アトピー性皮膚炎に対するTRPV1アンタゴニスト「アシバトレプ」の効果は?
アトピー性皮膚炎(AD)は、周期的に再燃する慢性炎症性掻痒性皮膚疾患であり、調査対象国にもよりますが、小児では約25%、成人では約10%と高い有病率を示しています(PMID: 28390479、PMID: 28583445、PMID: 29126710、PMID: 27497277)。遺伝的要因と環境的要因の両方が、AD進行のリスク要因として関係していると言われています。重要なことは、ADの病態生理は複雑で多因子性であり、Tヘルパー2型細胞を介した免疫反応の変化、IgEを介した過敏症、表皮バリアーの機能障害などが関与していることです(PMID: 30446754、PMID: 29930242、PMID: 23473856)。
現在、米国食品医薬品局(FDA)で承認されているADの局所治療薬は、局所コルチコステロイド(TCS)、局所カルシニューリン阻害剤(TCI)、および1種類のホスホジエステラーゼ4阻害剤の3クラスがあります(PMID: 27076388、PMID: 29676534、PMID: 24813302、PMID: 30970204)。しかし、安全性への懸念や患者のノンアドヒアランスが増加していることから、長期的な疾患管理のためには、より効果的で安全性の高い新たな外用薬が必要とされています。特に、TCSの長期使用は、皮膚の菲薄化(ひはくか)や毛細血管拡張などの皮膚副作用を引き起こす可能性があります(PMID: 27076388、PMID: 29676534、PMID: 24813302)。一方、TCIは、特に治療の初期段階において、塗布部位に灼熱感や刺痛などの刺激症状を引き起こすことが多く、また、発がんリスクの可能性に関するブラックボックス警告の結果、患者や医師の消極的な姿勢が見られます(PMID: 27076388、PMID: 29676534、PMID: 24813302)。
非選択的なカチオンチャネルであるTRPV1(transient receptor potential vanilloid subfamily V member 1)は、ケラチノサイト、マスト細胞、皮膚感覚神経などに発現しており、皮膚の生理・疾患に重要な役割を果たしていることが示唆されています(PMID: 14987252、PMID: 28012781)。
またTRPV1は、炎症の発生に関与し、AD患者のヒスタミン非依存性および非依存性の痒みの重要な下流シグナル分子として機能しています(PMID: 28012781、PMID: 17329430、PMID: 24373353、PMID: 31591569)。さらにTRPV1は、サブスタンスPやカルシトニン遺伝子関連ペプチドなどの神経ペプチドの放出を制御し、痒みを引き起こす刺激を増加させることで、痒みに伴う軸索の反射的な変化を引き起こします(PMID: 22076325、PMID: 25931325、PMID: 33098765)。興味深いことに、ADの皮膚病変部では、TRPV1が過剰に発現しており、その活性化により、そう痒と炎症の両方を増強する分子が放出されます(PMID: 24373353、PMID: 12867500、PMID: 15782105)。したがって、TRPV1の阻害は、ADの治療のための潜在的な治療ターゲットとなる可能性があります。
アシバトレプ(Asivatrep、PAC-14028、C21H22F5N3O3S)クリーム(1.0%)は、軽度〜中等度のAD治療を目的とした非ステロイド系TRPV1アンタゴニストです(PMID: 31478771)。ラットおよびマウスを用いた前臨床試験において、アシバトレプは発がん性がなく、ADに類似した皮膚の炎症を抑制する効果があることが確認されました(PMID: 32044384、PMID: 28815372、PMID: 29752146)。その後、軽度〜中等度のAD患者(成人)を対象に、8週間にわたる第2相臨床試験が実施されました(ClinicalTrials.gov NCT02757729)。この試験では、アシバトレプの3つの濃度(0.1%、0.3%、1.0%)クリームとビークル(有効成分を含まない基質)クリームが比較されました(PMID: 30623408、PMID: 31025744)。その結果、1.0%のアシバトレプはビークルクリームよりもADの症状を改善する点で優れていました。また、アシバトレップを1日2回、8週間塗布した場合、安全性も良好で、治療に関連する有害事象の発生率はビークルに比べてはるかに低いことが示されました。
今回ご紹介するのは、12歳以上の軽度〜中等度のAD患者を対象に、1.0%アシバトレプクリームの有効性および安全性を8週間にわたって検討した第3相試験(CAPTAIN-AD試験)の結果です。
試験結果から明らかになったことは?
12歳以上の軽度〜中等度のAD患者(240例)が登録され、1.0%アシバトレプ群とビークル(対照)群に2:1(153例:78例)でランダム割り付けされました。それぞれ1日2回、8週間塗布されました。
1.0%アシバトレプ群 (153例) | 対照群 (78例) | |
IGAスコア | ||
IGAスコアが0または1 | 55例(36.0%) P<0.001 | 10例(12.8%) |
IGAスコアが0または1 かつ 2ポイント以上の改善 | 31例(20.3%) P<0.014 | 6例(7.7%) |
EASIスコア | ||
EASIスコアの平均変化 | -44.3(SD 37.3) P<0.001 | -21.4(SD 45.3) |
EASI-50 | 77例(50.3%) P<0.001 | 22例(28.2%) |
EASI-70 | 36例(23.5%) P<0.030 | 9例(11.5%) |
EASI-90 | 2例(2.6%) P<0.046 | 15例(9.8%) |
8週目にInvestigator’s Global Assessment(IGA)スコアが0または1になった患者は、アシバトレプ群(36.0%)が対照群(12.8%)よりも有意に多く(P<0.001)、ベースラインスコアからIGAが2ポイント以上改善した患者も有意に多いことが示されました(20.3% vs. 7.7%、P=0.01)。
8週目の湿疹面積・重症度指数(EASI)スコアの平均減少率は、アシバトレプ群で44.3%、対照群で21.4%でした(P<0.001)。
アシバトレプ投与群では、EASIスコアが50%以上、75%以上、90%以上改善した患者が、対照群に比べて有意に多いことも明らかになりました。
8週目の痒みの視覚的アナログスケールスコアの平均±SDの変化は、アシバトレプ群では-2.3±2.4、対照群では-1.5±2.4でした(P=0.02)。
安全性については重大な問題は報告されませんでした。
コメント
12歳以上の軽度〜中等度のアトピー性皮膚炎(AD)患者を対象に、TRPV1アンタゴニスト「アシバトレプ」の開発が進んでいます。AD治療においては局所ステロイドが基本ではありますが、症状コントロールが充分でない患者が多いことから、アンメットニーズの高い領域であると言えます。
さて、本試験結果によれば、8週間の1.0%アシバトレプ使用は、対照クリームと比較して、臨床症状を有意に改善しました。また痒みだけでなく、皮膚症状や睡眠の質改善も示されています。認容性に懸念がないことから、治療選択肢の一つになり得ると考えられます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 12歳以上の軽度〜中等度のアトピー性皮膚炎患者における8週間の1.0%アシバトレプ使用は、対照クリームと比較して、臨床症状を改善し、良好な忍容性を示した。
根拠となった試験の抄録
背景:Asivatrep(アシバトレプ)は、アトピー性皮膚炎(AD)の痒みや炎症に重要な役割を果たしているtransient receptor potential vanilloid subfamily V member 1(TRPV1)の強力かつ選択的なアンタゴニストである。
目的:本研究では、AD患者におけるアシバトレプクリームの有効性と安全性を評価することを目的とした。
方法:この第3相二重盲検比較試験では、12歳以上の軽度〜中等度のAD患者を登録し、1.0%アシバトレプ群とビークル(対照)群に2:1でランダムに割り付け、それぞれ1日2回、8週間塗布した(n=240)。
主要評価項目は、8週目にInvestigator’s Global Assessment(IGA)スコアが0または1となった患者の割合であった。標準的な安全性評価を行った。
結果:8週目にIGAスコアが0または1になった患者は、アシバトレプ群(36.0%)が対照群(12.8%)よりも有意に多く(P < 0.001)、ベースラインスコアからIGAが2ポイント以上改善した患者も有意に多かった(20.3% vs. 7.7%、P=0.01)。
8週目の湿疹面積・重症度指数(EASI)スコアの平均減少率は、アシバトレプ群で44.3%、対照群で21.4%であった(P<0.001)。アシバトレプ投与群では、EASIスコアが50%以上、75%以上、90%以上改善した患者が、対照群に比べて有意に多かった。
8週目の痒みの視覚的アナログスケールスコアの平均±SDの変化は、アシバトレプ群では-2.3±2.4、対照群では-1.5±2.4だった(P=0.02)。安全性については重大な問題は報告されなかった。
結論:アシバトレプは、ADの臨床症状を改善し、良好な忍容性を示した。
キーワード:アトピー性皮膚炎、アシバトレプ、そう痒症、TRPV1(transient receptor potential vanilloid subfamily member 1)
引用文献
Asivatrep, a TRPV1 antagonist, for the topical treatment of atopic dermatitis: Phase 3, randomized, vehicle-controlled study (CAPTAIN-AD)
Chun Wook Park et al. PMID: 34606832 DOI: 10.1016/j.jaci.2021.09.024
J Allergy Clin Immunol. 2021 Oct 2;S0091-6749(21)01456-1. doi: 10.1016/j.jaci.2021.09.024. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34606832/
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