DAPT後のSAPTにはアスピリンとクロピドグレルどちらが良いのか?
薬剤溶出ステント(DES)を用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の短期間の二重抗血小板療法(DAPT)後に、アスピリン単剤療法とP2Y12阻害薬単剤療法を比較した試験は過去にありません。
そこで今回は、急性冠症候群(ACS)または高出血リスク(HBR)の患者を、アスピリンとプラスグレルによる1ヵ月のDAPT後にアスピリン単剤療法を行う群(アスピリン群)と、プラスグレル単剤療法後にクロピドグレル単剤療法を行う群(クロピドグレル群)にランダムに割り付けたSTOPDAPT-3試験の二次解析の結果をご紹介します。
30日間のランドマーク解析によりアスピリン単剤療法とクロピドグレル単剤療法が比較されました。本解析の主要評価項目は、心血管死、心筋梗塞、確実なステント血栓症、虚血性脳卒中の複合と定義された心血管系エンドポイントと、Bleeding Academic Research Consortium 3または5と定義された出血エンドポイントでした。
試験結果から明らかになったことは?
割り付けられた6,002例のうち、5,833例(アスピリン群:N=2,920、クロピドグレル群:N=2,913)が30日ランドマーク解析に組み入れられました。年齢中央値は73歳(四分位範囲 64~80)、女性 23.4%、ACS 74.6%、HBR 54.1%でした。アスピリン群では87.5%、クロピドグレル群では87.2%が1年後も単剤治療を継続しました。
アスピリン群 (/100人・年) | クロピドグレル群 (/100人・年) | ハザード比 HR (95%信頼区間 CI) | |
心血管エンドポイント (心血管死、心筋梗塞、確実なステント血栓症、虚血性脳卒中の複合) | 4.5人 | 4.5人 | HR 1.00 (0.77~1.30) P=0.97 |
出血エンドポイント (BARC 3または5) | 2.0人 | 1.9人 | HR 1.02 (0.69~1.52) P=0.92 |
心血管エンドポイント(100人・年当たり4.5人と4.5人、ハザード比[HR]1.00[95%信頼区間(CI)0.77~1.30]、P=0.97)、出血エンドポイント(2.0人と1.9人、HR 1.02[95%CI 0.69~1.52]、P=0.92)ともに、30日以降および1年までの発症率はアスピリン群とクロピドグレル群で同等でした。
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これまで、6~18ヵ月間DAPT実施後にSAPTに切り替えた試験においては、アスピリンよりもクロピドグレルの方が心血管イベントの発生が少ない可能性が示されていました。また、DAPT期間として1ヵ月と12ヵ月後、実施した後のSAPTについても、アスピリンよりもクロピドグレルの方が優れている可能性が示唆されています。
一方、比較的短期間の1ヵ月DAPT後のSAPTとして、いずれの薬剤が優れているのかについては明らかになっていません。
さて、ランダム化比較試験の二次解析の結果、クロピドグレル単剤療法と比較したアスピリン単剤療法は、DESを用いたPCI後1ヵ月以降1年までの心血管および出血の転帰と同等でした。
あくまでも仮説生成的な結果ではありますが、DAPT期間が1ヵ月の場合、アスピリンでもクロピドグレルでも心血管・出血転帰に差はないようです。ただし、これまでに報告された試験、特にHOST-EXAM試験とは患者背景が異なっています。具体的には、HOST-EXAM試験の参加者の方がSTOPDAPTシリーズに比べて糖尿病や慢性腎臓病などのハイリスク患者の割合が高いです。一方でSTOPDAPT-2とSTOPDAPT-3は、比較的バランスの取れた患者層を対象としています。
したがって、よりハイリスクな患者においては、クロピドグレルの方が患者転帰を改善する可能性があります。いずれの薬剤も実臨床での使用経験が長く、ジェネリック医薬品も販売されていることから、安全性やコスト面でアスピリンを優先する意義は少ない可能性があります。CYP2C19などの遺伝子多型、薬物相互作用を踏まえた治療選択が可能です。
続報に期待。
✅まとめ✅ ランダム化比較試験の二次解析の結果、クロピドグレル単剤療法と比較したアスピリン単剤療法は、DESを用いたPCI後1ヵ月以降1年までの心血管および出血の転帰と同等であった。
根拠となった試験の抄録
背景と目的:薬剤溶出ステント(DES)を用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の短期間の二重抗血小板療法(DAPT)後に、アスピリン単剤療法とP2Y12阻害薬単剤療法を比較した試験は過去になかった。
方法:STOPDAPT-3では、急性冠症候群(ACS)または高出血リスク(HBR)の患者を、アスピリンとプラスグレルによる1ヵ月のDAPT後にアスピリン単剤療法を行う群(アスピリン群)と、プラスグレル単剤療法後にクロピドグレル単剤療法を行う群(クロピドグレル群)にランダムに割り付けた。この二次解析では、30日間のランドマーク解析によりアスピリン単剤療法とクロピドグレル単剤療法を比較した。
主要評価項目は、心血管死、心筋梗塞、確実なステント血栓症、虚血性脳卒中の複合と定義された心血管系エンドポイントと、Bleeding Academic Research Consortium 3または5と定義された出血エンドポイントとした。
結果:割り付けられた6,002例のうち、5,833例(アスピリン群:N=2,920、クロピドグレル群:N=2,913)が30日ランドマーク解析に組み入れられた。年齢中央値は73歳(四分位範囲 64~80)、女性 23.4%、ACS 74.6%、HBR 54.1%であった。アスピリン群では87.5%、クロピドグレル群では87.2%が1年後も単剤治療を継続した。心血管エンドポイント(100人・年当たり4.5人と4.5人、ハザード比[HR]1.00[95%信頼区間(CI)0.77~1.30]、P=0.97)、出血エンドポイント(2.0人と1.9人、HR 1.02[95%CI 0.69~1.52]、P=0.92)ともに、30日以降および1年までの発症率はアスピリン群とクロピドグレル群で同等であった。
結論:クロピドグレル単剤療法と比較したアスピリン単剤療法は、DESを用いたPCI後1ヵ月以降1年までの心血管および出血の転帰と同等であった。
キーワード:29冠動脈ステント;P2Y12阻害薬;抗血小板療法;アスピリン;出血;単剤療法;経皮的冠動脈インターベンション
引用文献
Aspirin versus Clopidogrel Monotherapy After Percutaneous Coronary Intervention: 1-Year Follow-up of the STOPDAPT-3 Trial
Hirotoshi Watanabe et al. PMID: 39215959 DOI: 10.1093/eurheartj/ehae617
Eur Heart J. 2024 Aug 31:ehae617. doi: 10.1093/eurheartj/ehae617. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39215959/
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