 対象:在胎週数に適した正期産の単胎児かつ背景疾患のない子ども 52,140人
主要評価項目
- 1歳半時点の夜間睡眠時間と3歳時点の身長(Tall stature)の関連
- Tall statureの定義:3歳時点の身長が同研究参加者の75パーセンタイル以上
睡眠時間の測定方法
- 保護者記入の自己記入式質問票に基づく推定
- 夜間睡眠時間と24時間あたりの総睡眠時間を分けて解析
交絡因子の調整
- 1歳半時点の身長、性別、月齢、母親の身長、きょうだいの有無、受動喫煙、スクリーンタイム、保育園利用、世帯収入、親の学歴など
試験結果から明らかになったことは?
■夜間睡眠時間と身長の関係(Tall statureのオッズ比)
夜間睡眠時間(1.5歳時点) | Tall statureのOR (95%CI) | P値 |
---|---|---|
≦9時間(基準群) | 1.00(参照) | — |
9.5〜10時間 | 1.09(1.01–1.17) | 傾向性P<0.0001 |
10.5〜11時間 | 1.09(1.01–1.17) | 傾向性P<0.0001 |
≥11.5時間 | 1.25(1.14–1.37) | 傾向性P<0.0001 |
- 夜間睡眠時間が長いほど、3歳時点で身長が高くなる傾向(傾向性P<0.0001)
- 一方で、総睡眠時間(昼寝含む)と身長との関連はなし
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◆臨床的意義
この研究は、夜間睡眠の長さが乳幼児の線形成長(身長)に有意に関係していることを、非常に大規模なデータで明らかにした初の報告といえます。
特に注目すべきは、「昼寝込みの総睡眠時間ではなく夜間睡眠時間だけが関連していた」という点です。これは、成長ホルモンが主に深夜のノンレム睡眠中に分泌されるという生理学的知見とも一致します。
◆試験の限界
- 睡眠時間は保護者の自己申告による推定値であり、客観的測定ではない(記憶バイアスの可能性あり)。
- 本研究では身長の上位25%(Tall stature)のみに注目しており、低身長や肥満など他の成長指標への影響は未検討。
- 睡眠の「質」や「途中覚醒の有無」など睡眠の質的側面が評価されていない。
- 成長ホルモン分泌や骨年齢といった生物学的指標との関連は不明。
◆今後の検討課題
- 客観的な睡眠評価(例:アクチグラフやウェアラブルデバイス)を用いた追試が必要。
- 低身長や成長遅延を対象としたリスク因子としての睡眠の役割の検討。
- 成長ホルモン分泌・食事・運動・親の生活習慣などの包括的要因との相互作用の解析。
- 夜間の睡眠時間と精神・認知発達との関連評価。
本研究結果のみで、夜間の睡眠時間の長さが幼児の高身長に影響するとは言い切れません。特に夜間睡眠時間の区分が30~60分刻みであるのに対して、睡眠時間の長さは保護者記入の自己記入式質問票に基づく推定です。したがって、想起バイアス(記憶バイアス、思い出しバイアス)を排除しきれないことから、30~60分の誤差は充分に生じる可能性があります。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 日本のコホート研究の結果、幼児の直線的成長において、総睡眠時間ではなく夜間の睡眠時間の重要性が示唆された。
根拠となった試験の抄録
背景: 夜間の十分な睡眠時間は子供の身長の成長に有益であると考えられてきましたが、睡眠時間とその後の身長の成長との関連性については、限られた矛盾した証拠しかありません。
目的: 1.5歳時の睡眠時間と3歳時の身長の関係を調査する。
方法: 全国規模の前向き出生コホート研究である「The Japan Environment and Children’s Study:エコチル調査(JECS)」。本研究では、在胎週数に見合った出生で、成長に影響を与える可能性のある背景疾患のない正期産単胎児52,140例のデータを対象とした。夜間睡眠時間と総睡眠時間は、養育者による自記式質問票に基づいて算出した。高身長は、参加者の身長が75パーセンタイル以上と定義した。
結果: 1.5歳時の身長、性別、月齢、母親の身長、1.5歳時の兄弟姉妹の有無、1.5歳時の環境性タバコ煙、2歳時の毎日のテレビ/DVD視聴時間、2歳時の保育所の在籍状況、出生時の世帯年収、および両親の教育状況で調整後、1.5歳時の夜間睡眠時間が9.5時間または10時間の場合、10.5時間または11時間の場合、および11.5時間以上の場合の3歳時の高身長の多変量オッズ比(95%信頼区間)は、それぞれ1.09(1.01-1.17)、1.09(1.01-1.17)、および1.25(1.14-1.37)であり、睡眠時間が9時間以下の場合と比較して有意に高かった(傾向性P<0.0001)。総睡眠時間は高身長との関連は認められなかった。
結論: この研究は、幼児の直線的成長において、総睡眠時間ではなく夜間の睡眠時間の重要性を強調しています。
キーワード: 出生コホート、身長、子供、夜間の睡眠時間
引用文献
Association of Nighttime Sleep Duration at 1.5 Years With Height at 3 Years: The Japan Environment and Children’s Study
Masanobu Kawai et al.
J Clin Endocrinol Metab. 2025 May 19;110(6):e1866-e1873. doi: 10.1210/clinem/dgae647.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39288009/
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