経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)後のDAPTとDOAC、どちらが良いのか?
経口直接抗凝固薬(OAC, DOAC)であるエドキサバンが、経カテーテル大動脈弁置換術後の弁尖血栓症(あるいは弁血栓症; leaflet thrombosis)およびそれに伴う脳血栓塞栓症のリスクを低減できるかどうかは不明です。また、無症候性弁尖血栓症と脳血栓塞栓症や神経・認知機能障害との因果関係も不明なままです。
そこで今回は、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)が成功し、抗凝固療法の適応がない患者を対象に、エドキサバンと二重抗血小板療法(アスピリン+クロピドグレル)を比較した多施設共同オープンラベルランダム化試験、ADAPT-TAVR試験の結果をご紹介します。
本試験の主要評価項目は、6ヵ月後の4次元コンピュータ断層撮影における弁尖血栓症の発生率でした。主要な副次的エンドポイントは、脳磁気共鳴画像における新しい脳病変の数と体積、および6ヵ月後と経カテーテル大動脈弁置換術直後の神経学的機能と神経認知機能の連続的変化でした。
試験結果から明らかになったことは?
最終的なintention-to-treat集団には229例の患者が含まれました。
エドキサバン群 | DAPT群 | 絶対差 [95%CI] | |
弁尖血栓症の発生率 | 9.8% | 18.4% | -8.5% [-17.8% ~ 0.8%] P=0.076 |
二重抗血小板療法(DAPT)群と比較して、エドキサバン群では弁尖血栓症の発生率が低い傾向が見られました(9.8% vs. 18.4%; 絶対差 -8.5%[95%CI -17.8% ~ 0.8%]; P=0.076)。
脳磁気共鳴画像で新しい脳病変を認めた患者の割合(エドキサバン群 25.0% vs. DAPT群 20.2%、差 4.8%、95%CI -6.4 〜 16.0%)、総新病変数および体積中央値は両群間に差はありませんでした。また、神経機能および神経認知機能の悪化を認めた患者の割合、出血性イベントの発生率において、両群間に差はありませんでした。
弁尖血栓症の有無や程度と新たな脳病変や神経・認知機能変化と、各治療との間に有意な関連は認められませんでした。
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経カテーテル大動脈弁置換術後の弁尖血栓症(あるいは弁血栓症)およびこれに伴う脳血栓塞栓症のリスク増加が知られています。そのため、血栓塞栓症の予防として二重抗凝固療法(DAPT)が用いられています。一方、経口直接抗凝固薬(OAC, DOAC)による上記のリスク低減効果については明らかとなっていません。
さて、本試験結果によれば、経カテーテル大動脈弁置換術成功後、長期抗凝固療法の適応がない患者において、弁血栓症の発生率はエドキサバンの方が二重抗血小板療法より数値的に低いことが示されました(9.8% vs. 18.4%)。しかし、統計学的な有意差は認められませんでした。有料であるため本文を確認できませんでしたが、おそらく区間推定値が広いことが予想されます。また、抄録の結論部分からサンプルサイズが不充分であった可能性が考えられます。いずれにせよ仮説生成的な結果であることから、追試が求められます。現在のところ、TAVR後におけるDOAC使用は勧められません(※2022年7月現在、エドキサバンをはじめとするDOACは、弁膜症に伴う血栓塞栓症に対して適応を有していません。)。
続報に期待。
☑まとめ☑ 経カテーテル大動脈弁置換術成功後、長期抗凝固療法の適応がない患者において、弁尖血栓症の発生率はエドキサバンの方が二重抗血小板療法より数値的に低かったが、統計学的有意差はなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:経口直接抗凝固薬エドキサバンが経カテーテル大動脈弁置換術後の弁尖血栓症( leaflet thrombosis)およびそれに伴う脳血栓塞栓症のリスクを低減できるかどうかは不明である。また、無症候性弁尖血栓症と脳血栓塞栓症や神経・認知機能障害との因果関係も不明なままである。
方法:経カテーテル大動脈弁置換術が成功し、抗凝固療法の適応がない患者を対象に、エドキサバンと二重抗血小板療法(アスピリン+クロピドグレル)を比較する多施設共同オープンラベルランダム化試験を実施した。
主要評価項目は、6ヵ月後の4次元コンピュータ断層撮影における弁尖血栓症の発生率とした。主要な副次的エンドポイントは、脳磁気共鳴画像における新しい脳病変の数と体積、および6ヵ月後と経カテーテル大動脈弁置換術直後の神経学的機能と神経認知機能の連続的変化であった。
結果:最終的なintention-to-treat集団には229例の患者が含まれた。二重抗血小板療法(DAPT)群と比較して、エドキサバン群では弁尖血栓症の発生率が低い傾向が見られた(9.8% vs. 18.4%; 絶対差 -8.5%[95%CI -17.8% ~ 0.8%]; P=0.076)。脳磁気共鳴画像で新しい脳病変を認めた患者の割合(エドキサバン群 25.0% vs. DAPT群 20.2%、差 4.8%、95%CI -6.4 〜 16.0%)、総新病変数および体積中央値は両群間に差はなかった。また、神経機能および神経認知機能の悪化を認めた患者の割合、出血性イベントの発生率において、両群間に差はなかった。弁尖血栓症の有無や程度と新たな脳病変や神経・認知機能変化との間に有意な関連は認められなかった。
結論:経カテーテル大動脈弁置換術成功後、長期抗凝固療法の適応がない患者において、弁尖血栓症の発生率はエドキサバンの方が二重抗血小板療法より数値的に低かったが、統計学的有意差はなかった。また、新たな脳血栓塞栓症や神経機能・神経認知機能への影響も2群間で差はなかった。本試験はパワー不足であったため、結果は仮説の創出と考えるべきであり、さらなる研究の必要性が強調された。
試験登録:https://www.Clinicaltrials: gov. NCT03284827
キーワード:抗凝固薬、大動脈弁狭窄症、血栓塞栓症、血栓症、経カテーテル大動脈弁置換術
引用文献
Edoxaban Versus Dual Antiplatelet Therapy for Leaflet Thrombosis and Cerebral Thromboembolism After TAVR: The ADAPT-TAVR Randomized Clinical Trial
Duk-Woo Park et al. PMID: 35373583 DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.122.059512
Circulation. 2022 Aug 9;146(6):466-479. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.122.059512. Epub 2022 Apr 4.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35373583/
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