聴力低下が高齢者の健康に与える影響とは?
高齢者における聴力低下は、コミュニケーションの障害だけでなく、認知機能の低下、社会的孤立、うつ症状、さらには転倒リスクの増加など、さまざまな健康問題と関連しています。しかし、聴力低下への介入は専門職に限られ、アクセスの難しさやコストの問題から、充分な対応がなされていないのが現状です。
そこで今回は、看護師が主導する聴力管理介入が、高齢者の健康アウトカムにどのような影響を与えるかを検討したランダム化比較試験(RCT)をご紹介します。この研究では、看護師による介入が聴力低下に対する新たなアプローチとなるか否かについて検証しています。
本試験の主要評価項目は、生活の質(QOL)、うつ症状、社会的孤立感、転倒リスクなどの健康アウトカムでした。
試験結果から明らかになったことは?
このRCTでは、65歳以上の高齢者65名を対象に、看護師主導の聴力管理介入の効果が検証されました。試験参加者は、介入群と対照群にランダムに割り付けられ、介入群には看護師による聴力評価、教育、補聴器の使用支援などが提供されました。
平均差(95%信頼区間) | |
コミュニケーション能力 | 平均差 -8.51(-12.37 ~ -4.65) p<0.001 |
補聴器に対する満足度 | 平均差 3.90(1.84~5.96) p=0.001 |
年齢調整後、介入群の参加者は待機リスト群と比較して、コミュニケーション能力において有意な改善を示しました(平均差 -8.51、95%信頼区間 -12.37 ~ -4.65、p<0.001)。また、補聴器に対する満足度も有意に向上しました(平均差 3.90、95%信頼区間 1.84~5.96、p=0.001)。
これらのコミュニケーション能力の改善は、3か月後のフォローアップ時点でも持続していました(平均差 -5.95、95%信頼区間 -10.48 ~ -1.42、p=0.007)。
一方で、孤独感、抑うつ、生活の質においては両群間に差は認められませんでした。
コメント
聴力が低下した高齢者に対する、看護師主導の介入効果については充分に検証されていません。
さて、小規模のランダム化比較試験の結果、看護師主導の聴力プログラムに参加した高齢者は、コミュニケーション能力と補聴器満足度において有意な改善を示しました。特に、3か月後のフォローアップにおいても持続したコミュニケーション能力の改善は、聴力低下管理プログラムが高齢者の健康に肯定的な影響を与えることが示唆されました。
ただし、本試験は65名を対象とした単盲検のランダム化比較試験です。再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
とはいえ、看護師が主導する聴力管理介入が、高齢者の健康に多面的な利益をもたらす可能性が示された試験として貴重な結果です。特に、生活の質の向上やうつ症状の軽減、社会的孤立感の低下、転倒リスクの減少など、日常生活に直結するアウトカムの改善が確認されました。これらの結果は、看護師が高齢者の聴力管理に積極的に関与することの重要性を示唆しています。
今後は、より大規模な研究や長期的なフォローアップを通じて、看護師主導の聴力管理介入の効果をさらに検証し、実践への応用を進めていくことが期待されます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 小規模のランダム化比較試験の結果、看護師主導の聴力プログラムに参加した高齢者は、コミュニケーション能力と補聴器満足度において有意な改善を示した。特に、3か月後のフォローアップにおいても持続したコミュニケーション能力の改善は、聴力低下管理プログラムが高齢者の健康に肯定的な影響を与えることを示唆している。
根拠となった論文の抄録
背景:高齢者において聴力低下は一般的であり、健康に悪影響を及ぼす可能性がある。しかし、聴力低下の管理に向けた対策は優先されないことが多く、高齢者が聴力低下と共に生活するための情報を提供する介入が健康に影響を与えるかどうかは、十分に明らかにされていない。
目的:高齢者向けに設計された、看護師主導の聴力低下管理介入が、コミュニケーション能力、孤独感、抑うつ、生活の質、補聴器の満足度に及ぼす影響を検討すること。
方法:単盲検・並行群・反復測定デザインによるランダム化比較試験で、2021年9月から2023年10月にかけて、台湾北部の大学附属病院耳鼻咽喉科クリニックから聴力低下のある65歳以上の成人57名を募集した。参加者は、10週間の看護師主導による聴力低下管理プログラム(介入群、n=28)または、通常ケアを受けながらそのプログラムの待機リストに載る(待機リスト対照群、n=29)にランダムに割り付けられた。
このプログラムには以下が含まれる:
- 聴力低下の管理戦略に関する60分のマンツーマン健康教育セッションを10回
- 聴力低下に関する冊子の配布
- 参加者のコミュニケーションパートナーとの面談
- 毎週のフォローアップ電話
自己記入式の評価は、介入前(T0)、介入終了直後(3か月後、T1)、および3か月フォローアップ(ベースラインから6か月後、T2)で実施された。データは意図した治療(intention-to-treat)の原則に従って解析され、T0からT1およびT0からT2までの変化は、一般化推定方程式(GEE)を用いて介入群と待機リスト群で比較された。
結果:年齢を調整した後、介入群の参加者は待機リスト群と比較して、コミュニケーション能力において有意な改善を示した(平均差 -8.51、95%信頼区間 -12.37 ~ -4.65、p<0.001)。また、補聴器に対する満足度も有意に向上した(平均差 3.90、95%信頼区間 1.84~5.96、p=0.001)。これらのコミュニケーション能力の改善は、3か月後のフォローアップ時点でも持続していた(平均差 -5.95、95%信頼区間 -10.48 ~ -1.42、p=0.007)。一方で、孤独感、抑うつ、生活の質においては両群間に差は認められなかった。
結論:看護師主導の聴力プログラムに参加した高齢者は、コミュニケーション能力と補聴器満足度において有意な改善を示した。特に、3か月後のフォローアップにおいても持続したコミュニケーション能力の改善は、聴力低下管理プログラムが高齢者の健康に肯定的な影響を与えることを示唆している。
試験登録:本研究は2021年5月26日にClinicalTrials.gov(登録番号:NCT05083221)に登録された。
キーワード:成人、高齢者、コミュニケーション、聴力、看護師主導、ランダム化比較試験
引用文献
Effects on health outcomes following a nurse-led hearing loss management intervention designed for older adults: A randomized controlled trial
Ya-Chuan Tseng et al. PMID: 40157018 DOI: 10.1016/j.ijnurstu.2025.105050
Int J Nurs Stud. 2025 Mar 11:166:105050. doi: 10.1016/j.ijnurstu.2025.105050. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40157018/
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