白内障に対する即時両眼手術と別日に片眼ずつ手術、どちらが良いですか?(SR&MA; Cochrane Database Syst Rev. 2022)

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白内障は両眼とも同日に手術する場合と、片眼ずつ別日に手術する場合、どちらが良いのか?

加齢性白内障は、ほとんどの場合、両眼に発症します。多くの場合、白内障手術は両眼別々の日に行われ、これは、遅延連続両眼白内障手術(delayed sequential bilateral cataract surgery, DSBCS)と呼ばれています。もう一つの方法としては、同じ日に両眼を手術する方法ですが、これは即時連続両眼白内障手術(immediate sequential bilateral cataract surgery, ISBCS)と呼ばれています。

即時連続両眼白内障手術の利点としては、患者の通院回数が少なく、視力回復が早く、医療費も抑えられることが挙げられます。しかし、即時連続両眼白内障手術では術後に視力を脅かすような有害事象が発生する可能性について懸念が残っています。したがって、即時連続両眼白内障手術と遅延連続両眼白内障手術の安全性、有効性、費用対効果に関するエビデンスを評価する必要があります。

そこで今回は、両側性加齢性白内障患者における遅延連続両眼白内障手術と比較した即時連続両眼白内障手術の安全性を評価し、コスト資源、効用、費用、費用対効果に関する現在のエビデンスを要約することを目的に実施された2022年のコクランレビューの結果をご紹介します。本試験の第二の目的は、両側性加齢性白内障患者において、視覚的アウトカムと患者報告アウトカムを評価することでした。

試験結果から明らかになったことは?

対象となった試験数
14件
・ランダム化比較試験 (RCT)2件
・非ランダム化比較試験
(NRS)
7件
・経済評価6件
(1件はNRSと重複)

2件のランダム化比較試験(RCT)、7件の非ランダム化比較試験(NRS)、6件の経済評価(1件はNRSと経済評価の両方)、計14件の研究をレビューの対象としました。これらの研究は276,260例(ISBCSは7,384例、DSBCSは268,876例)について報告し、カナダ、チェコ共和国、フィンランド、イラン、韓国、スペイン(カナリア諸島)、スウェーデン、英国、米国で実施されたものでした。

全体として、対象となったRCTは、合併症についてはバイアスのリスクが「高~やや懸念」、屈折アウトカムと視力についてはバイアスリスクが「やや懸念」、PROMについてはバイアスのリスクが「高」であると判断されました。NRSの全体的なバイアスリスクは、合併症に関しては「深刻」、屈折アウトカムに関しては「深刻~重大」と評価されました。

ISBCS群DSBCS群リスク比(RR)
[95%CI]
エビデンスの確実性
眼内炎1/14,076例 55/556,246例相対効果の推定が不正確
低い確実性
※いずれもリスクは非常に低い
屈折アウトカム*RCT:RR 0.84[0.57~1.26]、中程度の確実性
NRS:RR 1.02[0.60~1.75]、低い確実性
術後合併症RCT:RR 1.33[0.52~3.40]、非常に低い確実性
NRS:1.04[0.47~2.29]、非常に低い確実性
総費用ISBCSはDSBCSに比べて参加者1人あたりの総費用が低い
RCT:低い確実性
NRS:非常に低い確実性
*術後1~3ヵ月で屈折が目標の1.0ディオプトル以内に収まらない眼の割合

眼内炎に関しては、相対効果の推定が不正確であり、確実性が低いため、相対推定値の信頼性が低いことが判明しました。それでも、即時連続両眼白内障手(ISBCS)群 1/14,076例、遅延連続両眼白内障手術(DSBCS)群 55/556,246例ともに、眼内炎のリスクは非常に低いことが明らかとなりました。記述的証拠と部分的に弱い統計的証拠に基づき、即時連続両眼白内障手術による眼内炎のリスク上昇の証拠は見いだされませんでした。

屈折アウトカムについては、術後1~3ヵ月で屈折が目標の1.0ディオプトル以内に収まらない眼の割合に群間差がないことを示す、中程度の確実性(RCT)および低い確実性(NRS)の証拠が見つかりました(RCT:リスク比(RR)0.84、95%信頼区間(CI) 0.57~1.26; NRS:RR 1.02、95%CI 0.60~1.75)。同様に、術後合併症も群間で差はありませんでしたが(RCT:RR 1.33、95%CI 0.52~3.40; NRS:1.04、95%CI 0.47~2.29)、このエビデンスの確実性はRCT、NRSともに非常に低いものでした。

個々の研究の結果をプールすることはできませんでしたが、ISBCSはDSBCSに比べて参加者1人あたりの総費用が低いという低い確実性(RCT)~非常に低い確実性(NRS)のエビデンスが見いだされました。費用対効果について報告した研究は1件のみでした。この研究では、ISBCSはDSBCSと比較して費用対効果が高いことが分かりましたが、望ましい方法で質調整生命年を測定していなかったため、費用の計算が誤っていました。

副次的アウトカムに関して、最高矯正遠用視力(BCDVA)に関する限られたエビデンスが見出されました(2件のRCTのデータをプールすることはできませんでしたが、両研究において個々に群間差は見出されませんでした(非常に低い確実性のエビデンス)。患者報告アウトカム指標(PROMに関しては、術後1~3ヵ月で群間差がない(標準化平均差-0.08、95%CI -0.19~0.03)という中程度の確実性のエビデンス(RCTのみ)が見出されました。

コメント

白内障の患者数は高齢化社会とともに増加しています。また、電子機器の強い光あるいは紫外線、外傷、2型糖尿病やアトピー性皮膚炎に続発する若年性白内障も増加しています。白内障の原因は水晶体が濁ってしまうことです。水晶体の細胞内に含まれているタンパク質が酸化し、徐々に白く濁ってくるため、眼の見えにくさや、まぶしさを感じるようになります。白内障は一般的に両眼に発症することが報告されています。前述の発症機序から、白内障の根本的な治療は手術で水晶体の濁りを取り除くしかありません。しかし、白内障手術における即時両眼手術と別日に片眼ずつ手術を行う場合、どちらが優れているのかについては明らかになっていません。

さて、本試験結果によれば、即時連続両眼白内障手術と遅延連続両眼白内障手術の間に臨床的に重要な結果の違いはないことが示されました。さらに、即時連続両眼白内障手術の方が低コストであることが支持されました。しかし、エビデンスは限られており、エビデンスの確実性は中程度から非常に低いと評価されました。

患者負担としては、来院頻度なども考慮すると両眼手術の方が優れていそうです。ただし、手術直後は瞳孔が開いているため、術後4〜5時間程度、安静にする必要があると考えられます。また、視力に左右差があり、ピント調節に時間がかかると考えられる場合、片眼ずつの手術が向いている可能性が高いです。現時点では、費用対効果を踏まえると両眼同日手術の方が優れていそうですが、有効性、安全性に差がないことから、個々の患者に合った方法を選択しても差し支え無さそうです。

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✅まとめ✅ 現在のエビデンスでは、即時連続両眼白内障手術と遅延連続両眼白内障手術の間に臨床的に重要な結果の違いはないだろうが、即時連続両眼白内障手術の方が低コストであることが支持されている。しかし、エビデンスは限られており、エビデンスの確実性は中程度から非常に低いと評価された。

根拠となった試験の抄録

背景:加齢性白内障は、ほとんどの場合、両眼に発症する。多くの場合、白内障手術は両眼別々の日に行われ、遅延連続両眼白内障手術(delayed sequential bilateral cataract surgery, DSBCS)と呼ばれる。もう一つの方法は、同じ日に両眼を手術する方法ですが、これは即時連続両眼白内障手術(immediate sequential bilateral cataract surgery, ISBCS)と呼ばれるものである。ISBCSの利点としては、患者の通院回数が少なく、視力回復が早く、医療費も抑えられることが挙げられる。しかし、ISBCSでは術後に視力を脅かすような有害事象が発生する可能性があるという懸念が存在する。したがって、ISBCSとDSBCSの安全性、有効性、費用対効果に関するエビデンスを評価する必要性は明らかである。

目的:両側性加齢性白内障患者におけるDSBCSと比較したISBCSの安全性を評価し、両側性加齢性白内障患者におけるDSBCSと比較したISBCS使用に関する資源使用の増加、効用、費用、費用対効果に関する現在のエビデンスを要約すること(主要目標)。第二の目的は、両側性加齢性白内障患者において、DSBCSと比較したISBCSの視覚的アウトカムと患者報告アウトカムを評価することであった。

検索方法:CENTRAL(Cochrane Eyes and Vision Trials Register; 2021, Issue 5を含む);Ovid MEDLINE;Ovid Embase;ISRCTN registry;ClinicalTrials.gov;WhO ICTRP;CRD DatabaseのDAREとNHS EEDを2021年5月11日に検索した。言語の制限は設けなかった。検索対象は2007年以降の日付範囲に限定した。

選択基準:DSBCSと比較したISBCSの合併症、屈折アウトカム、最高矯正遠用視力(BCDVA)、患者報告アウトカム指標(PROM)を評価するランダム化対照試験(RCT)を対象とした。重要な有害事象がまれに発生するため、安全性評価についてはISBCSとDSBCSを比較した非ランダム化(NRS)、前向き、後ろ向きのコホート研究を対象とした。ISBCSとDSBCSの費用対効果を評価するため、完全経済評価と部分経済評価、試験ベースの経済評価とモデルベースの経済評価の両方を対象とした。

データの収集と分析:標準的なコクラン手法の手順を用い、ROBINS-I ツールを用いてNRSのバイアスリスクを評価した。費用評価については、CHEC-list、CHEERS-checklist、NICE-checklistを用い、バイアスリスクを調査した。エビデンスの確実性はGRADEツールで評価した。経済評価については、結果を叙述的に報告した。

主な結果:2件のRCT、7件のNRS、6件の経済評価(1件はNRSと経済評価の両方)、計14件の研究をレビューの対象とした。これらの研究は276,260例(ISBCSは7,384例、DSBCSは268,876例)について報告し、カナダ、チェコ共和国、フィンランド、イラン、韓国、スペイン(カナリア諸島)、スウェーデン、英国、米国で実施されたものであった。全体として、対象となったRCTは、合併症についてはバイアスのリスクが「高~やや懸念」、屈折アウトカムと視力についてはバイアスのリスクが「やや懸念」、PROMについてはバイアスのリスクが「高」であると判断した。NRSの全体的なバイアスリスクは、合併症に関しては「深刻」、屈折アウトカムに関しては「深刻~重大」と評価された。眼内炎に関しては、相対効果の推定が不正確であり、確実性が低いため、相対推定値の信頼性が低いことが判明した。それでも、ISBCS群(1/14,076例)、DSBCS群(55/556,246例)ともに、眼内炎のリスクは非常に低いことが分かった。記述的証拠と部分的に弱い統計的証拠に基づき、我々はISBCSによる眼内炎のリスク上昇の証拠を見いだせなかった。屈折アウトカムについては、術後1~3ヵ月で屈折が目標の1.0ディオプトル以内に収まらない眼の割合に差がないことを示す、中程度の確実性(RCTs)および低い確実性(NRSs)の証拠が見つかった(RCTs:リスク比(RR)0.84、95%信頼区間(CI) 0.57~1.26; NRSs:RR 1.02、95%CI 0.60~1.75)。同様に、術後合併症も群間で差はなかったが(RCT:RR 1.33、95%CI 0.52~3.40; NRS:1.04、95%CI 0.47~2.29)、この証拠の確実性はRCT、NRSともに非常に低いものであった。さらに、個々の研究の結果をプールすることはできなかったが、ISBCSはDSBCSに比べて参加者1人あたりの総費用が低いという低い確実性(RCT)~非常に低い確実性(NRS)のエビデンスを見いだした。費用対効果について報告した研究は1件のみであった。この研究では、ISBCSはDSBCSと比較して費用対効果が高いことが分かったが、望ましい方法で質調整生命年を測定していなかったため、費用の計算が誤っていた。最後に、副次的アウトカムに関して、我々はBCDVAに関する限られたエビデンスを見出した(2つのRCTのデータをプールすることはできなかったが、両研究は個々に群間差を見いださなかった(非常に低い確実性のエビデンス)。PROMに関しては、術後1~3ヵ月で群間差がない(標準化平均差-0.08、95%CI -0.19~0.03)という中程度の確実性のエビデンス(RCTのみ)を見出した。

著者らの結論:現在のエビデンスでは、ISBCSとDSBCSの間に臨床的に重要な結果の違いはないだろうが、ISBCSの方がコストが低いことが支持されている。しかし、エビデンスの量は限られており、エビデンスの確実性は中程度から非常に低いと評価された。さらに、十分にデザインされた費用対効果の研究が必要である。

引用文献

Immediate sequential bilateral surgery versus delayed sequential bilateral surgery for cataracts
Mor M Dickman et al. PMID: 35467755 PMCID: PMC9037598 (available on 2023-04-25) DOI: 10.1002/14651858.CD013270.pub2
Cochrane Database Syst Rev. 2022 Apr 25;4(4):CD013270. doi: 10.1002/14651858.CD013270.pub2.
— 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35467755/

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