心不全患者にβ遮断薬を使う難しさ
慢性心不全(CHF)の治療において、β遮断薬(カルベジロールなど)の使用は必須ですが、気道病変を有する患者では慎重な投与が求められます。
特に、COPDや喘息を合併する患者では、β遮断薬が気管支収縮を引き起こすリスクがあり、安全性が懸念されます。
カルベジロールはβ1およびβ2受容体遮断作用を持つため、特に喘息患者では禁忌とされる一方、COPD患者には慎重投与が推奨されています。
しかし、実際の臨床現場では、CHF患者がCOPDや喘息を合併しているケースは少なくなく、安全性データが限られていました。
本研究は、CHFとCOPDまたは喘息を併発した患者に対するカルベジロールの忍容性と効果を評価することを目的としています。
試験結果から明らかになったことは?
試験デザインと対象
項目 | 内容 |
---|---|
研究デザイン | 観察研究(オープンラベル) |
対象者 | CHF患者487名(COPD併発31名、喘息併発12名) |
評価項目 | 呼吸機能(FEV1、PEFR)、カルベジロールの忍容性、左室リモデリング |
試験期間 | 1996~2000年 |
投与方法 | カルベジロール開始(入院中に60%が投与開始) |
フォローアップ期間 | 平均2.5年 |
主な結果
呼吸機能への影響
疾患群 | FEV1 (%予測) | FEV1/FVC (%) | PEFR (L/min) | PEFR変化率 | 忍容性 |
---|---|---|---|---|---|
COPD患者 | 62% ± 13% | 62% ± 8% | 325 ± 115 | +17%(p=0.04) | 84%が忍容 |
喘息患者 | 80% ± 17% | 74% ± 11% | 407 ± 161 | 変化なし | 50%が忍容不可 |
- COPD患者では、カルベジロール投与後にPEFRが17%改善(p = 0.04)
- 喘息患者ではPEFRに有意な変化なし
- COPD患者の84%がカルベジロールを忍容できたが、喘息患者では50%が忍容不可であった
心機能への影響(生存者のみ、12か月時点)
指標 | ベースライン | 12か月後 | P値 |
---|---|---|---|
左室拡張末期径(LVEDD) | 76 ± 11 mm | 72 ± 14 mm | 0.01 |
左室収縮末期径(LVESD) | 65 ± 13 mm | 60 ± 15 mm | 0.01 |
短縮率(FS) | 14% ± 7% | 17% ± 7% | 0.05 |
- 左室リモデリングが改善し、収縮能が向上した(短縮率:14%→17%)
- 2.5年後の生存率は72%
コメント
COPD患者ではカルベジロールが比較的安全
COPD患者では、カルベジロールが気道収縮を引き起こさず、安全に使用可能であることが示されました。
特に、PEFRが改善している点は注目に値し、β2受容体遮断作用の影響が少なかったと考えられます。
喘息患者ではリスクが大きい
一方で、喘息患者の半数はカルベジロールを忍容できず、喘息発作(喘鳴)などの理由による中止がみられました。
β2受容体遮断が直接気管支収縮を引き起こした可能性があり、喘息患者には引き続き禁忌とされます。
実臨床への提言
- COPD合併CHF患者にはカルベジロールを慎重に導入し、呼吸機能をモニタリングすることが重要
- 喘息合併患者には使用を避けるべき
- 心機能改善効果が確認されているため、適応患者に対しては有用

✅まとめ✅ 観察研究の結果、CHFとCOPDを併発している患者では、カルベジロールが安全かつ忍容性が高いことが示された。特に、呼吸機能(PEFR)が有意に改善し、気道収縮のリスクが低いと考えられた。一方で、CHFと喘息を併発している患者ではカルベジロールの忍容性が低く、喘鳴を誘発しやすいため注意が必要である。
根拠となった試験の抄録(日本語訳)
背景:うっ血性心不全(CHF)患者の中には、気道疾患を合併している人が少なくない。しかし、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を持つ患者におけるカルベジロールの忍容性については、これまでほとんど報告がない。
本研究では、CHF患者でCOPDまたは喘息を併発している症例におけるカルベジロールの忍容性と有効性を評価した。
方法:1996年から2000年の期間に、合計487名のCHF患者がオープンラベルでカルベジロールの投与を開始した。そのうち、43名(9%)はCOPD(31名)または喘息(12名)を合併していた。全ての患者で臨床診断をスパイロメトリーにより確認し、71%の患者では完全な肺機能検査を実施した。
患者の60%は入院中にカルベジロールを開始し、投与前後のピーク呼気流量(PEFR)を測定した。
呼吸機能評価として、1秒量(FEV1)、1秒率(FEV1/FVC)、および気管支拡張薬使用後の可逆性を評価した。
結果:
【COPD患者の呼吸機能】
- 平均FEV1:62% ± 13%(予測値)
- 可逆性:4% ± 4%(気管支拡張薬使用後)
- FEV1/FVC:62% ± 8%
- 平均PEFR(カルベジロール投与前):325 ± 115 L/min
- 投与2時間後のPEFR変化:+17%(p = 0.04)
カルベジロールは、COPD患者の84%で安全に導入されたが、1名(3%)が喘鳴(wheezing)のため治療中止となった。
【喘息患者の呼吸機能】
- 平均FEV1:80% ± 17%(予測値)
- 可逆性:13% ± 7%(気管支拡張薬使用後)
- FEV1/FVC:74% ± 11%
- 平均PEFR(カルベジロール投与前):407 ± 161 L/min
- 投与2時間後のPEFR変化:変化なし
喘息患者では、カルベジロールの忍容性が低く、**12名中6名(50%)**が治療中止となった。
心機能評価(カルベジロール治療後、12か月時点)
生存者の心機能改善が確認された。
- 左室拡張末期径(LVEDD):76 ± 11 mm → 72 ± 14 mm(p = 0.01)
- 左室収縮末期径(LVESD):65 ± 13 mm → 60 ± 15 mm(p = 0.01)
- 左室短縮率(FS):14% ± 7% → 17% ± 7%(p = 0.05)
- 2.5年生存率:72%
結論:CHFとCOPDを併発している患者では、カルベジロールが安全かつ忍容性が高いことが示された。特に、呼吸機能(PEFR)が有意に改善し、気道収縮のリスクが低いと考えられた。一方で、CHFと喘息を併発している患者ではカルベジロールの忍容性が低く、喘鳴を誘発しやすいため注意が必要である。
本研究では、カルベジロールが左室リモデリング改善効果を示し、心機能改善に寄与することが確認された。COPD合併CHF患者では、カルベジロールを安全に使用できる可能性が示唆されたが、喘息患者に対しては依然として禁忌であると結論付けられる。
引用文献
Tolerability of Carvedilol in Patients With Congestive Heart Failure and Chronic Obstructive Pulmonary Disease
Bristow MR, et al.
PMID: 12490274
Am Heart J. 2002 Dec;144(6):1077-82. doi:10.1067/mhj.2002.125416
ー 続きを読む:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12490274/
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