PCI後のSAPTとしてアスピリンよりクロピドグレルの方が患者予後に優れているが長期的な結果は示されていなかった
HOST-EXAM(Harmonizing Optimal Strategy for Treatment of Coronary Artery Stenosis-Extended Antiplatelet Monotherapy)において、経皮的冠動脈インターベンションを受けた虚血性心疾患患者の予後(全死亡、非致死性心筋梗塞、脳卒中、急性冠症候群による再入院、BARC type 3以上の出血の複合))に優れているのはクロピドグレルであることが示されました。しかし、抗血小板薬単剤治療(SAPT)のより長期的な成績は不明です。
そこで今回は、オリジナルのHOST-EXAM試験の長期追跡結果を報告したHOST-EXAM Extended試験の結果をご紹介します。
本試験は2014年3月から2018年5月にかけて、薬剤溶出性ステントを用いた経皮的冠動脈インターベンション後、12±6ヵ月間臨床イベントなく二重抗血小板療法(DAPT)を維持した5,438例を対象に、クロピドグレル(75mg1日1回)またはアスピリン(100mg1日1回)投与に1:1の割合でランダムに割付けました。
主要エンドポイント(全死亡、非致死性心筋梗塞、脳卒中、急性冠症候群による再入院、出血性疾患学術研究コンソーシアムBARC type 3以上の出血の複合)、二次血栓性エンドポイント(心臓死、非致死性心筋梗塞。非致死性心筋梗塞、虚血性脳卒中、急性冠症候群による再入院、ステント血栓症(明確あるいは疑い))、出血性エンドポイント(BARC type 2以上の出血)の解析が延長追跡期間中に行われました。解析はper-protocol集団(クロピドグレル群2,431例、アスピリン群2,286例)に対して実施されました。
試験結果から明らかになったことは?
クロピドグレル群 | アスピリン群 | ハザード比 HR | |
主要エンドポイント (全死亡、非致死性心筋梗塞、脳卒中、 急性冠症候群による再入院、BARC type 3以上の出血の複合) | 12.8% | 16.9% | HR 0.74 (95%CI 0.63~0.86) P<0.001 |
二次的血栓性エンドポイント | 7.9% | 11.9% | HR 0.66 (95%CI 0.55~0.79) P<0.001 |
二次的出血性エンドポイント | 4.5% | 6.1% | HR 0.74 (95%CI 0.57~0.94) P=0.016 |
全死亡 | 6.2% | 6.0% | HR 1.04 (95%CI 0.82~1.31) P=0.742 |
追跡期間中央値 5.8年(四分位範囲 4.8~6.2年)において、主要エンドポイントはクロピドグレル群で12.8%、アスピリン群で16.9%に発生しました(ハザード比 0.74、95%CI 0.63~0.86; P<0.001)。
クロピドグレル群は、二次的血栓性エンドポイント(7.9% vs. 11.9%;ハザード比 0.66、95%CI 0.55~0.79; P<0.001) と二次的出血性エンドポイント (4.5% vs. 6.1%;ハザード比 0.74、95%CI 0.57~0.94; P=0.016)のリスクが低いことが示されました。全死亡の発生率は2群間で有意差はありませんでした(6.2% vs. 6.0%;ハザード比 1.04、95%CI 0.82~1.31;P=0.742)。
2年後のランドマーク解析では、クロピドグレルの有益な効果は追跡期間を通じて一貫していることが示されました。
コメント
PCI後の血栓塞栓予防のために二重抗血小板療法(DAPT)が実施されますが、出血リスクを踏まえ、1~2年間を目安に単剤抗血小板療法(SAPT)に切り替えることが多いようです。SAPTとしてはアスピリンよりもクロピドグレルの方が優れていることが報告されていますが、より長期的な結果については不明でした。
さて、本試験結果によれば、薬剤溶出ステントを用いたPCI後12±6ヵ月間、臨床イベントの認められなかった患者において、DAPT後の単独療法としてクロピドグレルの方がアスピリンよりも複合転帰の割合が低いことと関連していました。クロピドグレルの有益な効果は追跡期間を通じて一貫していることが示されました。
より長期的な追跡期間においてもクロピドグレルの有益な結果が示されたことから、アスピリン+クロピドグレルによるDAPT後のSAPTへの切換えはクロピドグレルの方が良さそうです。
続報に期待。

☑まとめ☑ 薬剤溶出ステントを用いたPCI後12±6ヵ月間、臨床イベントの認められなかった患者において、DAPT後の単独療法としてクロピドグレルの方がアスピリンよりも複合転帰の割合が低いことと関連した。
根拠となった試験の抄録
背景:経皮的冠動脈インターベンションを受けた患者における抗血小板薬単剤治療の長期成績は不明である。HOST-EXAM(Harmonizing Optimal Strategy for Treatment of Coronary Artery Stenosis-Extended Antiplatelet Monotherapy)Extended試験は、オリジナルのHOST-EXAM試験の試験後の追跡結果を報告するものである。
方法:2014年3月から2018年5月にかけて、薬剤溶出性ステントを用いた経皮的冠動脈インターベンション後、12±6ヵ月間臨床イベントなく二重抗血小板療法(DAPT)を維持した5,438例を、クロピドグレル(75mg1日1回)またはアスピリン(100mg1日1回)投与に1:1の割合でランダムに割付けた。主要エンドポイント(全死亡、非致死性心筋梗塞、脳卒中、急性冠症候群による再入院、出血性疾患学術研究コンソーシアムBARC type 3以上の出血の複合)、二次血栓性エンドポイント(心臓死、非致死性心筋梗塞。非致死性心筋梗塞、虚血性脳卒中、急性冠症候群による再入院、ステント血栓症(明確あるいは疑い))、出血性エンドポイント(BARC type 2以上の出血)の解析を延長追跡期間中に行った。解析はper-protocol集団(クロピドグレル群2,431例、アスピリン群2,286例)に対して行った。
結果:追跡期間中央値 5.8年(四分位範囲 4.8~6.2年)において、主要エンドポイントはクロピドグレル群で12.8%、アスピリン群で16.9%発生した(ハザード比 0.74、95%CI 0.63~0.86; P<0.001)。クロピドグレル群は、二次的血栓性エンドポイント(7.9% vs. 11.9%;ハザード比 0.66、95%CI 0.55~0.79; P<0.001) と二次的出血性エンドポイント (4.5% vs. 6.1%;ハザード比 0.74、95%CI 0.57~0.94; P=0.016)のリスクが低かった。全死亡の発生率は2群間で有意差はなかった(6.2% vs. 6.0%;ハザード比 1.04、95%CI 0.82~1.31;P=0.742)。2年後のランドマーク解析では、クロピドグレルの有益な効果は追跡期間を通じて一貫していることが示された。
結論:ランダム化後5年を超える長期追跡期間の結果、薬剤溶出ステントを用いた経皮的冠動脈インターベンション後12±6ヵ月間、臨床イベントの認められなかった患者において、アスピリン単剤療法と比較してクロピドグレル単剤療法は複合正味臨床転帰の割合が低いことと関連した。
Clinicaltrials.gov登録番号: NCT02044250
キーワード:経皮的冠動脈インターベンション、血小板凝集抑制剤、治療成績
引用文献
Aspirin Versus Clopidogrel for Long-Term Maintenance Monotherapy After Percutaneous Coronary Intervention: The HOST-EXAM Extended Study
Jeehoon Kang et al. PMID: 36342475 DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.122.062770
Circulation. 2023 Jan 10;147(2):108-117. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.122.062770. Epub 2022 Nov 7.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36342475/
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