急性脳虚血に対するスタチン投与は早い方が良いのか?
アテローム性動脈硬化症による急性軽症虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)患者における二次的脳卒中予防および神経保護に対する即時集中スタチン療法と遅延集中スタチン療法の比較は限られています。
脳梗塞急性期のスタチン投与は、インターロイキン(IL)-6などの炎症性サイトカインの動員を抑制し、急性期の炎症を抑制する可能性が報告されています。
そこで今回は、アテローム性動脈硬化症による急性軽症虚血性脳卒中または高リスクの一過性脳虚血発作(TIA)患者において、即時集約的スタチン療法が遅延集約的スタチン療法と比較して安全に、脳卒中再発リスクを低下させることができるかどうかを推定することを目的に実施された二重盲検ランダム化比較試験の結果をご紹介します。
高リスク頭蓋内または頭蓋外アテローム性動脈硬化症に対する集中的スタチンおよび抗血小板療法(INSPIRES)試験は、二重盲検、プラセボ対照、2×2要因、ランダム化比較試験であり、2018年9月から2022年10月まで患者が登録されました。試験は中国の222施設の病院で実施されました。35~80歳の軽症虚血性脳卒中または高リスクTIAで、症状発現から72時間以内の動脈硬化が推定される患者が評価されました。
患者はアトルバスタチン即時集中投与群(1~21日目に80mg/日、22~90日目に40mg/日)または3日遅延後の集中投与群(1~3日目はプラセボ、4~21日目はプラセボとアトルバスタチン40mg/日、22~90日目はアトルバスタチン40mg/日)にランダム割り付けされました。
本試験における有効性の主要アウトカムは90日以内の新たな脳卒中発症であり、有効性の副次的アウトカムは機能的転帰不良でした。安全性の主要アウトカムは中等度から重度の出血でした。
試験結果から明らかになったことは?
合計11,431例が適格性を評価され、6,100例(年齢中央値 65[IQR 57〜71]歳; 男性 3,915例[64.2%])が登録され、3,050例が各治療群に割り付けられました。
スタチン即時投与群 | 遅延投与群 | ハザード比 HR あるいはオッズ比 OR (95%CI) | |
90日以内に新たな脳卒中 | 245例(8.1%) | 256例(8.4%) | HR 0.95 (0.80〜1.13) |
機能的転帰不良 | 299例(9.8%) | 348例(11.4%) | OR 0.83 (0.71〜0.98) |
中等度から重度の出血 | 23例(0.8%) | 17例(0.6%) | – |
90日以内に新たな脳卒中が発生したのは、スタチン即時投与群で245例(8.1%)、遅延投与群で256例(8.4%)でした(ハザード比 0.95、95%CI 0.80〜1.13)。
機能的転帰不良はスタチン即時投与群で299例(9.8%)、スタチン遅延投与群で348例(11.4%)に発生し増した(オッズ比 0.83、95%CI 0.71〜0.98)。中等度から重度の出血は、スタチン即時投与群で3,050例中23例(0.8%)、スタチン遅延投与群で3,050例中17例(0.6%)に発生しました。
コメント
急性脳虚血に対するスタチン投与のタイミングについて、患者転帰との関連性を評価した試験は限られています。
さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果、アテローム性動脈硬化症による急性軽症虚血性脳卒中または一過性脳虚血性発作(TIA)の中国人患者において、72時間以内に開始された即時集中的スタチン療法は、3日遅れ(4日後)の遅延集中的スタチンと比較して、90日以内の脳卒中リスクを低下させず、中等度から重度の出血に有意差はなく、機能的転帰の改善と関連する可能性が示されました。
神経学的な機能評価はあくまでも副次的評価項目であり、本試験結果をもってスタチン早期投与を推奨するほどの結果ではありません。スタチン早期投与による患者ベネフィットについて、更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の事後解析の結果、アテローム性動脈硬化症による急性軽症虚血性脳卒中またはTIAの中国人患者において、72時間以内に開始された即時集中的スタチン療法は、3日遅れの遅延集中的スタチンと比較して、90日以内の脳卒中リスクを低下させず、中等度から重度の出血に有意差はなく、機能的転帰の改善と関連する可能性がある。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:アテローム性動脈硬化症による急性軽症虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)患者における二次的脳卒中予防および神経保護に対する即時集中スタチン療法と遅延集中スタチン療法の比較は限られている。
目的:アテローム性動脈硬化症による急性軽症虚血性脳卒中または高リスクの一過性脳虚血発作(TIA)患者において、即時集約的スタチン療法が遅延集約的スタチン療法と比較して安全であり、脳卒中再発リスクを低下させることができるかどうかを推定すること。
試験デザイン、設定、参加者:高リスク頭蓋内または頭蓋外アテローム性動脈硬化症に対する集中的スタチンおよび抗血小板療法(INSPIRES)試験は、二重盲検、プラセボ対照、2×2要因、ランダム化比較試験で、2018年9月から2022年10月まで患者を登録した。試験は中国の222の病院で実施された。35~80歳の軽症虚血性脳卒中または高リスクTIAで、症状発現から72時間以内の動脈硬化が推定される患者を評価した。
介入:患者をアトルバスタチン即時集中投与(1~21日目に80mg/日、22~90日目に40mg/日)または3日遅延後の集中投与(1~3日目はプラセボ、4~21日目はプラセボとアトルバスタチン40mg/日、22~90日目はアトルバスタチン40mg/日)にランダムに割り付けた。
主要アウトカムと評価基準:有効性の主要アウトカムは90日以内の新たな脳卒中発症であり、有効性の副次的アウトカムは機能的転帰不良であった。安全性の主要アウトカムは中等度から重度の出血であった。
結果:合計11,431例が適格性を評価され、6,100例(年齢中央値 65[IQR 57〜71]歳; 男性 3,915例[64.2%])が登録され、3,050例が各治療群に割り付けられた。90日以内に新たな脳卒中が発生したのは、スタチン即時投与群で245例(8.1%)、遅延投与群で256例(8.4%)であった(ハザード比 0.95、95%CI 0.80〜1.13)。機能的転帰不良はスタチン即時投与群で299例(9.8%)、スタチン遅延投与群で348例(11.4%)に発生した(オッズ比 0.83、95%CI 0.71〜0.98)。中等度から重度の出血は、スタチン即時投与群で3,050例中23例(0.8%)、スタチン遅延投与群で3,050例中17例(0.6%)に発生した。
結論と関連性:アテローム性動脈硬化症による急性軽症虚血性脳卒中またはTIAの中国人患者において、72時間以内に開始された即時集約的スタチン療法は、3日遅れの遅延集約的スタチンと比較して、90日以内の脳卒中リスクを低下させず、中等度から重度の出血に有意差はなく、機能的転帰の改善と関連する可能性がある。
臨床試験登録:ClinicalTrials.gov Identifier. NCT03635749
引用文献
Immediate- or Delayed-Intensive Statin in Acute Cerebral Ischemia: The INSPIRES Randomized Clinical Trial
Ying Gao et al. PMID: 38805216 PMCID: PMC11134282 DOI: 10.1001/jamaneurol.2024.1433
JAMA Neurol. 2024 May 28:e241433. doi: 10.1001/jamaneurol.2024.1433. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38805216/
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