アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNi)療法による腎臓への効果は?
アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNi)療法は心血管系の転帰を改善することがProspective Comparison of ARNi with angiotensin-converting enzyme inhibitor to Determine the Impact on Global Mortality and Morbidity in Heart Failure(PARADIGM-HF)試験で示されています。しかし、ARNiの腎に対する安全性と有効性については依然として議論の余地があります。
そこで今回は、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNi)の腎に対する安全性と有効性を評価することを目的に実施されたメタ解析の結果をご紹介します。
PubMed、EMBASE、Cochrane Library、Web of Science、Clinicaltrials.govからランダム化比較試験が検索されました。
試験結果から明らかになったことは?
21,716例の患者を対象とした11件の試験が組み入れられました。各アウトカムについて、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)あるいはアンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)と比較されました。
ARNI vs. ACEIorARB | 患者数・研究数 | リスク比 RR (95%CI) |
腎機能障害 | 21,716人 9研究 | RR 0.72 (0.64~0.82) P<0.05 |
高カリウム血症 | 15,903人 8研究 | RR 0.95 (0.88~1.02) P>0.05 |
UACR | 2,587人 3研究 | RR 0.32 (0.12~0.51) P<0.05 |
eGFR減少 | 9,114人 3研究 | RR 0.08 (0.03~0.12) P<0.05 |
血清クレアチニンの上昇 | 13,159人 2研究 | RR 0.82 (0.63~1.07) P>0.05 |
血清カリウムの上昇 | 13,152人 2研究 | RR 0.76 (0.65~0.89) P<0.05 |
腎機能障害に対するARNI使用は、21,716人の患者を対象とした9件の研究で報告され、統計的に有意なリスク低下が示されました(RR 0.72、95%CI 0.64~0.82、P<0.05)。
高カリウム血症は15,903人の患者を対象とした8件の研究で報告されました。しかし、ARNi群とACEI/ARB群で高カリウム血症の発生率に差はありませんでした(RR 0.95、95%CI 0.88~1.02、P>0.05)。
UACRは2,587人の患者を対象とした3件の研究で報告されました。ARNi群では、ACEI/ARB群と比較してUACRが統計学的に有意に低下しました(RR 0.32、95%CI 0.12~0.51、P<0.05)。
eGFR減少は9,114人の患者を対象とした3件の研究で報告されました。ACEI/ARB群はARNi群と比較してeGFR減少リスクが統計学的に有意に低下しました(RR 0.08、95%CI 0.03~0.12、P<0.05)。
血清クレアチニンの上昇は13,159人の患者を対象とした2件の研究で報告された。しかし、ARNi群とACEI/ARB群で血清クレアチニン上昇の発現率に差はありませんでした(RR 0.82、95%CI 0.63~1.07、P>0.05)。
血清カリウムの上昇は13,152人の患者を対象とした2件の研究で報告されました。RRは統計的に有意でした(RR 0.76、95%CI 0.65~0.89、P<0.05)。
2件の研究でCKD患者の腎転帰が報告されました。腎機能障害は3,159例で報告されました。しかし、腎機能障害(RR 0.81、95%CI 0.52~1.27、P>0.05)および末期腎不全(ESRDのRR 0.70、95%CI 0.29~1.70、P>0.05)の発生率に有意差はありませんでした。
ARNi群はACEI/ARB群と比較して、eGFR低下率(mL/min/1.73m2/年)が有意に低いことが示されました(RR 0.14、95%CI 0.07~0.21、P<0.05)。
コメント
心血管イベントに対するアンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNi)療法の有用性が示されていますが、腎機能に対する効果については充分に検証されていません。
さて、ランダム化比較試験を対象としたメタ解析の結果、入手可能なエビデンスはARNiの腎転帰改善効果を支持しています。レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害薬と比較して、ARNiは腎機能障害を予防する可能性が示唆されましたが、組み入れられた試験数が限られています。特にCKD患者に対するARNiの有用性については、データが限定的であり、結論付けられません。
更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ランダム化比較試験を対象としたメタ解析の結果、ARNiの腎転帰改善効果が支持された。レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害薬と比較して、ARNiは腎機能障害を予防する可能性が示唆された。
根拠となった試験の抄録
知見と目的:アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNi)療法は心血管系の転帰を改善することがProspective Comparison of ARNi with angiotensin-converting enzyme inhibitor to Determine the Impact on Global Mortality and Morbidity in Heart Failure(PARADIGM-HF)試験で示されている。しかし、ARNiの腎に対する安全性と有効性については依然として議論の余地がある。このメタアナリシスはアンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNi)の腎に対する安全性と有効性を評価することを目的とした。
方法:PubMed、EMBASE、Cochrane Library、Web of Science、Clinicaltrials.govからランダム化比較試験を検索した。
結果:21,716例の患者を対象とした11件の試験が組み入れられた。ARNiはアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬よりも、腎機能障害、推定糸球体濾過量(eGFR)低下、血清カリウム値上昇のリスク、尿中アルブミン/クレアチニン比上昇のリスクが高いという点で優れていた。しかし、高カリウム血症や血清クレアチニン値上昇の確率に差はなかった。慢性腎臓病(CKD)患者におけるeGFR低下の発生率はARNiを投与された患者で低かったが、ARNiの使用はCKD患者における腎機能障害の高いリスクとは関連していなかった。
新知見と結論:入手可能なエビデンスはARNiの腎転帰改善効果を支持している。レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害薬と比較して、ARNiは腎機能障害を予防する。ARNi使用者は腎機能障害のリスクが低く、eGFRが高いが、高カリウム血症のリスクは増加しない。しかし、CKD患者に対するARNiの有用性については、さらなる検討が必要である。
キーワード:RAS阻害;アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬;メタ解析;腎有効性
引用文献
Renal safety and efficacy of angiotensin receptor-neprilysin inhibitor: A meta-analysis of randomized controlled trials
Yu Feng et al. PMID: 32776562 DOI: 10.1111/jcpt.13243
J Clin Pharm Ther. 2020 Dec;45(6):1235-1243. doi: 10.1111/jcpt.13243. Epub 2020 Aug 10.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32776562/
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