はじめに:この論文でわかること
ドライアイ(Dry Eye Disease: DED)は日常的に遭遇する目の不調の一つで、薬剤師や医療従事者が関わる機会も多い疾患です。いくつかの点眼薬が販売されていますが、その有効性や安全性の比較データは限られています。
そこで今回ご紹介するのは、ジクアホソルナトリウム点眼液(3%)とヒアルロン酸ナトリウム点眼液(0.1%)を比較したメタ解析の論文です。
この研究では、ジクアホソルが複数の評価指標においてヒアルロン酸より有効である可能性が示されました。一方で、有害事象の発生率には注意が必要です。
研究の概要
研究デザイン
システマティックレビューおよびメタ解析(対象はRCT)
対象
ドライアイ患者 1,295例を対象とした9件のランダム化比較試験(RCT)
比較対象
- 介入群:ジクアホソルナトリウム点眼液(3%)
- 対照群:ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(0.1%)
試験結果から明らかになったことは?
主要アウトカムの結果は以下の通りです。
評価指標 | 平均差(MD)またはオッズ比(OR) | 95%信頼区間 | p値 | I²(異質性) |
---|---|---|---|---|
OSDIスコア* | MD -3.59 | -4.68 ~ -2.50 | <0.001 | 6% |
Schirmer試験 | MD 1.08 mm | 0.41 ~ 1.76 | 0.002 | 0% |
BUT(涙液破壊時間) | MD 0.60秒 | 0.20 ~ 0.99 | 0.003 | 63% |
角膜フルオレセイン染色スコア | MD -0.20 | -0.37 ~ -0.03 | 0.02 | 58% |
ローズベンガル染色スコア | MD -0.62 | -0.88 ~ -0.35 | <0.001 | 15% |
有害事象(全体)** | OR 1.71 | 1.08 ~ 2.71 | 0.02 | 18% |
*ドライアイの症状評価に用いられる自己記入式の質問票で、主に以下の3つの側面を評価します:
評価項目(全12問)
環境要因への反応
例:風に当たるとつらい、エアコン環境で悪化するなど
視覚症状(症状スコア)
例:目の乾燥感、異物感、痛みなど
視機能障害(視覚関連の生活支障)
例:読書、夜間運転、パソコン作業中の不快感など
**重篤な有害事象の報告はありませんでした。
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◆臨床的意義◆
ドライアイ治療において、ヒアルロン酸は一般的に用いられている保湿・保護目的の点眼薬ですが、ジクアホソルはP2Y2受容体作動薬として涙液分泌とムチン分泌の両方を促進するメカニズムを持ちます。
今回のメタ解析では、ジクアホソルが複数の評価指標でヒアルロン酸を上回る効果を示しており、特にOSDIスコア(自覚症状)と涙液分泌量の改善は臨床的にも意義があるといえるでしょう。
一方で、有害事象の発現頻度が有意に高かった点は留意が必要です。点眼に伴う刺激感や違和感などの報告が含まれている可能性が考えられます。
◆試験の限界◆
- 各RCTにおいて用量や投与頻度、評価タイミングが異なるため、完全な一貫性は担保されていません。
- BUTや染色スコアに関しては中等度の異質性(I² ≧50%)がみられ、結果のばらつきがある点に注意が必要です。
- 長期的な有効性・安全性のデータが不足しており、慢性的な使用に関するエビデンスは限定的です。
◆今後の検討課題◆
- 長期投与における有効性と安全性の追跡研究が求められます。
- 各種ドライアイの病型(涙液減少型 vs. 蒸発亢進型)に対する個別の効果検証が必要です。
- 実臨床における患者満足度や継続使用率などのアウトカムも今後の重要な指標となります。
◆まとめ◆
- ジクアホソル点眼液(3%)は、ドライアイ治療においてヒアルロン酸(0.1%)より複数の指標で有効性が高いことが示されました。
- 一方で、有害事象の発生率は高く、長期安全性については今後の検証が必要です。
- ドライアイ治療の選択肢として、作用機序・患者背景を踏まえて処方を考慮することが望まれます。
解析に組み入れられた試験数および患者数が限られていることから、今後の検証結果により結果が覆る可能性は充分にあります。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 9件のランダム化比較試験の結果、ドライアイ患者に対するジクアホソル3%の局所治療は、0.1%ヒアルロン酸よりも効果的である可能性が示された。
試験結果から明らかになったことは?
背景: ジクアホソルは眼表面における水分移動とムチン分泌を促進する作用があり、ドライアイ(dry eye disease, DED)の有効な治療薬として示唆されている。本システマティックレビューおよびメタアナリシスの目的は、DEDに対するジクアホソル点眼薬とヒアルロン酸(hyaluronic acid, HA)点眼薬の有効性と安全性を比較することであった。
方法: PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Scienceなどの電子データベースを検索し、関連するランダム化比較試験を入手した。潜在的な異質性の影響を考慮した上で、ランダム効果モデルを用いて結果を統合した。
結果: 合計1295人のDED患者を対象とした9件のRCTがメタ分析に含まれました。HA0.1%による治療と比較して、ジクアホソル3%による局所治療では、眼表面疾患指数(平均差(MD):- 3.59、95% 信頼区間(CI) -4.68 ~ -2.50、p<0.001、I2=6%)、Schirmer’s testの結果(MD:1.08 mm、95%CI 0.41 ~ 1.76、p=0.002、I2=0%)、涙液破壊時間(MD 0.60秒、95%CI 0.20 ~ 0.99、p=0.003、I2=63%)、角膜フルオレセイン染色スコア(MD -0.20、95%CI -0.37 ~ -0.03、p=0.02、I2=58%)、眼のローズベンガル染色スコア(MD -0.62、95%CI -0.88 ~ -0.35、p<0.001、I2=15%)が有意に改善した。重篤な有害事象は報告されなかった。ジクアホソルの局所使用は、ヒアルロン酸(HA)と比較して、全体的な有害事象のリスクが高かった(オッズ比 1.71、95%CI 1.08 ~ 2.71、p=0.02、I2=18%)。
結論: DED患者に対するジクアホソル3%の局所治療は、0.1%ヒアルロン酸よりも効果的である可能性がある。しかし、ジクアホソルの長期的な有効性と忍容性については、まだ明らかにされていない。
キーワード: ジクアホソル、ドライアイ疾患、有効性、ヒアルロン酸、メタ分析
引用文献
Topical diquafosol versus hyaluronic acid for the treatment of dry eye disease: a meta-analysis of randomized controlled trials
Xiaonan Sun et al. PMID: 37162564 DOI: 10.1007/s00417-023-06083-4
Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2023 Dec;261(12):3355-3367. doi: 10.1007/s00417-023-06083-4. Epub 2023 May 10.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37162564/
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