JN.1変異株に対するワクチンの効果は?
JN.1亜系統(変異株)に対する最新のCOVID-19ワクチン(BA.4/5 二価, XBB1.5 一価)の予防効果に関するデータはまだ限られています。
そこで今回は、2023年11月26日から2024年1月13日まで、JN.1を主因とするCOVID-19の流行期に、18歳以上のブーストを受けたシンガポール人全員を対象に実施されたレトロスペクティブ集団ベースコホート研究の結果をご紹介します。
多変量Cox回帰を用い、SARS-CoV-2感染およびCOVID-19に関連した救急外来(emergency-department、ED)受診/入院のリスクを、ワクチン接種の有無/感染歴によって層別化し評価しました。
ワクチン接種状況および感染状況は、全国的な登録情報を用いて分類しました。
試験結果から明らかになったことは?
3,086,562人のブースト接種を受けた成人シンガポール人が調査集団に含まれ、146,863,476人・日の観察が行われました。JN.1の流行期間中、28,160例のSARS-CoV-2感染が記録され、2,926例が入院し、3,747例が救急外来を受診しました。
8~120日前にXBB.1.5ブースターを接種した人 vs. 1年以上前に野生型株由来の1価ワクチンを接種した人 | 調整ハザード比 aHR |
JN.1感染 | aHR 0.59(0.52〜0.66) |
COVID-19に関連するED受診 | aHR 0.50(0.34〜0.73) |
COVID-19に関連する入院 | aHR 0.58(0.37〜0.91) |
1年以上前に野生型株(Ancestral Strain, Wild-type Virus)由来の1価ワクチンを接種した人と比較して、8~120日前にXBB.1.5ブースターを接種した人は、JN.1感染(調整ハザード比 aHR 0.59、0.52〜0.66)、COVID-19に関連するED受診(aHR 0.50、0.34〜0.73)、入院(aHR 0.58、0.37〜0.91)の低リスクと関連していました。
121~365日前に2価のブースターワクチンを接種した人 vs. 1年以上前に野生型株由来の1価ワクチンを接種した人 | 調整ハザード比 aHR |
JN.1感染 | aHR 0.92(0.88〜0.95) |
COVID-19に関連するED受診 | aHR 0.80(0.70〜0.90) |
一方、121~365日前に2価のブースターワクチンを接種した場合、JN.1感染(aHR 0.92、0.88〜0.95)およびED受診(aHR 0.80、0.70〜0.90)の低リスクと関連していました。
JN.1アウトブレイク中のCOVID-19入院リスクの低下(aHR 0.57、0.33〜0.97)は、既感染者に限定して解析した場合でも、8~120日前に更新されたXBB.1.5ブースターワクチンを接種した後に観察されました。
コメント
JN.1亜系統(変異株)に対する既存のワクチン接種による予防効果について、データが充分とは言えません。
さて、後向きコホート研究の結果、最新のブースターワクチン(BA.4/5 二価, XBB1.5 一価)を最近接種することで、既感染者と未感染者の両方において、JN.1変異波中のSARS-CoV-2感染およびED受診/入院に対する予防効果が得られました。COVID-19の流行期には、年1回のブースター投与により予防効果が得られるようです。
2024年6月5日、米食品医薬品局(FDA)の外部専門家からなる諮問委員会は、2024-25年の新型コロナウイルスワクチンについて、今年流行している変異ウイルス系統「JN.1」を対象にするよう推奨することを全会一致で決めました。一方、米疾病対策センター(CDC)によれば、アメリカでは2024年5月、フラートの1種のKP.2が新型コロナ感染症例のうち最多を占めたことが報告されました。 6月に入ってからは新手のKP.3が流行し、その割合は25%に上っているようです。どちらも既存の変異株より感染力が強い可能性があるものの、重症化リスクは低いとされていますが、引き続きデータ収集が求められるところです。
国立感染症研究所感染症疫学センターでは、2024年の第18~21週にかけての調査において、その期間に検出した新型コロナウイルスはBA.2系統が75.37%、特にKP.3という株が54.48%と最も多くなったことを発表しています。KP.3は2024年3月頃から急増しています。世界的に見てもKP.2、KP.3は増加傾向にあるようですが、既存の亜系統と比較して公衆衛生的なリスクに変化はないとされています。KP.3はオミクロン株の一種で、以前に流行したBA2.86から派生した株とのことです。ワクチンや感染による中和抗体による免疫からの逃避の可能性が高く、感染しやすいというBA2.86の特徴はそのまま引き継いでいるものと考えられます。
JN.1に対応したワクチンが、今後KP.2やKP.3に対しても交差反応を示すか否か、引き続き検証が求められるところです。
続報に期待。
✅まとめ✅ 後向きコホート研究の結果、最新のブースターワクチンを最近接種することで、既感染者と未感染者の両方において、JN.1変異波中のSARS-CoV-2感染およびED受診/入院に対する予防効果が得られた。COVID-19の流行期には、年1回のブースター投与により予防効果が得られるようである。
根拠となった試験の抄録
はじめに:最新のCOVID-19ワクチン(二価/ XBB1.5 一価)によるJN.1亜種に対する予防効果に関するデータはまだ限られている。
方法:2023年11月26日から2024年1月13日まで、JN.1を主因とするCOVID-19の流行期に、18歳以上のブーストを受けたシンガポール人全員を対象に、レトロスペクティブな集団ベースのコホート研究を実施した。多変量Cox回帰を用いて、SARS-CoV-2感染およびCOVID-19に関連した救急外来(emergency-department、ED)受診/入院のリスクを、ワクチン接種の有無/感染歴によって層別化し評価した。ワクチン接種状況および感染状況は、全国的な登録情報を用いて分類した。
結果:3,086,562人のブースト接種を受けた成人シンガポール人が調査集団に含まれ、146,863,476人日の観察が行われた。JN.1の流行期間中、28,160例のSARS-CoV-2感染が記録され、2,926例が入院し、3,747例が救急外来を受診した。1年以上前に先祖伝来の1価ワクチンを接種した人と比較して、8~120日前にXBB.1.5ブースターを接種した人は、JN.1感染(調整ハザード比 aHR 0.59、0.52〜0.66)、COVID-19に関連するED受診(aHR 0.50、0.34〜0.73)、入院(aHR 0.58、0.37〜0.91)の低リスクと関連していた。一方、121~365日前に2価のブースターを受けたことは、JN.1感染(aHR 0.92、0.88〜0.95)およびED受診(aHR 0.80、0.70〜0.90)の低リスクと関連していた。JN.1アウトブレイク中のCOVID-19入院リスクの低下(aHR 0.57、0.33〜0.97)は、既感染者に限定して解析した場合でも、8~120日前に更新されたXBB.1.5ブースターを受けた後に観察された。
結論:最新のブースターを最近接種することで、既感染者と未感染者の両方において、JN.1変異波中のSARS-CoV-2感染およびED受診/入院に対する予防効果が得られた。COVID-19の流行期には、年1回のブースター投与により予防効果が得られる。
キーワード:COVID-19、JN.1、オミクロン、SARS-CoV-2、ブースター、入院
引用文献
Risks of SARS-CoV-2 JN.1 infection and COVID-19 associated emergency-department (ED) visits/hospitalizations following updated boosters and prior infection: a population-based cohort study
Cheryl Chong et al. PMID: 38922669 DOI: 10.1093/cid/ciae339
Clin Infect Dis. 2024 Jun 26:ciae339. doi: 10.1093/cid/ciae339. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38922669/
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