レボフロキサシンの予防投与はMDR結核菌感染症の発症を予防できるのか?
世界では、15歳未満の小児約200万人が多剤耐性(multidrug-resistant, MDR)結核菌に感染しており、年間約3万人がMDR結核を発症しています。しかし、MDR結核に曝露した人の結核予防治療に関するランダム化比較試験のエビデンスは不足しています。
そこで今回は、MDR結核に家庭内感染した小児に対するレボフロキサシンの予防的投与の効果を検証したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
本試験は、南アフリカにおける地域ベースの多施設共同二重盲検クラスターランダム化プラセボ対照試験であり、細菌学的にMDR肺結核と確定された成人と家庭内で暴露された小児における予防治療としてのレボフロキサシンの有効性と安全性が評価されました。
5歳未満の小児は、インターフェロン-γ遊離アッセイの結果やヒト免疫不全ウイルス(HIV)の状態にかかわらず、また5~17歳の小児は、インターフェロン-γ遊離アッセイ陽性またはHIV感染の有無にかかわらず、組み入れの対象となりました。世帯が試験レジメンにランダムに割り付けられ、その世帯の小児にレボフロキサシンまたはプラセボが1日1回24週間投与されました。
本試験の有効性の主要エンドポイントは、ランダム化後48週目までの結核の発症(結核による死亡を含む)でした。安全性の主要エンドポイントは、治療期間中に少なくとも試験レジメンに関連する可能性のあるグレード3以上の有害事象でした。
試験結果から明らかになったことは?
497世帯922人の参加者のうち、453人がレボフロキサシン投与群に、469人がプラセボ投与群に割り付けられました;参加者の91.0%は5歳未満でした。
レボフロキサシンまたはプラセボは、各試験群の参加者の86%が、割り当てられた用量の少なくとも80%を服用していました。
レボフロキサシン群 | プラセボ群 | ハザード比 (95%CI) | |
第48週までの結核発症 | 5人(1.1%) | 12人(2.6%) | ハザード比 0.44 (0.15~1.25) |
治療に関連するグレード3以上の有害事象 | 4人 | 8人 | ハザード比 0.52 (0.16~1.71) |
第48週までに、レボフロキサシン群では5人(1.1%)、プラセボ群では12人(2.6%)に結核が発症しました(ハザード比 0.44、95%信頼区間[CI] 0.15~1.25)。感度分析の結果は、一次分析の結果と一致していました。
治療期間中に少なくとも試験レジメンに関連している可能性があると考えられるグレード3以上の有害事象は、レボフロキサシン群で4人、プラセボ群で8人に発生しました(ハザード比 0.52、95%CI 0.16~1.71)。グレード2の腱炎はレボフロキサシン群の1人に発生しました。
コメント
多剤耐性(multidrug-resistant, MDR)結核菌に家庭内曝露した小児に対する抗菌薬の予防的投与の効果は充分に検証されていません。
さて、ランダム化比較試験の結果、レボフロキサシンによる予防治療は、MDR結核の家庭内曝露を有する小児においてプラセボよりも結核の発生率を低下させましたが、その差は有意ではありませんでした。
組み入れられた患者数は充分ですが、結核罹患率の低さから検出力が不充分となった可能性が高いと考えられます。また、南アフリカでは、やや古いデータではありますが、フルオロキノロン(ニューキノロン)の耐性菌株が全体の13%に示されているようです(2012-2014年)。
したがって、本試験結果をもってレボフロキサシン予防投与が無効とは結論付けられません。MDR結核による患者負担、医療負担を考慮すると、感染予防戦略の早急な検証と確率が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、レボフロキサシンによる予防治療は、MDR結核の家庭内曝露を有する小児においてプラセボよりも結核の発生率を低下させたが、その差は有意ではなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:世界では、15歳未満の小児約200万人が多剤耐性(multidrug-resistant, MDR)結核菌に感染しており、年間約3万人がMDR結核を発症している。MDR結核に曝露した人の結核予防治療に関するランダム化比較試験のエビデンスは不足している。
方法:南アフリカにおける地域ベースの多施設共同二重盲検クラスターランダム化プラセボ対照試験において、細菌学的にMDR肺結核と確定された成人と家庭内で暴露された小児における予防治療としてのレボフロキサシンの有効性と安全性を評価した。5歳未満の小児は、インターフェロン-γ遊離アッセイの結果やヒト免疫不全ウイルス(HIV)の状態にかかわらず、また5~17歳の小児は、インターフェロン-γ遊離アッセイ陽性またはHIV感染の有無にかかわらず、組み入れの対象とした。世帯を試験レジメンにランダムに割り付け、その世帯の小児にレボフロキサシンまたはプラセボを1日1回24週間投与した。
有効性の主要エンドポイントは、ランダム化後48週目までの結核の発症(結核による死亡を含む)であった。安全性の主要エンドポイントは、治療期間中に少なくとも試験レジメンに関連する可能性のあるグレード3以上の有害事象とした。
結果:497世帯922人の参加者のうち、453人がレボフロキサシン投与群に、469人がプラセボ投与群に割り付けられた;参加者の91.0%は5歳未満であった。レボフロキサシンまたはプラセボは、各試験群の参加者の86%が、割り当てられた用量の少なくとも80%を服用していた。第48週までに、レボフロキサシン群では5人(1.1%)、プラセボ群では12人(2.6%)に結核が発症した(ハザード比 0.44、95%信頼区間[CI] 0.15~1.25)。感度分析の結果は、一次分析の結果と一致した。治療期間中に少なくとも試験レジメンに関連している可能性があると考えられるグレード3以上の有害事象は、レボフロキサシン群で4人、プラセボ群で8人に発生した(ハザード比 0.52、95%CI 0.16~1.71)。グレード2の腱炎はレボフロキサシン群の1人に発生した。
結論:レボフロキサシンによる予防治療は、MDR結核の家庭内曝露を有する小児においてプラセボよりも結核の発生率を低下させたが、その差は有意ではなかった。
主な資金提供:ユニタイド 他
ISRCTN登録番号:ISRCTN92634082
引用文献
Levofloxacin Preventive Treatment in Children Exposed to MDR Tuberculosis
Anneke C Hesseling et al. PMID: 39693542 DOI: 10.1056/NEJMoa2314318
N Engl J Med. 2024 Dec 19;391(24):2315-2326. doi: 10.1056/NEJMoa2314318.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39693542/
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