乳児期のRSウイルス感染は小児期の喘息罹患と関連するのか?
早期の重症呼吸器シンシチアルウイルス(respiratory syncytial virus, RSV)感染は、小児期の喘息疾患の発症と関連している可能性が報告されています。しかし、この関連性の検証は充分ではありません。
そこで今回は、乳幼児期のRSV感染と小児喘息との関連を評価することを目的に実施されたコホート研究(INSPIRE試験)の結果をご紹介します。
INSPIRE試験は、2012年6月から12月、または2013年6月から12月に正期産で生まれた非低出生体重児の健康な乳児を対象とした大規模な人口ベースの出生コホートです。乳児は、米国テネシー州中部の小児科診療所11施設から募集されました。
生後1年間のRSV感染状況(感染なし vs. 感染あり)は、分子および血清学的手法によるウイルス同定を伴う受動的・能動的サーベイランスを併用して確認されました。その後、主要アウトカムである5年後の現在の喘息について、小児を前向きに追跡調査し、5年間の追跡調査を完了したすべての参加者を対象に分析しました。
データが入手可能な小児について行った統計モデルは、小児の性別、人種、民族、母乳育児の有無、乳児期のデイケアへの出席、胎内または乳児期早期の副流煙への曝露、母親の喘息で調整されました。
根拠となった試験の抄録
本研究に登録された1,946例の対象児のうち、1,741例(89%)は生後1年間のRSV感染状態を評価するためのデータが入手可能でした。乳幼児期にRSVに感染していた小児の割合は、1,741例中944例(54%、95%CI 52〜57)でした。
乳児期にRSV感染していない小児 | 乳児期にRSV感染している小児 | |
5年間の喘息児の割合 | 587例中91例[16%] p=0.016 | 670例中139例[21%] |
5年間の喘息児の割合は、乳児期にRSV感染していない小児(587例中91例[16%])では、乳児期にRSV感染している小児(670例中139例[21%]、p=0.016)より低いことが示された。
乳児期にRSV感染していない小児 vs. RSV感染児 | |
5年間の喘息リスク | 調整RR 0.74 (95%CI 0.58〜0.94) p=0.014 |
乳児期のRSV感染を避けることで予防できる 5年間の喘息の推定割合 | 15% (95%CI 2.2〜26.8) |
乳児期にRSVに感染していないことは、乳児期にRSVに感染していることよりも、5年間の喘息リスクが26%低いことと関連していました(調整RR 0.74、95%CI 0.58〜0.94、p=0.014)。乳児期のRSV感染を避けることで予防できる5年間の喘息の推定割合は15%(95%CI 2.2〜26.8)でした。
コメント
Respiratory Syncytial(RS)ウイルス感染症は、RSウイルスに感染することによって引き起こされる呼吸器の疾患です。一般的に2歳までに1度は罹患する感染症です。症状として「発熱」、「鼻汁」、「咳嗽」など風邪のような軽い症状が認められ、通常は数日から1週間くらいかけて徐々に寛解することが知られています。しかし、一部の患者においては重症化し、気管支炎や肺炎の兆候が認められ、なかには呼吸困難を起こして入院する患者もいます。
RSウイルス感染症の罹患と喘息リスクとの関連性についての報告があります。スウェーデンで行われた小規模な研究結果によれば、3歳までにRSウイルスによる細気管支炎に罹患すると、7歳半までに喘息を発症するリスクが10倍以上になる可能性が示されています。この要因として、幼少期に細気管支炎を発症することで5年後に気道が過敏になりやすくなると考えられており、その結果、喘息リスクが増加するという仮説です。しかし、何の報告も試験規模が小さく、より大規模な試験での検証が求められていました。
さて、米国の人口ベース前向き出生コホート研究の結果、正期産の健康な小児において、生後1年間にRSウイルスに感染していないことは、小児喘息の発症リスクを大幅に低減することと関連していました。
RSウイルスに対するワクチン開発に期待がかかります。続報に期待。
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