スタチンを中止できるタイミングはいつなのか?
臨床医と患者はしばしばスタチンを継続するか中止するか決断する場面に直面します。しかし、将来のリスクを的確に評価することは困難です。
そこで今回は、スタチンの中止が臨床転帰(全死亡、心血管[CV]死亡、CVイベント、QOL)に及ぼす影響を継続と比較検討した系統的レビューの結果をご紹介します。
18歳以上の患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)、コホート研究、症例対照研究、準ランダム化研究が対象となりました。データベースはMEDLINE、Embase、Cochrane Central Registryが検索されました(開始~2023年8月)。
独立した査読者2名がスクリーニングを行い、データを抽出しました。質の評価は1人の著者が行い、もう1人の著者が検証しました。結果について叙述的に要約され、研究のサブセットについてメタ解析が行われ、GRADEを用いたエビデンスの確実性が評価されました。75歳以上のサブグループにおける所見についても要約されました。
試験結果から明らかになったことは?
8,369件のタイトル/抄録が検索されました;36件の研究から37件の報告が適格とされました。その内訳は、35件の非ランダム化研究(n=1,708,684)と1件のRCT(n=381)でした。
1件のRCT(n=381) | リスク差 (90%CI) スタチン継続 vs. 中止 |
60日死亡率 | リスク差 3.5% (-3.5 ~ 10.5) |
1件のRCTは余命1年未満の人を対象に実施されたもので、スタチン中止による60日死亡率(リスク差=3.5%、90%CI -3.5 ~ 10.5)は継続と比較しておそらく差がないことが示されました。
ハザード比 HR (95%CI) スタチン継続 vs. 中止 | |
死亡率 | HR 1.92 (1.52〜2.44) 9報 |
CV死亡率 | HR 1.63 (1.27〜2.10) 5報 |
CVイベント | HR 1.31 (1.23〜1.39) 8報 |
非ランダム化試験は集団や試験設定によって異なりますが、一貫してスタチン中止は死亡率(ハザード比(HR)1.92、95%CI 1.52〜2.44、9報)、CV死亡率(HR 1.63、95%CI 1.27〜2.10、5報)、CVイベント(HR 1.31、95%CI 1.23〜1.39、8報)の相対的リスク増加と関連する可能性が示唆されました。
75歳以上における所見は主要な結果と一致していました。
非ランダム化研究の所見には、方法論的限界による不確実性が高いことが示されました。
コメント
スタチン系薬剤による治療継続、中止の判断については情報が限られています。
さて、システマティックレビューの結果、1件のRCTに基づくと、スタチン中止は終末期付近の短期死亡率には影響しないようでした。余命が1年未満であれば、スタチンを中止しても影響がないと考えられます。一方で、対象となったRCTに含まれた患者数は381症例であり、試験結果の一般化には限界があります。
余命が1年以上ある患者集団では、非ランダム化研究からの知見は一貫してスタチン中止がより悪い転帰に関連する可能性を示唆しています。しかし、不確実性を伴う結果であることから更なる検証が求められます。
いずれにせよ、現時点においては治療継続か中止かの結論を出すことはできません。患者背景を踏まえ、スタチン治療の必要性について継続的にレビューすることが求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 1件のRCTに基づくと、スタチン中止は終末期付近の短期死亡率には影響しないようである。この集団以外では、非ランダム化研究からの知見は一貫してスタチン中止がより悪い転帰に関連する可能性を示唆していたが、不確実性を伴う結果であることから追試が求められる。
根拠となった試験の抄録
背景:臨床医と患者はしばしばスタチンを継続するか中止するかの決断に直面する。われわれはスタチンの中止が臨床転帰(全死亡、心血管[CV]死亡、CVイベント、QOL)に及ぼす影響を継続と比較して検討した。
方法:系統的レビューを行った。18歳以上を対象としたランダム化比較試験(RCT)、コホート研究、症例対照研究、準ランダム化研究を対象とした。MEDLINE、Embase、Cochrane Central Registryを検索した(開始~2023年8月)。2名の独立した査読者がスクリーニングを行い、データを抽出した。質の評価は1人の著者が行い、もう1人の著者が検証した。結果を叙述的に要約し、研究のサブセットについてメタ解析を行い、GRADEを用いてエビデンスの確実性を評価した。75歳以上のサブグループにおける所見を要約した。
結果:8,369件のタイトル/抄録を検索した;36件の研究から37件の報告が適格であった。その内訳は、35件の非ランダム化研究(n=1,708,684)と1件のRCT(n=381)であった。1件のRCTは余命1年未満の人を対象に実施されたもので、スタチン中止による60日死亡率(リスク差=3.5%、90%CI -3.5 ~ 10.5)は継続と比較しておそらく差がないことが示された。非ランダム化試験は集団や設定によって異なるが、一貫してスタチン中止は死亡率(ハザード比(HR)1.92、95%CI 1.52〜2.44、9報)、CV死亡率(HR 1.63、95%CI 1.27〜2.10、5報)、CVイベント(HR 1.31、95%CI 1.23〜1.39、8報)の相対的リスク増加と関連する可能性が示唆された。75歳以上における所見は主要な結果と一致していた。非ランダム化研究の所見には、方法論的限界による不確実性が高かった。
結論:1件のRCTに基づくと、スタチン中止は終末期付近の短期死亡率には影響しないようである。この集団以外では、非ランダム化研究からの知見は一貫してスタチン中止がより悪い転帰に関連する可能性を示唆していたが、これは不確実である。
キーワード:心血管疾患、非処方、一次予防、二次予防、スタチン
引用文献
Discontinuation versus continuation of statins: A systematic review
Cayden Peixoto et al. PMID: 39051828 DOI: 10.1111/jgs.19093
J Am Geriatr Soc. 2024 Jul 25. doi: 10.1111/jgs.19093. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39051828/
コメント