ダパグリフロジンは臓器不全を有する重症患者にも有効なのか?
ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT-2)阻害薬は2型糖尿病、心不全、慢性腎臓病患者の転帰を改善しますが、臓器不全を有する重症患者の転帰に対する効果は不明です。
そこで今回は、SGLT-2阻害薬であるダパグリフロジンを標準的な集中治療室(ICU)ケアに追加することで、急性臓器機能不全を有する重症患者の転帰が改善するかどうかを検討したランダム化比較試験(DEFENDER試験)の結果をご紹介します。
本試験は、ブラジルの22施設のICUで実施された多施設共同ランダム化非盲検臨床試験です。予定外のICU入室で、少なくとも1つの臓器機能障害(呼吸器、心血管、腎臓)を呈する参加者が2022年11月22日~2023年8月30日に登録され、2023年9月27日まで追跡されました。
試験参加者はダパグリフロジン10mg(介入群、n=248)と標準治療の併用群、または標準治療単独群(対照群、n=259)にランダムに割り付けられ、最長14日間またはICU退院までのいずれか早い方の期間投与されました。
本試験の主要アウトカムは、院内死亡率、腎代替療法の開始、28日までのICU滞在期間の階層的複合であり、勝率比法*を用いて解析されました。副次的転帰は、階層的転帰の個々の構成要素、臓器サポートフリー日数、ICU、および入院期間であり、ベイジアン回帰モデルを用いて評価されました。
*勝率比法(win ratio method):アウトカムに重みづけを行い、階層的に解析する方法。本研究の場合は、病院(院内)死亡率が最も重要なアウトカムに設定されている。1を超えると介入群の勝利、つまり対照と比較して、介入効果が得られるということ。
試験結果から明らかになったことは?
ランダム化された参加者507例(平均年齢 63.9[SD 15]歳、女性 46.9%)のうち、39.6%が感染疑いによるICU入室を経験しました。ICU入室からランダム化までの期間の中央値は1日(IQR 0~1)でした。
勝率 (95%CI) | |
主要転帰 (院内死亡率、腎代替療法の開始、28日までのICU滞在期間) | 勝率 1.01 (0.90~1.13) P=0.89 |
腎代替療法 | 勝率 0.90 |
主要転帰に対するダパグリフロジンの勝率は1.01(95%CI 0.90~1.13;P=0.89)でした。
すべての副次的アウトカムの中で、ダパグリフロジン群の27例(10.9%)vs. 対照群の39例(15.1%)において、腎代替療法の使用に関するダパグリフロジンのベネフィットの確率が最も高かったのは0.90でした。
コメント
SGLT-2阻害薬は様々な効果を有しており、多くの疾患に用いられています。しかし、急性の臓器障害(明日位は臓器不全)を有する重症患者における有効性・安全性については充分に検証されていません。
さて、ランダム化比較試験の結果、重症患者および急性臓器機能障害に対する標準治療にダパグリフロジンを追加しても臨床転帰は改善しませんでした。腎代替療法の開始を遅らせる可能性があるものの、さらなる検証が求められます。現時点においては、急性臓器機能障害を有する重症患者に対して、ダパグリフロジンを積極的に使用する意義はなさそうです。
近年報告が増えている「勝利比法」について簡単に触れておきます。従来では複合アウトカムにおいてもハザード比が用いられることが一般的であると考えられます。このような試験の課題として「複合したイベントはすべて臨床的に同価値として解析される」という点が挙げられます。今回の試験でいえば、院内死亡率、腎代替療法の開始、28日までのICU滞在期間をすべて同列に評価するということになります。しかし、実臨床において、死亡と同価値のアウトカムはほぼないでしょう。このような課題を解決するために提唱されたのが「勝利比法」です。方法論については言及しませんが、今後、報告が増えてくる解析方法であると考えられます。
続報に期待。
✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、重症患者および急性臓器機能障害に対する標準治療にダパグリフロジンを追加しても臨床転帰は改善しなかった。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT-2)阻害薬は2型糖尿病、心不全、慢性腎臓病患者の転帰を改善するが、臓器不全を有する重症患者の転帰に対する効果は不明である。
目的:SGLT-2阻害薬であるダパグリフロジンを標準的な集中治療室(ICU)ケアに追加することで、急性臓器機能不全を有する重症患者の転帰が改善するかどうかを検討する。
試験デザイン、設定、参加者:ブラジルの22施設のICUで実施された多施設共同ランダム化非盲検臨床試験。予定外のICU入室で、少なくとも1つの臓器機能障害(呼吸器、心血管、腎臓)を呈する参加者を2022年11月22日~2023年8月30日に登録し、2023年9月27日まで追跡した。
介入:参加者はダパグリフロジン10mg(介入群、n=248)と標準治療の併用群、または標準治療単独群(対照群、n=259)にランダムに割り付けられ、最長14日間またはICU退院までのいずれか早い方の期間投与された。
主要アウトカムと評価基準:主要アウトカムは、病院死亡率、腎代替療法の開始、28日までのICU滞在期間の階層的複合とし、勝率法を用いて解析した。副次的転帰は、階層的転帰の個々の構成要素、臓器支持なし日数、ICU、および入院期間とし、ベイジアン回帰モデルを用いて評価した。
結果:ランダム化された参加者507例(平均年齢 63.9[SD 15]歳、女性 46.9%)のうち、39.6%が感染疑いによるICU入室を経験した。ICU入室からランダム化までの期間の中央値は1日(IQR 0~1)であった。主要転帰に対するダパグリフロジンの勝率は1.01(95%CI 0.90~1.13;P=0.89)であった。すべての副次的アウトカムの中で、ダパグリフロジン群の27例(10.9%)vs. 対照群の39例(15.1%)において、腎代替療法の使用に関するダパグリフロジンのベネフィットの確率が最も高かったのは0.90であった。
結論と関連性:重症患者および急性臓器機能障害に対する標準治療にダパグリフロジンを追加しても臨床転帰は改善しなかった。しかし、信頼区間は広く、ダパグリフロジンの関連する有益性または有害性を除外することはできなかった。
引用文献
Dapagliflozin for Critically Ill Patients With Acute Organ Dysfunction: The DEFENDER Randomized Clinical Trial
Caio A M Tavares et al. PMID: 38873723 DOI: 10.1001/jama.2024.10510
JAMA . 2024 Jun 14. doi: 10.1001/jama.2024.10510. Online ahead of print.
ClinicalTrials.gov Identifier: NCT05558098.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38873723/
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