経口インスリン製剤(ORMD-0801)の開発が進んでいる
2022年12月現在、インスリンは注射製剤のみが製造販売されています。しかし、注射製剤は経口製剤と比較して侵襲性が高く、また社会的な背景から、より低侵襲性の製剤開発が望まれていました。
そこで今回は、近年開発が進んでいるインスリン経口製剤(ORMD-0801)の試験結果をご紹介します。
本試験では、2型糖尿病(T2DM)患者を対象に、経口インスリン製剤(ORMD-0801)の1日複数回投与による12週間の安全性および有効性が評価されました。メトホルミンまたは経口併用療法を受けている糖化ヘモグロビン(HbA1c)値7.5%(58mmol/mol)以上のT2DM患者を、12週間にわたりORMD-0801 8mgまたは16mgを1日1回(QD)あるいは2回(BID)、32mgをQD、BIDあるいは3回(TID)にランダム割り付けされました。
試験結果から明らかになったことは?
373例の被験者(男性60%、年齢56歳、HbA1c 9〜9.8%、75〜84mmol/mol)が、経口インスリン(ORMD-0801)投与群とプラセボ投与群に割り付けられました。
ベースラインから12週目までのプラセボ調整HbA1cの変化 | |
8mg 1日1回(QD) | -0.81 ± 0.37% (-8.89 ± 4.01mmol/mol) P=0.028 n=15 |
8mg 1日2回(BID) | -0.82 ± 0.37% (-8.95 ± 4.08 mmol/mol) P=0.029 n=17 |
32mg QD | -0.54 ± 0.26% (-5.89 ± 2.78mmol/mol) P=0.036 n=69 |
32mg BID | -0.53 ± 0.26% (-5.80 ± 2.83 mmol/mol) P=0.042 n=68 |
16mg BID | 0.36 ± 0.40% (-3.97 mmol/mol) P=0.36 n=15 |
32mg 1日3回(TID) | -0.45 ± 0.27%, (-4.89 ± 2.90 mmol/mol) P=0.093 n=69 |
ORMD-0801 8mg BIDの投与により、ベースラインから12週目までのプラセボ調整HbA1cの変化(-7.15±3.57 mmol/mol [-0.65% ± 0.33%]; P=0.046)が認められましたが、2つの施設で有意な施設間相互作用が観察されました。これらの施設を除くと、8mg QD(-0.81 ± 0.37%; -8.89 ± 4.01 mmol/mol; P=0.028、n=15)、8mg BID(-0.82 ± 0.37%; -8.95 ± 4.08 mmol/mol; P=0.029、n=17)、32mg QD(-0.54 ± 0.26%; -5.89 ± 2.78 mmol/mol; P=0.036、n=69)および32mg BID(-0.53 ± 0.26%; -5.80 ± 2.83 mmol/mol; P=0.042、n=68)でHbA1c低減がみられましたが、16mg QD(0.25 ± 0.37%; 2.76 ± 3.99 mmol/mol; P=0.48、n=18)、16mg BID(-0.36 ± 0.40%; -3.97 mmol/mol; P = 0.36、n=15)または32mg TID(-0.45 ± 0.27%, -4.89 ± 2.90 mmol/mol; P=0.093、n=69)ではHbA1c低下効果が観察されませんでした。
連続グルコースモニターと血清グルコース測定では、同様の傾向を示しましたが、有意差はありませんでした。
ORMD-0801は、安全性、忍容性が高く、体重増加や低血糖とは無縁なようでした。
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インスリン注射製剤の代替として経口インスリン製剤の開発が進んでいます。
さて、本試験結果によれば、経口インスリン製剤(ORMD-0801)は、プラセボと比較してより大きなHbA1cの減少をもたらし、コントロールされていない2型糖尿病患者において安全で良好な忍容性を有していました。
社会的な背景もあり、注射製剤の使用に対して抵抗を示す患者もいることから、本研究結果は社会的なニーズ、インパクトがあると考えられます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 経口インスリン製剤(ORMD-0801)は、プラセボと比較してより大きなHbA1cの減少をもたらし、コントロールされていないT2DM患者において安全で良好な忍容性を有していた。
根拠となった試験の抄録
目的:2型糖尿病(T2DM)患者を対象に、経口インスリン製剤(ORMD-0801)の1日複数回投与による12週間の安全性および有効性を評価する。
材料と方法:メトホルミンまたは経口併用療法を受けている糖化ヘモグロビン(HbA1c)値7.5%(58mmol/mol)以上のT2DM患者を、12週間にわたりORMD-0801 8mgまたは16mgを1日1回(QD)あるいは2回(BID)、32mgをQD、BIDあるいは3回(TID)にランダムに分けて投与した。
結果:373例の被験者(男性60%、年齢56歳、HbA1c 9〜9.8%、75〜84mmol/mol)が、経口インスリン投与群とプラセボ投与群に割り付けられた。ORMD-0801 8mg BIDの投与により、ベースラインから12週目までのプラセボ調整HbA1cの変化(-7.15±3.57mmol/mol [-0.65% ± 0.33%]; P=0.046)が認められた。しかし、2つの施設で有意な施設間相互作用が観察された。これらを除くと、8mg QD(-0.81 ± 0.37%; -8.89 ± 4.01 mmol/mol; P=0.028、n=15)、8mg BID(-0.82 ± 0.37%; -8.95 ± 4.08 mmol/mol; P=0.029、n=17)、32mg QD(-0.54 ± 0.26%; -5.89 ± 2.78 mmol/mol; P=0.036、n=69)および32mg BID(-0.53 ± 0.26%; -5.80 ± 2.83 mmol/mol; P=0.042、n=68)でHbA1c低減がみられた。16mg QD(0.25 ± 0.37%; 2.76 ± 3.99 mmol/mol; P=0.48、n=18)、16mg BID(-0.36 ± 0.40%; -3.97 mmol/mol; P = 0.36、n=15)または32mg TID(-0.45 ± 0.27%, -4.89 ± 2.90 mmol/mol; P=0.093、n=69)では効果は観察されなかった。連続グルコースモニターと血清グルコース測定では、同様の傾向を示したが、有意差はなかった。ORMD-0801は、安全性、忍容性が高く、体重増加や低血糖とは無縁であった。
結論:経口インスリン製剤(ORMD-0801)は、プラセボと比較してより大きなHbA1cの減少をもたらし、コントロールされていないT2DM患者において安全で良好な忍容性を有していた。この有効性と安全性の結果は、現在行われている2件の第3相試験で評価されている就寝時8 mg用量の開発を継続することを支持するものである。
キーワード:臨床試験、コホート研究、持続的血糖値モニタリング(CGM)、インスリン治療、2型糖尿病。
引用文献
Oral insulin (ORMD-0801) in type 2 diabetes mellitus: A dose-finding 12-week randomized placebo-controlled study
Roy Eldor et al. PMID: 36281496 DOI: 10.1111/dom.14901
Diabetes Obes Metab. 2022 Oct 24. doi: 10.1111/dom.14901. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36281496/
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