アスピリン使用中の高齢患者におけるヘリコバクター・ピロリ除菌は消化性潰瘍出血を予防できますか?(RCT; HEAT試験; Lancet 2022)

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ピロリ除菌によりアスピリン投与患者における消化性潰瘍リスクを低減できるのか?

アスピリン投与患者における消化性潰瘍は、Helicobacter pylori(H pylori)感染と関連していることが報告されています。しかし、ピロリ除菌によりアスピリン誘発の消化性潰瘍を予防できるのかについては明らかとなっていません。

そこで今回は、H pylori除菌がアスピリンに関連する潰瘍出血の予防になるかどうかを調査したランダム化比較試験の結果をご紹介します。

本試験では、ルーチンに収集された臨床データを用いて、英国の1,208施設のプライマリケアセンターでランダム化二重盲検プラセボ対照試験(Helicobacter Eradication Aspirin Trial[HEAT])が実施されました。試験対象は、1日量325mg以下のアスピリンを投与されている60歳以上の患者(過去1年間に28日分の処方が4回以上)で、スクリーニング時にH pyloriのC13尿素呼気試験で陽性であった患者でした。潰瘍形成薬や胃腸保護薬の投与を受けている患者は除外されました。

試験参加者は、クラリスロマイシン500mg、メトロニダゾール400mg、ランソプラゾール30mgを1日2回、1週間経口投与する方法(積極的除菌群)、またはプラセボ(対照群)にランダムに割り当てられました(1:1)。

試験参加者、一般医および医療従事者、ならびに研究看護師、試験チーム、判定委員会、および解析チームは、試験期間中、すべてグループ割付をマスクされました。

本試験の主要アウトカムは、明確または可能性のある消化性潰瘍出血による入院または死亡までの時間で、intention-to-treat集団においてCox比例ハザード法で解析されました。

試験結果から明らかになったことは?

2012年9月14日から2017年11月22日の間に、30,166例の患者がH pyloriの呼気検査を受け、5,367例が陽性となり、5,352例が積極的除菌群(n=2677)またはプラセボ群(n=2675)にランダムに割りつけられ、中央値5.0年(IQR 3.9〜6.4)フォローアップされました。

積極的除菌群対照群ハザード比 HR
(95%CI)
主要評価項目
明確または可能性のある
消化性潰瘍出血による入院
または死亡までの時
6エピソード
0.92/1,000人・年
(95%CI 0.41〜2.04)
17エピソード
2.61/1,000人・年
(1.62〜4.19)
HR 0.35
0.14〜0.89
p=0.028

主要評価項目の解析では、比例ハザードの仮定から有意に外れることが示され(p=0.0068)、期間を区切っての解析が必要となりました。積極的除菌群では、対照群と比較して、最初の2.5年の追跡期間中に主要転帰の発生率が有意に減少しました(確定または可能性のある消化性潰瘍出血と判定された6エピソード、0.92/1,000人・年[95%CI 0.41〜2.04] vs. 17エピソード、2.61/1,000人・年[1.62〜4.19]; ハザード比[HR] 0.35 [95%CI 0.14〜0.89]; p=0.028)。この優位性は死亡の競合リスクで調整した後も有意でしたが(p=0.028)、追跡期間が長くなると消失しました(最初の2.5年後の期間でHR 1.31 [95%CI 0.55〜3.11]; p=0.54)。

有害事象の報告は積極的に募集され、味覚障害が最も多い事象でした(787例)。

コメント

消化性潰瘍診療ガイドライン2020では、NSAIDs投与開始予定例(NSAID-naïve)では、潰瘍発生予防目的のH. pylori除菌は行うよう推奨するとされていますが、NSAIDsあるいは低用量アスピリン投与中の患者におけるH. pylori除菌の効果については明らかとなっていません。

さて、本試験結果によれば、H. pylori(ピロリ)除菌はアスピリンによる消化性潰瘍出血を予防しますが、その効果は長期的には持続しない可能性が示されました。

除菌しなかった場合のリスク(胃がん、消化性潰瘍など)が明らかとなっていますので、基本的には除菌することになると思います。しかし、除菌後にアトピー性皮膚炎や喘息リスクが増加する可能性も報告されていることから、患者ごとのリスクベネフィットを評価が求められます。

続報に期待。

crop doctor with stethoscope in hospital

✅まとめ✅ H pylori除菌はアスピリンによる消化性潰瘍出血を予防するが、その効果は長期的には持続しない可能性がある。

根拠となった試験の抄録

背景:アスピリン投与患者における消化性潰瘍は、Helicobacter pylori(H pylori)感染と関連している。我々は、H pyloriの除菌がアスピリンに関連する潰瘍出血の予防になるかどうかを調べることを目的とした。

方法:ルーチンに収集された臨床データを用いて、英国の1,208施設のプライマリケアセンターでランダム化二重盲検プラセボ対照試験(Helicobacter Eradication Aspirin Trial[HEAT])を実施した。対象は、1日量325mg以下のアスピリンを投与されている60歳以上の患者(過去1年間に28日分の処方が4回以上)で、スクリーニング時にH pyloriのC13尿素呼気試験で陽性であった患者だった。潰瘍形成薬や胃腸保護薬の投与を受けている患者は除外された。参加者は、クラリスロマイシン500mg、メトロニダゾール400mg、ランソプラゾール30mgを1日2回、1週間経口投与する方法(積極的除菌)、またはプラセボ(対照)をランダムに割り当てられた(1:1)。参加者、一般医および医療従事者、ならびに研究看護師、試験チーム、判定委員会、および解析チームは、試験期間中、すべてグループ割付をマスクされた。フォローアップは、プライマリーケアとセカンダリーケアにおける電子データの精査によって行われた。
主要アウトカムは、明確または可能性のある消化性潰瘍出血による入院または死亡までの時間で、intention-to-treat集団においてCox比例ハザード法で解析された。
本試験はEudraCT(2011-003425-96)に登録されている。

調査結果:2012年9月14日から2017年11月22日の間に、30,166例の患者がH pyloriの呼気検査を受け、5,367例が陽性となり、5,352例が積極的除菌(n=2677)またはプラセボ(n=2675)にランダムに割りつけられ、中央値5.0年(IQR 3.9〜6.4)フォローアップされた。主要評価項目の解析では、比例ハザードの仮定から有意に外れることが示され(p=0.0068)、期間を区切っての解析が必要となった。積極的除菌群では、対照群と比較して、最初の2.5年の追跡期間中に主要転帰の発生率が有意に減少した(確定または可能性のある消化性潰瘍出血と判定された6エピソード、0.92/1,000人・年[95%CI 0.41〜2.04] vs. 17エピソード、2.61/1,000人・年[1.62〜4.19]; ハザード比[HR] 0.35 [95%CI 0.14〜0.89]; p=0.028)。この優位性は死亡の競合リスクで調整した後も有意であったが(p=0.028)、追跡期間が長くなると消失した(最初の2.5年後の期間でHR 1.31 [95%CI 0.55〜3.11]; p=0.54)。有害事象の報告は積極的に募集され、味覚障害が最も多い事象であった(787例)。

解釈:H pylori除菌はアスピリンによる消化性潰瘍出血を予防するが、その効果は長期的には持続しない可能性がある。

資金提供:National Institute for Health and Care Research Health Technology Assessment(国立医療技術評価研究所)

引用文献

Helicobacter pylori eradication for primary prevention of peptic ulcer bleeding in older patients prescribed aspirin in primary care (HEAT): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial
Chris Hawkey et al. PMID: 36335970 DOI: 10.1016/S0140-6736(22)01843-8
Lancet. 2022 Nov 5;400(10363):1597-1606. doi: 10.1016/S0140-6736(22)01843-8.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36335970/

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