処方医と患者、あるいは処方医のみに教育資材を郵送するとPIMsは減少するのか?
アルツハイマー病(AD)およびアルツハイマー病関連認知症(ADRD)の患者は、抗精神病薬、鎮静催眠薬、強力な抗コリン薬などの特定のハイリスク薬剤の不適切な処方(潜在的不適切処方, PIMs)に関連した有害転帰のリスクが高い可能性があります。そのため、PIMsを減少させる介入に注目が集まっていますが、実臨床における介入効果検証は充分に行われていません。
そこで今回は、ADまたはADRD患者への潜在的に不適切な処方(PIMs)に対する、患者/介護者および処方者への郵便による教育的介入の効果を評価することを目的に実施されたランダム化比較試験の結果をご紹介します。
この前向き、非盲検、実用的ランダム化比較試験は、2つの大規模全国医療保険制度に組み込まれ、2022年4月から2023年6月まで実施されました。本試験では、ADまたはADRDを有し、処方中止の対象となる3つの薬物クラス(抗精神病薬、鎮静催眠薬、強力抗コリン薬)のいずれかを使用している患者が対象でした。
対象患者は、以下の3群にランダムに割り付けられました。
(1)処方中止の対象となる薬物に特化した教育資料を患者と処方医双方に郵送する群
(2)処方医のみに郵送する群
(3)通常ケア群
試験結果から明らかになったことは?
修正intention-to-treat解析に組み入れられた12,787例のうち、8,742例(68.4%)が女性で、平均年齢は77.3(SD 9.4)歳でした。
3つの薬物クラス(抗精神病薬、鎮静催眠薬、強力抗コリン薬)の処方における累積発生率 | |
患者および処方医への郵送群 | 76.7%(95%CI 75.4~78.0) |
処方医への郵送のみ群 | 77.9%(95%CI 76.5~79.1) |
通常ケア群 | 77.5%(95%CI 76.2~78.8) |
脱処方(減処方)の対象となる薬剤が調剤された累積発生率は、患者および処方医への郵送群では76.7%(95%CI 75.4~78.0)、処方医への郵送のみ群では77.9%(95%CI 76.5~79.1)、通常ケア群では77.5%(95%CI 76.2~78.8)でした。
ハザード比 | |
患者および処方医への郵送群 | |
ハザード比は、通常のケア群と比較して、患者および処方医への郵送群では0.99(95%CI 0.94~1.04)、処方医への郵送のみ群では1.00(95%CI 0.96~1.06)でした。
副次的アウトカムについては群間に差はありませんでした。
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アルツハイマー病(AD)およびアルツハイマー病関連認知症(ADRD)の患者では、潜在的な不適切処方薬剤(PIMs)の使用リスクが高く、有害事象の発生リスク増加と関連している可能性があります。このため、特定のPIMsを減少させる介入方法の立案が求められます。
さて、非盲検ランダム化比較試験の結果、アルツハイマー型認知症またはアルツハイマー病関連認知症患者とその臨床医を対象とした薬物特異的な教育的郵送アプローチは、リスクの高い薬物の使用を減らすのに有効ではないことが示唆されました。
今回の対象となった薬剤は、抗精神病薬、鎮静催眠薬、強力抗コリン薬であり、これらの薬剤を処方しないことが困難である、そもそも郵送された内容を踏まえたPIMs減少のための取り組みが行われていない、あるいは患者(患者家族を含む)の了承や同意が得られなかった、など様々な要因が考えられます。
何らかのフィー、使命感など、試験参加することで得られる”何か”が明確でないと、そもそも輸送物を確認して、内容を理解して、納得した上で本介入を実践することは困難なのかもしれません。
さまざまな要因が考えられるものの、他の介入プランを検討した方がよさそうです。
続報に期待。
✅まとめ✅ 非盲検ランダム化比較試験の結果、アルツハイマー型認知症またはアルツハイマー病関連認知症患者とその臨床医を対象とした薬物特異的な教育的郵送アプローチは、リスクの高い薬物の使用を減らすのに有効ではないことが示唆された。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:アルツハイマー病(AD)およびアルツハイマー病関連認知症(ADRD)の患者は、抗精神病薬、鎮静催眠薬、強力な抗コリン薬などの特定のハイリスク薬剤の不適切な処方に関連した有害転帰のリスクが高い可能性がある。
目:ADまたはADRD患者への潜在的に不適切な処方に対する、患者/介護者および処方者への郵便による教育的介入の効果を評価すること。
試験デザイン、設定、参加者:この前向き、非盲検、実用的ランダム化比較試験は、2つの大規模全国医療保険制度に組み込まれ、2022年4月から2023年6月まで実施された。本試験では、ADまたはADRDを有し、処方中止の対象となる3つの薬物クラス(抗精神病薬、鎮静催眠薬、強力抗コリン薬)のいずれかを使用している患者を対象とした。
介入: (1)処方中止の対象となる薬物に特化した教育資料を患者と処方医双方に郵送する群、(2)処方医のみに郵送する群、(3)通常ケア群。
主要アウトカムと評価基準:解析は修正intention-to-treat法を用いて行った。
主要アウトカムは、6ヵ月の観察期間中に処方中止の対象となった薬剤の調剤が行われたかどうかであった。副次的アウトカムは、薬ごとの1日平均投与量の変化と医療サービスの利用であった。
結果:修正intention-to-treat解析に組み入れられた12,787例のうち、8,742例(68.4%)が女性で、平均年齢は77.3(SD 9.4)歳であった。脱処方の対象となる薬剤が調剤された累積発生率は、患者および処方医への郵送群では76.7%(95%CI 75.4~78.0)、処方医への郵送のみ群では77.9%(95%CI 76.5~79.1)、通常ケア群では77.5%(95%CI 76.2~78.8)であった。ハザード比は、通常のケア群と比較して、患者および処方医への郵送群では0.99(95%CI 0.94~1.04)、処方医への郵送のみ群では1.00(95%CI 0.96~1.06)であった。副次的アウトカムについては群間に差はなかった。
結論と関連性:これらの所見から、アルツハイマー型認知症またはアルツハイマー病関連認知症患者とその臨床医を対象とした薬物特異的な教育的郵送アプローチは、リスクの高い薬物の使用を減らすのに有効ではないことが示唆された。
試験登録:ClinicalTrials.gov Identifier. NCT05147428
引用文献
High-Risk Medications in Persons Living With Dementia: A Randomized Clinical Trial
Sonal Singh et al. PMID: 39432286 DOI: 10.1001/jamainternmed.2024.5632
JAMA Intern Med. 2024 Oct 21. doi: 10.1001/jamainternmed.2024.5632. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39432286/
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