ミソプロストール併用はNSAIDsによる心血管イベントの発生を予防できるのか?
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、心血管系有害事象のリスクを高めるにもかかわらず、疼痛に対して最も頻繁に使用される薬剤の一つです。また、NSAIDsは薬剤誘発性の消化性潰瘍を引きこ起こすことも知られています。そのため、しばしば防御因子増強薬と併用されます。しかし、防御因子増強薬を併用することで心血管イベントのリスクを低減できるのかについては明らかとなっていません。
そこで今回は、NSAIDsとNSAIDs+ミソプロストールの間で、心血管、脳血管、腎臓のイベント発生率に差があるのかを検討したコホート研究の結果をご紹介します。
本試験は、米国退役軍人の集団ベースの既往コホート(historical cohort)で、処方されたNSAIDs(1,681,609例) vs. NSAIDs+ミソプロストール(5,972例のミソプロストール使用者)を5年間追跡調査しました。Intent-to-treat解析では、NSAID群とNSAID+ミソプロストール群を、傾向スコアで重み付けしたポアソン回帰モデルを用いて罹患率(IRR)を推定し、Cox回帰を用いてハザード比(HR)を推定し、比較検討しました。
試験結果から明らかになったことは?
最も処方されたNSAIDsはジクロフェナクとイブプロフェンでした。平均追跡期間は35.2±14.5ヵ月でした。
NSAID群 | NSAID +ミソプロストール群 | ハザード比 | |
総心腎イベント | 439例 (5.62/1,000人・月) | 419例 (5.01/1,000人・月) | HR 0.89 (95%CI 0.78〜1.019) p=0.09 |
総心腎イベントはNSAID群で439例(5.62/1,000人・月)、NSAID+ミソプロストール群で419例(5.01/1,000人・月)でした(Hazard Ratio (HR) 0.89、95%信頼区間 [CI] 0.78〜1.019; p=0.09)。
ハザード比 | |
心血管イベント | HR 0.56 (95%CI 0.34〜0.93) p<0.0001 |
脳血管イベント | HR 0.74 (95%CI 0.60〜0.94) p<0.0001 |
腎イベント | HR 0.67 (95%CI 0.49〜0.89) p<0.0001 |
全死亡率 | HR 1.05 (95%CI 0.88〜1.25) p=0.61 |
心血管イベントのリスクは、NSAID+ミソプロストール群で低いことが示されました(HR 0.56、95%CI 0.34〜0.93; p<0.0001)。脳血管イベント(HR 0.74、95%CI 0.60〜0.94; p<0.0001) 、腎イベント(HR 0.67、95%CI 0.49〜0.89; p<0.0001)の発生率はNSAID+ミソプロストール群で低かったものの、全死亡率は両群間に差はありませんでした(HR 1.05、95%CI 0.88〜1.25; p=0.61)。
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消炎鎮痛薬としてNSAIDsが頻用されていますが、安全性の評価、リスク対策が求められます。特に心血管イベントの発生についてのリスク管理が求められます。NSAIDs使用時には、しばしば防御因子増強薬と併用されますが、防御因子増強薬を併用することで心血管イベントのリスクを低減できるのかについては明らかとなっていません。
さて、本試験結果によれば、NSAID単独使用と比較して、NSAID+ミソプロストールの併用は、NSAIDによる心血管、脳血管、腎臓の有害事象のリスク低減と関連している可能性が示されました。ただし、本試験は米国退役軍人の集団ベースの既往コホートであるため、男性の占める割合が多いと考えられます。また試験デザインから、あくまでも相関関係が示されたに過ぎません。追試が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ NSAID単独使用と比較して、NSAID+ミソプロストールの併用は、NSAIDによる心血管、脳血管、腎臓の有害事象のリスク低減と関連しているかもしれない。
根拠となった試験の抄録
背景:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、心血管系有害事象のリスクを高めるにもかかわらず、疼痛に対して最も頻繁に使用される薬剤の一つである。
目的:本研究の目的は、NSAIDsとNSAIDs+ミソプロストールの間で、心血管、脳血管、腎臓のイベント発生率を明らかにすることであった。
方法:米国退役軍人の集団ベースの既往コホート(historical cohort)で、処方されたNSAIDs(1,681,609例) vs. NSAIDs+ミソプロストール(5,972例のミソプロストール使用者)を5年間追跡調査した。Intent-to-treat解析では、NSAID群とNSAID+ミソプロストール群を、傾向スコアで重み付けしたポアソン回帰モデルを用いて罹患率(IRR)を推定し、Cox回帰を用いてハザード比(HR)を推定し、比較検討した。
結果:最も処方されたNSAIDsはジクロフェナクとイブプロフェンであった。平均追跡期間は35.2±14.5ヵ月であった。総心腎イベントはNSAID群で439例(5.62/1,000人・月)、NSAID+ミソプロストール群で419例(5.01/1,000人・月)だった(Hazard Ratio (HR) 0.89、95%信頼区間 [CI] 0.78〜1.019; p=0.09)。心血管イベントのリスクは、NSAID+ミソプロストール群で低かった(HR 0.56、95%CI 0.34〜0.93; p<0.0001)。脳血管イベント発生率(HR 0.74、95%CI 0.60〜0.94; p<0.0001) 、腎イベント(HR 0.67、95%CI 0.49〜0.89; p<0.0001)はNSAID+ミソプロストール群で低かった。全死亡率は両群間に差はなかった(HR 1.05、95%CI 0.88〜1.25; p=0.61)。
結論:NSAID単独使用と比較して、NSAID+ミソプロストールの併用は、NSAIDによる心血管、脳血管、腎臓の有害事象のリスク低減と関連している。これらのデータは、ミソプロストールとの併用により、より安全なNSAIDの開発を支持するものである。
キーワード:急性心筋梗塞、心血管系イベント、ミソプロストール、非ステロイド性抗炎症薬、腎不全、脳卒中
引用文献
Reduced risk of NSAID-Induced adverse events with concomitant use of misoprostol (MICRO study)
Mark A Munger et al. PMID: 35661392 DOI: 10.1002/phar.2708
Pharmacotherapy. 2022 Jul;42(7):540-548. doi: 10.1002/phar.2708. Epub 2022 Jun 16.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35661392/
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