◆ はじめに:発酵食品「納豆」に長寿効果はあるのか?
発酵大豆食品として日本で親しまれている納豆。健康食品としてのイメージも強く、骨粗鬆症予防や動脈硬化の改善など、多くの効果が語られてきました。しかし、実際に「納豆を食べる人は長生きするのか?」という点を、長期間にわたって科学的に検証した研究は多くありませんでした。
今回ご紹介するのは、65歳以上の高齢男性を対象に、納豆の摂取量と死亡率の関係を15年間追跡調査した日本の前向きコホート研究です。
◆ 試験結果から明らかになったことは?
この研究では、2,174人の高齢男性のうち2,012人がベースライン調査を完了し、最終的に1,548人を解析対象としました。
🔍 主な研究結果まとめ
分析項目 | 納豆摂取頻度と全死因死亡率の関係(Cox回帰分析) |
---|---|
納豆を「まったく食べない」群と比較 | |
週に数パック食べる群 | HR 0.603(95%CI 0.441–0.825) |
1日1パック以上食べる群 | HR 0.786(95%CI 0.539–1.145) |
長期的に継続して週に数パック以上食べていた群 | HR 0.700(95%CI 0.507–0.966) |
週に数回以上納豆を食べる習慣がある高齢男性では、全死亡率が有意に低下していたことが分かりました。
◆ 解説:なぜ納豆が寿命を延ばすのか?
納豆にはナットウキナーゼ、ビタミンK2、イソフラボンなど、血液サラサラ効果や骨代謝改善効果をもつ成分が豊富に含まれています。これらは心血管疾患や骨粗鬆症など、高齢者に多い疾患の予防に寄与するとされており、それが死亡率の低下につながった可能性が示唆されます。
また、納豆はたんぱく源であると同時に食物繊維や発酵由来の善玉菌も含むことから、腸内環境改善による免疫調整なども期待されます。
◆ 臨床的意義:高齢者にとっての“毎日の納豆”の価値
この研究は以下の点で臨床・実生活に示唆を与えます:
- 納豆の週数回以上の摂取習慣が、長期的に死亡リスクを低下させる可能性がある
- 特に「継続して食べ続けること」が重要
- 高齢男性における簡便で安価な健康習慣として推奨の可能性
ただし、「1日1パック以上」の摂取では統計的に有意な低下は示されなかったことから、過剰摂取がより効果的とは限らない点には注意が必要です。
◆ 試験の限界と今後の課題
この研究にはいくつかの制限もあります。
- 因果関係は証明されていない
観察研究であるため、「納豆を食べていたこと」が死亡リスクを下げたと断言はできません。 - 他の健康的な生活習慣との交絡の可能性
納豆を食べる人は、全体的に健康意識が高い生活をしている可能性があり、その影響を完全に除くことは困難です。 - 対象は高齢男性に限定されている
女性や若年層、他国の人々に結果が当てはまるかは今後の研究が必要です。
◆ おわりに:納豆習慣がもたらす可能性
今回の研究は、長期的かつ継続的な納豆摂取が、高齢男性の死亡リスクを下げる可能性を示した貴重な疫学的データです。
「今日も納豆を食べよう」——そんな毎日の積み重ねが、健やかな老後につながるかもしれません。
しかし、あくまでも相関関係が示されたに過ぎません。再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 日本の前向きコホート研究の結果、習慣的に納豆を多く摂取すること、特に長期にわたる摂取は、高齢男性の全死亡リスクの低下と関連していた。
根拠となった試験の抄録
背景と目的: 発酵大豆食品には様々な形態があり、それぞれが死亡率に及ぼす影響は異なります。しかし、個々の発酵大豆製品の摂取が死亡率に及ぼす影響を調査した疫学研究はほとんどありません。本研究は、地域在住の高齢男性を対象に、発酵大豆である納豆の摂取と全死亡率との関連を約15年間の追跡調査で調査することを目的としました。
方法: 本前向きコホート研究には、65歳以上の男性2,174名が参加し、うち2,012名がベースライン調査を完了した。5年後と10年後に追跡調査を実施し、死亡率をアウトカムとした。試験参加者は乳製品納豆の摂取に関する質問票に回答した。納豆摂取と全死亡率との関連について、Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)を算出した。
結果: 最終解析対象集団は1548名の男性であった。平均追跡期間12.0年(18553.3人年)の間に、430名の死亡が確認された。納豆を「全く摂取していない」群と比較した場合、「週に数パック」および「1日に1パック以上」群のHRは、それぞれ0.603(95%信頼区間(CI)0.441~0.825)、0.786(95%CI 0.539~1.145)であった。「ベースラインと初回追跡調査の両方で摂取していない」群と比較した場合、「ベースラインと初回追跡調査の両方で週に数パック、1日に1パック、または両方で週に数パック」群のHRは0.700(95%CI 0.507~0.966)であった。
結論: 習慣的に納豆を多く摂取すること、特に長期にわたる摂取は、高齢男性の全死亡リスクの低下と関連していた。
キーワード: 高齢者、疫学、発酵大豆、男性、死亡率
引用文献
A 15-year cohort study of self-reported fermented soybean (natto) intake and all-cause mortality in elderly men
Yuki Fujita et al. PMID: 40516860 DOI: 10.1016/j.clnesp.2025.06.017
Clin Nutr ESPEN. 2025 Jun 13:68:699-706. doi: 10.1016/j.clnesp.2025.06.017. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40516860/
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