スタチン治療へのLDL-C低下薬の追加により心血管リスク低下が示されているが、、、
最近の脂質改善治療の進歩により、スタチン治療以外の積極的な低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)低下が臨床的に有用であることが示されています。具体的にはエゼチミブ、エボロクマブ、アリロクマブです(PMID: 26039521、PMID: 28304224、PMID: 30403574)。しかし、多くの患者には心血管系リスクが残存しています。脂質が介在する心血管系リスクは、アテローム性アポリポ蛋白B(ApoB)含有リポ蛋白(コレステロールに富む低密度リポ蛋白とトリグリセリドに富む超低密度リポ蛋白の両方を含む)に由来することを示唆する証拠があります(PMID: 34773460、PMID: 33736827)。
アンジオポエチン様タンパク質3(ANGPTL3)は、リポタンパク質リパーゼを含むリパーゼを阻害し、トリグリセリドに富むリポタンパク質の代謝を阻害します(PMID: 12097324)。
ANGPTL3 遺伝子の機能欠損変異により、中性脂肪および LDL-C値の低下が観察されています(PMID: 28538136、PMID: 28538111、PMID: 20942659)。
Vupanorsen(ブパノルセン)は、肝臓のANGPTL3 mRNAを標的とするN-アセチルガラクトサミン結合型アンチセンスオリゴヌクレオチドです。高トリグリセリド血症、肝脂肪症および2型糖尿病患者を対象としたブパノルセンの第2a相試験では、すべての用量でトリグリセリドが有意に低下し、最高用量では非高密度リポ蛋白コレステロールも低下しました(PMID: 32860031)。しかし、第2a相試験では、ブパノルセンの用量は80mg/月までしか評価されていません。非高密度リポ蛋白はApoB値と高い相関があり、ブパノルセンは、これまでの試験より高用量で心血管リスク軽減の可能性を示唆しています。
そこで今回は、スタチン治療中の高脂血症成人患者にブパノルセン増量による非HDL-Cレベルへの影響を評価したTRANSLATE(Targeting ANGPTL3 with an Antisense Oligonucleotide in Adults with Dyslipidemia)-TIMI(Thrombolysis in Myocardial Infarction)70 試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
286例の被験者がランダムに割り付けられました(プラセボ投与群44例、ブパノルセン投与群242例)。年齢中央値は64歳(四分位範囲 58〜69)、44%が女性、non-HDL-C中央値は132.4(四分位範囲 118.0〜154.1)mg/dL、トリグリセライド中央値は216.2(四分位範囲 181.4〜270.4)mg/dLでした。
ブパノルセンの投与により、24週時点のnon-HDL-C値は60mg×2週間投与群で22.0%、80mg×2週間投与群で27.7%と、プラセボと比較して有意に減少しました(すべての用量でP<0.001)。トリグリセリドは、41.3%〜56.8%の範囲で用量依存的に減少しました(すべての用量でP<0.001)。LDL-CとApoBに対する効果はより緩やかで(それぞれ7.9~16.0%と6.0~15.1%)、明確な用量反応関係はなく、より高い減少率が示された用量でのみ統計的に有意でした。ANGPTL3値は、69.9%~95.2%の範囲で用量依存的に減少しました(いずれもP<0.001)。
なお、ブパノルセンによる腎機能および血小板数の有意な低下例は確認されませんでした。注射部位反応およびアラニンアミノトランスフェラーゼまたはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの3倍以上の上昇は、月間の総投与量が多いほど多く(それぞれ最大33.3%と44.4%)、用量依存的に肝脂肪率が増加しました(最大76%)。
コメント
心血管イベントのリスクが高い患者においては、LDL-コレステロール(LDL-C)値を低下させるほど、より恩恵が得られることが示されています。LDL-C低下療法としては、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)による治療が第一選択ですが、遺伝的背景や疾患によってはスタチンの治療抵抗性が示され依然として心血管イベントのリスクが高いことから、よりLDL-C値を低下させるための治療戦略の構築が求められています。
さて、本試験結果によれば、スタチン治療中の高脂血症成人患者にN-アセチルガラクトサミン結合型アンチセンスオリゴヌクレオチドであるブパノルセンを追加投与すると、プラセボと比較して、24週時点のnon-HDL-C値が有意に低下しました。LDL-C値の低下は、7.6%〜16.0%と用法用量により幅があるものの、すでにスタチン治療を受けているのにも関わらず、有意な低下が示されています。ただし、各群50例未満と小規模な検討であることから追試が求められます。また、肝関連酵素の増加および脂肪肝の増加が示されていることから、より長期的な安全性データの収集あるいは、用法用量を再設定した試験デザインでのランダム化比較試験の実施が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ ブパノルセンの80~320mg/月等量投与は、non-HDL-Cおよびその他の脂質パラメーターを有意に低下させた。しかし用量依存的に、肝関連酵素と脂肪肝の増加が示された。
根拠となった試験の抄録
背景:Vupanorsen(ブパノルセン)は、アンジオポエチン様3(ANGPTL3)タンパク質合成を阻害する肝細胞標的アンチセンスオリゴヌクレオチドである。ANGPTL3の遺伝子欠損型バリアントは、血漿脂質の低値と関連している。
方法:スタチン治療を受けている非高密度リポ蛋白コレステロール(non-HDL-C)100 mg/dL以上、トリグリセリド150~500 mg/dLの成人を対象に、プラセボまたはブパノルセン7種類の投与レジメン(80、120、160mgを4週間ごとに皮下注、または60、80、120、160mgを2週間ごとに皮下注)に二重盲検法にてランダム割り付けした。
主要評価項目は、24週時点の非HDL-Cのベースラインからの変化率(プラセボ調整)とした。副次的評価項目は、トリグリセリド、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)、アポリポ蛋白B(ApoB)、およびANGPTL3におけるベースラインからのプラセボによる調整後の変化率であった。
結果:286例の被験者がランダムに割り付けられた。プラセボ投与群44例、ブパノルセン投与群242例。年齢中央値は64歳(四分位範囲 58〜69)、44%が女性、non-HDL-C中央値は132.4(四分位範囲 118.0〜154.1)mg/dL、トリグリセライド中央値は216.2(四分位範囲 181.4〜270.4)mg/dLであった。ブパノルセンの投与により、non-HDL-Cは60mg×2週間投与群で22.0%、80mg×2週間投与群で27.7%と、プラセボと比較して有意に減少した(すべての用量でP<0.001)。トリグリセリドは、41.3%〜56.8%の範囲で用量依存的に減少した(すべての用量でP<0.001)。LDL-CとApoBに対する効果はより緩やかで(それぞれ7.9~16.0%と6.0~15.1%)、明確な用量反応関係はなく、より高い減少率が示された用量でのみ統計的に有意であった。ANGPTL3値は、69.9%~95.2%の範囲で用量依存的に減少した(いずれもP<0.001)。なお、ブパノルセンによる腎機能および血小板数の有意な低下例は確認されなかった。注射部位反応およびアラニンアミノトランスフェラーゼまたはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの3倍以上の上昇は、月間の総投与量が多いほど多く(それぞれ最大33.3%と44.4%)、用量依存的に肝脂肪率が増加した(最大76%)。
結論:ブパノルセンの80~320mg/月等量投与は、non-HDL-Cおよびその他の脂質パラメーターを有意に低下させた。注射部位反応および肝酵素上昇が高用量でより頻繁に認められ、肝脂肪率は用量依存的に上昇した。
引用文献
Effect of Vupanorsen on Non-High-Density Lipoprotein Cholesterol Levels in Statin-Treated Patients With Elevated Cholesterol: TRANSLATE-TIMI 70
Brian A Bergmark et al. PMID: 35369705 DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.122.059266
Circulation. 2022 Apr 3. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.122.059266. Online ahead of print.— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35369705/
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