チェックの回数を増やすとエラーは減るのか?
薬剤師業務としての調剤・監査・鑑査では、正しい患者に、正しい薬剤が、正しい目的で、正しい用量、処方されていることを確認しています。その他に薬物相互作用などの安全性評価も行っています。
これにより期待する薬剤の効果を最大限引き出すことができます。とはいえ、ヒトは誤る生き物であり、ヒューマンエラーを完全に防ぐことは困難です。エラーを限りなくゼロにするための対策として、しばしばダブルチェックやトリプルチェックが行われますが、その効果検証については充分に行われていません。
そこで今回は、チェックする回数とエラー発生率との関連性について検証した試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
確認の多重化とエラー検出率
理論上、チェック回数を増やすことでエラー検出率を減らすことが期待できますが、実際にはエラー検出率が増加するのは2回チェック(多重度2)までで、3回以降は1回と同様の結果でした。
封筒に印刷された住所・氏名・郵便番号のチェック回数とエラー検出率
封筒の記載と住所録を照らし合わせ、正しいかどうかをチェックしたところ、チェック回数(多重度)を増やしてもエラー検出率は増加しませんでした。
コメント
チェック回数とエラー検出率の関連性について検証したところ、チェック回数を増やしても理論上期待できる効果を得ることはできませんでした。薬剤師を対象とした試験ではないため、結果の外挿性については限界があるものの、「正しい記載かチェックする」という点においては同様の作業であると考えられます。
そもそもヒトが集団で共同作業を行う際、集団の人数が増えると一人あたりの仕事効率が低下することが報告されています。これは、フランスの農学者であるマクシミリアン・リンゲルマンにより提唱された理論で “リンゲルマン効果(現象)” や “社会的手抜き現象” と呼ばれています。
ヒューマンエラーはしばしば個人に責任がかかることがありますが、たまたまその個人にエラーが発生しただけにすぎず、”その環境” では他者にも同様にエラーが発生する可能性が高いと考えられます。つまり、他人事ではなく自分事として捉え、組織長だけでなく組織に属する全員が対策を講じる必要があります。具体的には、環境要因を取り除いたり、機械・機器を導入することで、ヒトがかかわる部分を減らすなどの対策です。如何に機械に任せられることをヒトが手放し、本当にヒトが関与すべき点を明確にする必要があります。
☑まとめ☑ チェックする回数を3回以上に増やしても、ダブルチェックよりもエラー発生を低減できないかもしれない。エラーが起こった要因を分析、機械導入などを検討して、ヒューマンエラーを起こさない体制づくりが求められる。
参考文献
- 人間による防護の多重化の有効性. 島倉大輔・田中健次. 品質33; 104-112: 2003.
コメント