ボノプラザンとクロストリジオイデス・ディフィシル感染症CDIの関連性は?(不均衡解析; Ther Adv Drug Saf. 2024)

yellow fragments 04_消化器系
Photo by Amornthep Srina on Pexels.com
この記事は約7分で読めます。
ランキングに参加しています!応援してもよいよという方はポチってください!

ボノプラザンもClostridioides difficile感染症のリスクとなるのか?

Clostridioides difficile感染症(CDI)は、抗菌薬や酸分泌抑制薬の使用により腸内環境が乱れることで発症しやすくなると知られています。プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用とCDIとの関連性については多くの報告がありますが、カリウムイオン競合型酸分泌抑制薬(P-CAB)であるボノプラザン使用との関連性については明らかとなっていません。

そこで今回は、日本のJADERおよび米国のFAERSという2つの薬剤有害事象データベースを用いて、ボノプラザンとPPIによるCDI発症リスクの違いを解析した研究結果をご紹介します。

とくに高齢者における影響や、ピロリ菌感染の有無を除外した解析も実施されており、リアルワールドにおける薬剤安全性に関する重要な示唆を含んでいます。


研究の概要

研究デザイン

  • 後ろ向きデータベース解析
  • JADER(日本の医薬品有害事象報告)およびFAERS(米国FDAの有害事象報告)を用いた不均衡解析
  • CDI(クロストリジオイデス・ディフィシル感染症)と酸分泌抑制薬の関連性を評価

評価方法

  • Reporting Odds Ratio(ROR)と95%信頼区間(CI)を用いたシグナル検出
  • RORの95%CIの下限値が1を超える場合、統計的に有意な関連があると判断

対象薬剤

  • ボノプラザン(P-CAB)
  • PPI(プロトンポンプ阻害薬)

試験結果から明らかになったことは?

■ JADER(日本)での解析結果

薬剤ROR(95%CI)統計的有意性
ボノプラザン15.84(12.23–20.50)有意なシグナルあり
PPI2.51(1.92–3.28)有意なシグナルあり

高齢者(60歳以上)に限定した場合:

薬剤高齢者のROR(95%CI)
ボノプラザン15.35(11.59–20.33)
PPI1.65(1.14–2.39)

■ FAERS(米国)での解析結果

薬剤ROR(95%CI)
ボノプラザン11.50(6.36–20.82)
PPI1.42(1.34–1.51)

高齢者に限定した場合:

薬剤高齢者のROR(95%CI)
ボノプラザン12.56(6.26–25.20)
PPI1.43(1.31–1.57)

コメント

◆臨床的意義

ボノプラザンは、PPIよりも速やかかつ強力な胃酸分泌抑制効果を示すため、腸内環境への影響もより顕著になる可能性が考えられています。

本研究では、日本と米国の薬剤有害事象データベースを用いて、CDIとの関連性を比較的高精度に評価した結果、いずれのデータベースにおいてもボノプラザンの方がPPIよりも高い関連性を示すシグナルが検出されました。

特に高齢者におけるリスクが顕著であることから、処方の際にはリスク・ベネフィットの再検討が必要といえるでしょう。ただし、不均衡解析であることから、実際のCDI発症リスクがどの程度なのかは不明であり、実臨床における検証が求められるところです。


◆試験の限界

  • 自発報告データベース(JADER/FAERS)は報告の偏り(報告バイアス)や重複報告の可能性がある
  • CDI発症との因果関係を直接証明するものではなく、あくまで「シグナルの有無」を評価する手法である(観察研究に類似)
  • 患者の併用薬・基礎疾患・入院状況・抗菌薬の使用歴などの情報が不完全であり、交絡因子の影響が排除できない。
  • ボノプラザンの使用期間が比較的短いため、長期的なリスクは十分に評価されていない可能性がある

◆今後の検討課題

  • ボノプラザン使用群におけるCDI発症リスクを前向きに検証するコホート研究やRCTの実施。
  • PPIとの直接比較研究(作用時間、腸内細菌叢への影響、合併症リスク)のさらなる蓄積。
  • 高齢者・免疫抑制患者・長期療養者などハイリスク群での使用制限や予防的対策の検討
  • プロバイオティクスや腸内フローラモニタリングとの併用効果の評価

◆まとめ

  • 本研究は、JADERとFAERSという2つの国際的な薬剤安全性データベースを用いて、ボノプラザンとPPIのCDIとの関連性を比較しました。
  • いずれのデータベースでも、ボノプラザンはPPIよりも強いCDI関連のシグナルを示すことが明らかになりました。
  • 高齢者では特に注意が必要であり、今後の前向き研究による因果関係の確定が待たれます

本研究結果をもって、ボノプラザンの使用とCDI発症リスク増加との間に、何らかの関連性があるとは断定できません。より大規模な症例数を組み入れての観察研究が求められます。

続報に期待。

young amazed woman in casual wear covering mouth while keeping secret

✅まとめ✅ 日本と米国の有害事象自発報告データベースを用いた不均衡解析の結果、ボノプラザンとクロストリディオイデス・ディフィシル感染症(CDI)発症との間にシグナルが検出された。

根拠となった試験の抄録

背景: 制酸薬の長期または過剰使用は、腸内微生物叢を変化させ、クロストリディオイデス・ディフィシル感染症(CDI)のリスクを高める可能性がある。新規カリウム競合性制酸薬であるボノプラザンは、プロトンポンプ阻害薬(PPI)よりも速く持続的な制酸効果を示す。そのため、ボノプラザンは腸内細菌叢に大きな影響を与え、CDIを引き起こす可能性がある。

目的: 本研究は、日本医薬品有害事象報告 (JADER) および FDA 有害事象報告システム (FAERS) データベースによって、制酸剤と CDI の潜在的な関係を調査することを目的としました。

試験デザイン: JADER および FAERS データベースの遡及的分析を不均衡分析によって調査しました。

方法: JADERおよびFAERSデータベースを用いて、ボノプラザンおよびPPIによるCDIのシグナル検出解析を行った。制酸薬とCDIの関連性は、報告オッズ比(ROR)と対応する95%信頼区間(95% CI)を用いて算出した。95% CIの下限を1超える場合、関連性は統計的に有意であると判断された。

結果: JADERデータベースでは、被疑薬報告に基づくボノプラザンとPPIのROR(95%信頼区間)はそれぞれ15.84(12.23-20.50)、2.51(1.92-3.28)であった。FAERSデータベースでは、一次および二次被疑薬報告に基づくボノプラザンとPPIのROR(95%信頼区間)はそれぞれ11.50(6.36-20.82)、1.42(1.34-1.51)であった。サブグループ解析では、60歳以上の高齢患者がCDIとの関連がより強いことが示された。 JADERデータベースにおける60歳以上の患者におけるボノプラザンとPPIのROR(95% CI)は、それぞれ15.35(11.59-20.33)、1.65(1.14-2.39)であった。同様に、FAERSデータベースにおけるボノプラザンとPPIのROR(95% CI)は、それぞれ12.56(6.26-25.20)、1.43(1.31-1.57)であった。ヘリコバクター・ピロリH. pylori)感染の影響を除外しても、制酸薬の使用は依然としてCDIと関連していた。

結論: JADERおよびFAERSデータベースに基づくシグナル検出解析では因果関係を立証できなかったものの、本研究ではボノプラザンとPPIはともにCDIと有意な関連があることが示された。ボノプラザンは両データベースにおいてCDIとのより強い関連を示した。

キーワード: クロストリディオイデス・ディフィシル感染症、FDA 有害事象報告システム、日本の医薬品有害事象報告、プロトンポンプ阻害薬、ボノプラザン

引用文献

Vonoprazan-associated Clostridioides difficile infection: an analysis of the Japanese Adverse Drug Event Report and the FDA Adverse Event Reporting System
Mengling Ouyang et al. PMID: 39091466 PMCID: PMC11292713 DOI: 10.1177/20420986241260211
Ther Adv Drug Saf. 2024 Jul 31:15:20420986241260211. doi: 10.1177/20420986241260211. eCollection 2024.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39091466/

コメント

タイトルとURLをコピーしました