地域在住高齢者における減薬介入は本当に有効なのか?(SR&MA; JAMA Netw Open. 2025)

medication pills on yellow background ポリファーマシー 多剤併用 polypharmacy
Photo by Anna Shvets on Pexels.com
この記事は約6分で読めます。
ランキングに参加しています!応援してもよいよという方はポチってください!

◆ はじめに:なぜ今「減薬」が注目されているのか?

高齢化が進む現代社会において、ポリファーマシー(多剤併用)や潜在的に不適切な薬物(PIMs)の問題はますます深刻になっています。薬剤が多ければ多いほど、有害事象のリスクは高まり、患者のQOLやアドヒアランスにも悪影響を及ぼすことが知られています。

そこで注目されているのが、「減薬(デプレスクライビング)」というアプローチです。

今回ご紹介する研究は、地域在住の高齢者を対象とした減薬介入の有効性をメタ解析の結果です。


試験結果から明らかになったことは?

◆ 研究の概要

  • 研究デザイン:RCTに限定したシステマティックレビューおよびメタ解析
  • 対象:地域在住の高齢者(複数施設)
  • アウトカム:① 処方薬数の変化 ② 少なくとも1剤のPIMが処方されている割合

◆ 主な結果

🔍 統合解析の結果

評価項目結果
総処方薬数の変化(平均差)-0.14剤(95%CI -0.27 ~ -0.01)
少なくとも1剤のPIMがある割合OR 0.92(95%CI 0.74~1.14)
  • 処方薬数はわずかだが有意に減少
  • 一方、PIMが1剤以上処方されている割合は統計的に有意な変化なし

つまり、全体として「微小ながら統計的に有意な効果がある」ことが示されたものの、個々の臨床現場での実感には乏しい可能性がある、という点がポイントです。


コメント

◆ 解説:この結果にどう向き合うのか?

「1人あたり0.14剤の減少」と聞くと、効果が小さいと感じるかもしれません。しかしこの研究の意義は、集団レベルで考えると無視できない影響があるという点にあります。

例えば、1,000人の高齢者に減薬介入を行えば、140剤分の薬が減る計算になります。これは有害事象の抑制や医療費削減にもつながる可能性があるため、公衆衛生的な観点では価値があるといえるでしょう。


◆ 臨床的意義:薬剤師・医療者がとった方が良いアクションは?

  • 処方数を少しでも減らす努力が集団としての安全性に寄与する
  • 減薬の成功には、チーム医療や患者教育の質が重要
  • PIMの削除に向けては、定期的な薬剤レビューと多職種連携が不可欠

◆ 試験の限界と注意点

項目内容
効果の大きさ個人レベルでは極めて小さいため、臨床的有用性の判断に注意が必要
PIMの定義と評価使用されたPIM基準や評価方法にばらつきがある可能性
介入内容の異質性減薬介入の具体的な方法(例:薬剤師主導、医師主導など)が研究によって異なる
追跡期間多くの研究が短期的アウトカムに限られており、長期的な効果は未評価

◆ おわりに:減薬は“地道な積み重ね”がカギ

この研究は「減薬にどれだけの意味があるのか?」という問いに対して、限定的ながらも肯定的なエビデンスを提供しています。特に、薬剤師・看護師・医師など多職種による介入が、今後のポリファーマシー対策の中核となるでしょう。

「少しずつでも減らす」ことが、未来の薬物療法の安全性につながります。

一方で患者QOLなどの幸福度の評価について言及されていません。減薬介入は一時的に効果が得られても持続しないことが、多くの研究結果で報告されています。持続的な介入効果を得るために、介入効果を評価するためにも医療を受ける側の変化についても把握していきたいところです。

続報に期待。

arrow formation of different kind of pills

✅まとめ✅ システマティックレビュー・メタ解析の結果、域在住高齢者における減薬介入がPIMsおよび服薬数の減少と関連していることを示す、中等度の確実性のエビデンスが得られた。個人レベルでの関連は非常に小さかったものの(-0.14剤)、地域在住高齢者における多剤併用およびPIMsの有病率の高さを考慮すると、集計された集団レベルではアウトカムは大きい可能性がある。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性: 減薬(デプレスクライビング、Deprescribing)は、多剤併用療法(polypharmacy)と潜在的に不適切な薬剤(potentially inappropriate medications, PIMs)を減らすことで患者の安全性とケアの質を向上させ、ひいては薬物有害事象の減少につながる可能性があります。外来診療における減薬介入の有効性については、依然として疑問が残っています。

目的: 地域在住高齢者における服薬数およびPIMsの削減と減薬介入との関連性を明らかにする。

データソース: 含まれている研究は、2019年1月から2024年7月26日までにPubMedとCochrane Libraryに公開された英語のヒト研究であり、結果は参考文献マイニングと専門家の協議によって補足されました。

研究の選択: 研究は、専らまたは主に減薬に関するものであり、地域在住の成人を対象とし、複数の場所で実施され、ランダム化試験設計を使用し、主要または副次的結果について報告されている場合に適格とされました。

データの抽出と統合: 2名の著者が研究デザイン、介入特性、対象集団特性、および追跡調査について抽出しました。アウトカムは統計学者によって抽出され、第2著者によって確認されました。メタ解析は、Hartung-Knapp-Sidik-Jonkman法を用いてランダム効果を用いて実施されました。本研究は、体系的レビューおよびメタアナリシスにおける推奨報告項目(PRISMA)基準に従って報告されました。

主要アウトカムと評価基準: 主要アウトカムはPIMsの数または薬剤の総数であり、副次的アウトカムは少なくとも1つのPIMが処方された人の割合であった。

結果: 2名の著者が独立して、PubMedとCochraneから1,586タイトル、その他の情報源から33タイトルをスクリーニングし、321件の抄録と133件の全文研究をさらにレビューし、議論を通じて不一致を解消し、18の出版物から17件の研究を選出した。主要評価項目解析では、複数の薬剤を標的とした介入研究8件を特定した。ランダム効果プール解析では、処方された薬剤の平均差は-0.14(95%信頼区間 -0.27 ~ -0.01)であることが判明した。副次評価項目解析では、複数の薬剤を標的とした介入研究6件を特定した。ランダム効果プール解析では、少なくとも1つのPIMを処方された人の割合に有意な減少は確認されなかった(オッズ比 0.92、95%信頼区間 0.74~1.14)。

結論と関連性: 本システマティックレビューとメタ解析では、地域在住高齢者における減薬介入がPIMsおよび服薬数の減少と関連していることを示す、中等度の確実性のエビデンスが得られた。個人レベルでの関連は非常に小さかったものの、地域在住高齢者における多剤併用およびPIMsの有病率の高さを考慮すると、集計された集団レベルではアウトカムは大きい可能性がある。

引用文献

Deprescribing in Community-Dwelling Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis
Amy M Linsky et al. PMID: 40338546 PMCID: PMC12062908 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2025.9375
JAMA Netw Open. 2025 May 1;8(5):e259375. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2025.9375.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40338546/

コメント

タイトルとURLをコピーしました