鉄欠乏性貧血を呈する炎症性腸疾患貧血の低リン血症に対してデルイソマルトース第二鉄とカルボキシマルトース第二鉄、どちらが良さそうですか?(DB-RCT; PHOSPHARE-IBD試験; Gut. 2022)

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鉄剤による低リン血症の発生リスクに差はあるのか?

炎症性腸疾患(IBD)による貧血や鉄欠乏症の一般的な治療法である鉄剤の静脈内投与は、低リン酸血症を引き起こすことがあります。しかし、薬剤間の比較検討は充分になされていません。

そこで今回は、カルボキシマルトース第二鉄(商品名:フェインジェクト)またはデリソマルトース第二鉄(デルイソマルトース第二鉄、商品名:モノヴァー)を投与し、低リン酸血症の発生率を比較したランダム化二重盲検臨床試験の結果をご紹介します。

本試験は、ヨーロッパ(オーストリア、デンマーク、ドイツ、スウェーデン、イギリス)の外来病院クリニック20施設で実施されました。IBDと鉄欠乏性貧血を有する成人患者を、ベースライン時と35日目にヘモグロビン量と体重に基づいた同一の投与方法で、そこで今回は、カルボキシマルトース第二鉄またはデルイソマルトース第二鉄をランダムに割り付けました(1:1)。

本試験の主要アウトカムは、安全性解析セット(試験薬を1回以上投与された全患者)におけるベースラインから35日目までの任意の時点の低リン酸血症(血清リン酸塩<2.0mg/dL)の発生率でした。また、ミネラルと骨のホメオスタシスのマーカー、および患者報告による疲労度スコアが測定されました。

試験結果から明らかになったことは?

合計156例の患者がスクリーニングされ、97例(デルイソマルトース第二鉄:49例、カルボキシマルトース第二鉄:48例)が組み入れられ治療を受けました。

デルイソマルトース第二鉄群カルボキシマルトース第二鉄群調整後リスク差
(95%CI)
低リン酸血症8.3%(4/48例)51.0%(25/49例)-42.8%
-57.1% 〜 -24.6%
p<0.0001

低リン酸血症は、デルイソマルトース第二鉄群では8.3%(4/48例)、カルボキシマルトース第二鉄群では51.0%(25/49例)に発現しました(調整後リスク差 -42.8%、95%CI -57.1% 〜 -24.6%、p<0.0001)。

両鉄剤とも鉄欠乏性貧血を改善しました。

患者報告による疲労スコアは両群で改善しましたが、カルボキシマルトース第二鉄ではデルイソマルトース第二鉄よりも遅く、程度も低いことが示されました。

疲労改善の遅さは、リン酸濃度の減少の大きさと関連していました。

コメント

炎症性腸疾患(IBD)による貧血や鉄欠乏症に対する鉄剤の静脈内投与で低リン酸血症が引き起こされることがあります。しかし、カルボキシマルトース第二鉄(商品名:フェインジェクト)とデリソマルトース第二鉄(デルイソマルトース第二鉄、商品名:モノヴァー)、どちらが優れているのかについては明らかとなっていません。

さて、本試験結果によれば、鉄欠乏性貧血の治療効果は同等でしたが、カルボキシマルトース第二鉄はデルイソマルトース第二鉄に比べて低リン酸血症を引き起こす割合が有意に高いことが示されました。

低リン血症の臨床的特徴としては、筋力低下、呼吸不全、心不全などがあり、痙攣や昏睡が起こる可能性もあることから治療が必要となります。したがって、低リン血症を引き起こしにくい鉄剤が求められています。薬価にもよりますが、貧血を呈するIBD患者の鉄欠乏症治療において、静脈内投与を必要とする場合は、モノヴァーでの治療を優先した方が良いのかもしれません。

続報に期待。

※2022年11月時点の薬価は、フェインジェクトが5,969円/瓶、モノヴァーが薬価未収載です。

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✅まとめ✅ 鉄欠乏性貧血の治療効果は同等であったが、カルボキシマルトース第二鉄はデルイソマルトース第二鉄に比べて低リン酸血症を引き起こす割合が有意に高かった。

根拠となった試験の抄録

目的:炎症性腸疾患(IBD)による貧血や鉄欠乏症の一般的な治療法である鉄剤の静脈内投与は、低リン酸血症を引き起こすことがある。本試験では、カルボキシマルトース(FCM)またはデルイソマルトース(FDI)を投与し、低リン酸血症の発生率を比較した。

試験デザイン:このランダム化二重盲検臨床試験は、ヨーロッパ(オーストリア、デンマーク、ドイツ、スウェーデン、イギリス)の20の外来病院クリニックで実施された。IBDと鉄欠乏性貧血(IDA)を有する成人患者を、ベースライン時と35日目にFCMまたはFDIを、ヘモグロビン量と体重に基づいた同一の投与方法で、1対1の割合でランダムに割り付けた。
主要アウトカムは、安全性解析セット(試験薬を1回以上投与された全患者)におけるベースラインから35日目までの任意の時点の低リン酸血症(血清リン酸塩<2.0mg/dL)の発生率とした。また、ミネラルと骨のホメオスタシスのマーカー、および患者報告による疲労度スコアが測定された。

結果:合計156例の患者がスクリーニングされ、97例(デルイソマルトース:49例、カルボキシマルトース:48例)が組み入れられ、治療を受けた。低リン酸血症は、デルイソマルトース投与群では8.3%(4/48例)、カルボキシマルトース投与群では51.0%(25/49例)に発現した(調整後リスク差 -42.8%、95%CI -57.1% 〜 -24.6%、p<0.0001)。両鉄剤とも鉄欠乏性貧血を改善した。患者報告による疲労スコアは両群で改善したが、カルボキシマルトースではデルイソマルトースよりも遅く、程度も低かった。疲労の改善の遅さは、リン酸濃度の減少の大きさと関連していた。

結論 :鉄欠乏性貧血の治療効果は同等であったが、カルボキシマルトースはデルイソマルトースに比べて低リン酸血症を引き起こす割合が有意に高かった。低リン血症の長期的な臨床的影響や、患者報告疲労に対する効果の違いに関するメカニズムについて、さらなる研究が必要である。

キーワード:IBD、貧血、鉄欠乏症

引用文献

Hypophosphataemia following ferric derisomaltose and ferric carboxymaltose in patients with iron deficiency anaemia due to inflammatory bowel disease (PHOSPHARE-IBD): a randomised clinical trial
Heinz Zoller et al. PMID: 36343979 DOI: 10.1136/gutjnl-2022-327897
Gut. 2022 Sep 9;gutjnl-2022-327897. doi: 10.1136/gutjnl-2022-327897. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36343979/

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