心房細動を有する80歳以上の高齢フレイル患者における超低用量エドキサバンは有効ですか?(コホート研究; ELDERCARE-AF試験; JAMA Netw Open. 2022)

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高齢のフレイル患者において低用量エドキサバンは有益なのか?

一般的な不整脈である心房細動(AF)の有病率は加齢とともに増加し(PMID: 11343485PMID: 1866765)、虚弱(フレイル)もまた高齢者集団に影響を及ぼす一般的な状態です(PMID: 28142044)。虚弱は、加齢に伴う様々な生理的メカニズムにおける予備能や機能の低下に起因する脆弱性の増大と定義され(PMID: 21093718)、体重減少、転倒リスク、腎機能低下など様々な有害事象のリスク上昇と関連していることが報告されています(PMID: 11253156PMID: 33895845)。

心房細動患者の心筋梗塞を予防するため、臨床ガイドラインでは、高齢で虚弱な患者であっても直接経口抗凝固薬(DOAC)の使用を推奨しています(PMID: 3389584PMID: 34887945)。しかし、DOACの使用は出血のリスクを高める可能性があるため、虚弱に関連する危険因子の評価とモニタリングが推奨されています(PMID: 3389584PMID: 32860505)。DOAC治療の利点は、虚弱に伴うリスクを上回ると報告されています(PMID: 3389584PMID: 32860505)。しかし、虚弱を伴う超高齢の心房細動患者におけるDOACの使用に関するエビデンスは不足しています。この患者群には、重度の腎障害、出血歴、転倒歴、低体重、ポリファーマシーなどの出血の危険因子があるため、多くの医師は依然として虚弱の超高齢患者に標準用量のDOACを処方することに消極的です。

エドキサバンは、心房細動患者における虚血性脳卒中および全身性塞栓症の予防薬として承認されています(PMDA)。ELDERCARE-AF(Edoxaban Low-Dose for Elder Care Atrial Fibrillation Patients)試験では、出血リスクが高いため標準的な経口抗凝固薬(DOAC, OAC)療法が不適格とされた超高齢日本人AF患者(80歳以上)に対する超低用量エドキサバン(15mg)の有効性と安全性がプラセボと比較検討されました。その結果、エドキサバン15mgは、プラセボと比較して、脳卒中および全身性塞栓症(Stroke and Systemic Embolism, SSE)の予防に有効であり、大出血の発生率を有意に増加させないことが明らかになりました。この試験では、超高齢患者を治療する際にしばしば懸念される虚弱性(ELDERCARE-AF)を、5つの身体状態指標からなる日本版Fried criteria(PMID: 26338685)を用いて評価しました(PMID: 11253156)。本試験の登録患者の約40%が虚弱スコア3以上であり、虚弱と分類されました(ELDERCARE-AF)。ELDERCARE-AF試験の結果に基づいて、日本では出血リスクの高い高齢の心房細動患者に対するエドキサバン15mgの使用が承認されましたが(PMDA)、虚弱患者におけるエドキサバンの治療成績と安全性に関する疑問が残っています。

そこで今回は、ELDERCARE-AF試験のデータを用いて、(1)ELDERCARE-AF試験集団(80歳以上)の虚弱状態における超高齢心房細動患者のSSE、大出血、死亡リスクを検討し、(2)各虚弱評価パラメータを含む虚弱状態におけるエドキサバン15mgとプラセボに伴う転帰を検討したコホート研究の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

合計984例の患者(エドキサバン群、プラセボ群 各492例)がランダムに割り付けられ、944例(虚弱者 402例[42.6%]、非虚弱者 542例[57.4%]、平均[SD]年齢 86.6[4.3]歳、女性 541例[57.3%])がこの解析に含まれました。

脳卒中または全身性塞栓症の
推定イベント発生率
フレイル群非フレイル群調整後ハザード比[HR]
95%CI
プラセボ群7.1%(SE 1.6%)
/患者・年
6.1%(1.3%)
/患者・年
HR 1.04
(95%CI 0.56~1.94
調整後P=0.91
エドキサバン群2.5%(SE 1.0%)1.5%(SE 0.6%)調整後HR 1.41
(95%CI 0.44~4.49
調整後P=0.56

プラセボ群における脳卒中または全身性塞栓症(SSE)の推定イベント発生率(SE)は、フレイル群 7.1%(1.6%)/患者・年、非フレイル 群6.1%(1.3%)/患者・年で、両群間に差はありませんでした(調整後ハザード比[HR]、1.04;95%CI 0.56~1.94;調整後P=0.91)。5つの虚弱評価項目のうち、握力の低下はSSEのリスク上昇と関連していました(虚弱患者38/368例[7.8%] vs. 非虚弱患者4/102例[2.6%];未調整HR 2.91;95%CI 1.04〜8.16;未調整P=0.04)。

エドキサバン群では、SSEの推定イベント発生率(SE)は、フレイル群 2.5%(1.0%)、非フレイル群1.5%(0.6%)でした(調整後HR 1.41;95%CI 0.44~4.49;調整後P=0.56)。プラセボ群と比較して、エドキサバン群では各虚弱評価パラメータを含む虚弱状態にかかわらず、一貫してSSEイベントが少なく、群間異質性は認められませんでした。

大出血および大出血または臨床的に重要な非大出血イベントは、いずれもエドキサバン群がプラセボ群より数値的に高く、虚弱状態による異質性は認められませんでした。全死亡および正味臨床複合転帰はいずれも虚弱群で非虚弱群より多く発生しましたが、エドキサバン群とプラセボ群との間に虚弱状態との関連は認められませんでした。

コメント

高齢化社会において心不全や心房細動の有病率が増加しています。さらに、超高齢者の割合の増加に伴い、虚弱(フレイル)状態を呈する患者割合も増加しています。しかし、フレイル状態の心房細動患者における薬剤の治療効果が、フレイル状態でない(非フレイル)心房細動患者においても認められるのかについては充分に検討されていません。

さて、本試験結果によれば、フレイル状態の有無にかかわらず、標準的な経口抗凝固薬が適用できない80歳以上の日本人心房細動患者において、エドキサバン15mgは脳卒中または全身性塞栓症の発症を抑制しました。フレイルの有無は、80歳以上の高齢心房細動患者におけるエドキサバンの治療成績に影響しない可能性が示されました。ただし、本試験はランダム化比較試験後の観察研究であるため、追試が求められます。

続報に期待。

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☑まとめ☑ フレイル(虚弱)の状態にかかわらず、標準的な経口抗凝固薬が適用できない80歳以上の日本人心房細動患者において、エドキサバン15mgは脳卒中または全身性塞栓症の発症を抑制し、これらの患者に対する適切な治療選択肢となる可能性が示唆された。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性:心房細動(AF)の有病率は年齢とともに増加し、虚弱な患者においてより一般的である。しかし、標準的な抗凝固薬治療が適用できないフレイル(虚弱)体質の超高齢心房細動患者における経口抗凝固薬(DOAC, OAC)の転帰に関するデータは不足している。

目的:ELDERCARE-AF(Edoxaban Low-Dose for Elder Care Atrial Fibrillation Patients)試験の対象となった心房細動患者において、5つの虚弱評価項目のそれぞれを含む虚弱状態別に超低用量エドキサバン(15 mg/日)とプラセボの比較検討を行うこと。

試験デザイン、設定、参加者:本試験は、出血リスクが高いため脳卒中予防に承認された用量のOACが無効であった80歳以上の日本人心房細動患者を対象とした多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照第3相試験ELDERCARE-AFのデータを用いたコホート研究である。対象患者をエドキサバンまたはプラセボにランダムに割り付けた(1:1)。試験期間は2016年8月5日から2019年11月5日までで、最後の患者のフォローアップは2019年12月27日に行われた。データ解析は2021年2月~2022年2月に実施した。

投与対象:エドキサバン(15 mg)またはプラセボの1日1回投与。

主要アウトカムと測定値:有効性の主要評価項目は脳卒中または全身性塞栓症の複合とし、安全性の主要評価項目は大出血とした。

結果:合計984例の患者(エドキサバン群、プラセボ群 各492例)がランダムに割り付けられ、944例(虚弱者 402例[42.6%]、非虚弱者 542例[57.4%]、平均[SD]年齢 86.6[4.3]歳、女性 541例[57.3%])がこの解析に含まれた。プラセボ群における脳卒中または全身性塞栓症の推定イベント発生率(SE)は、フレイル群では1患者・年当たり7.1%(1.6%)、非フレイル群では1患者・年当たり6.1%(1.3%)であった。エドキサバンは、脳卒中や全身性塞栓症のイベント発生率の低下と関連しており、虚弱状態や虚弱評価パラメータとの相互作用はみられなかった。大出血および大出血または臨床的に重要な非大出血イベントは、いずれもエドキサバン群がプラセボ群より数値的に高く、虚弱状態による異質性は認めなかった。全死亡および正味臨床複合転帰はいずれも虚弱群で非虚弱群より多く発生したが、エドキサバン群とプラセボ群との間に虚弱状態との関連は認められなかった。

結論と関連性:フレイル(虚弱)の状態にかかわらず、標準的なOACが適用できない80歳以上の日本人心房細動患者において、1日1回投与の15 mgエドキサバンは脳卒中または全身性塞栓症の発症を抑制し、これらの患者に対する適切な治療選択肢となる可能性が示唆された。

引用文献

Outcomes and Safety of Very-Low-Dose Edoxaban in Frail Patients With Atrial Fibrillation in the ELDERCARE-AF Randomized Clinical Trial
Shintaro Akashi et al. PMID: 35997978 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2022.28500
JAMA Netw Open. 2022 Aug 1;5(8):e2228500. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2022.28500.
— 読み進める jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2795555

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