虚弱(フレイル)のレベルにより抗凝固薬を選択した方が良いのか?
医療の進歩により人類の寿命は伸びてきています。高齢化社会、超高齢化社会において、罹患する疾患に特徴があります。具体的には、高齢化により心不全や心房細動の罹患数が増加しています。
心房細動を有する高齢者の経口抗凝固薬については、ワルファリンに代わり、直接経口抗凝固薬(DOAC, OAC)が台頭してきています。これは、脳卒中の発症抑制に差がないものの、出血リスクが低い可能性があることが示されているためです。しかし、この根拠となった臨床試験においては、PT-INRの設定が適切でないためにワルファリンに不利な試験設定であった可能性もあります。また高齢化に伴うフレイルレベルの違いが果たす役割は明らかとなっていません。
そこで今回は、DOACとワルファリンの治療成績をフレイルレベル別に検討したコホート研究の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
本コホート研究では、死亡、虚血性脳卒中、大出血の複合エンドポイントについて検証されました。
ダビガトランとワルファリンのコホート(n=158,730、追跡期間中央値72日)
1,000人・年当たりのイベント発生率は、ダビガトラン投与開始者で63.5、ワルファリン投与開始者で65.6でした。
☆ハザード比[HR] 0.98、95%CI 0.92~1.05
☆率差 -2.2、95%CI -6.5~2.1
対象 | ハザード比 (95%CI) |
非フレイル | 0.81 (0.68~0.97) |
プレフレイル | 0.98 (0.90~1.08) |
フレイル | 1.09 (0.96~1.23) |
非フレイル、プレフレイル、フレイルのHRは、それぞれ0.81(95%CI 0.68~0.97)、0.98(95%CI 0.90~1.08)、1.09(95%CI 0.96~1.23)でした。
リバロキサバンとワルファリンのコホート(n=275,944、追跡期間中央値82日)
1,000人・年当たりのイベント発生率は、リバーロキサバン投与開始者で77.8、ワルファリン投与開始者で83.7でした。
☆HR 0.98、95%CI 0.94~1.02
☆率差 -5.91、95%CI -9.4 ~ -2.4
対象 | ハザード比 (95%CI) |
非フレイル | 0.88 (0.77~0.99) |
プレフレイル | 0.98 (0.98~1.10) |
フレイル | 1.09 (0.89~1.04) |
非フレイル、プレフレイル、フレイルのHRは、それぞれ0.88(CI 0.77~0.99)、1.04(CI 0.98~1.10)、0.96(CI 0.89~1.04)でした。
アピキサバンとワルファリンのコホート(n=218,738、追跡期間中央値84日)
1,000人・年当たりのイベント発生率は、アピキサバン開始者で60.1、ワルファリン開始者で92.3でした。
☆HR 0.68、95%CI 0.65~0.72
☆RD -32.2、95%CI -36.1 ~ -28.3
対象 | ハザード比 (95%CI) |
非フレイル | 0.61 (0.52~0.71) |
プレフレイル | 0.66 (0.61~0.70) |
フレイル | 0.73 (0.67~0.80) |
非フレイル者、プレフレイル、フレイル者のHRは、それぞれ0.61(CI 0.52~0.71)、0.66(CI 0.61~0.70)、0.73(CI 0.67~0.80)でした。
コメント
今回のコホート研究の対象となったのは、アピキサバン(エリキュース®️)、ダビガトラン(プラザキサ®️)、リバーロキサバン(イグザレルト®️)です。
ワルファリンと比較した場合、アピキサバンはフレイル、プレフレイル、非フレイル、全ての高齢者において、死亡、虚血性脳卒中、大出血の複合エンドポイントを有意に低下させました。
一方、ダビガトランとリバーロキサバンは、非フレイル患者においてのみイベント発生率の低下と関連していました。
DOAC間の比較はなされていませんが、ワルファリンとの比較という点では、アピキサバンが優れていそうです。ただし、本試験はPSマッチコホート研究であるため、あくまでも相関関係が示されたにすぎません。フレイル高齢者を対象とした前向きのランダム化比較試験の実施が求められます。

✅まとめ✅ 心房細動を有する高齢者では、アピキサバンはすべてのフレイルレベルで有害事象の発生率が低かった。ダビガトランとリバーロキサバンは、非フレイル患者においてのみイベント発生率の低下と関連していた。
根拠となった試験の抄録
背景:心房細動(AF)を有する高齢者の経口抗凝固薬の選択において、フレイルレベルの違いが果たす役割は明らかではない。
目的:直接経口抗凝固薬(DOAC)とワルファリンの治療成績をフレイルレベル別に検討する。
試験デザイン:2010年から2017年のメディケアデータを1対1の傾向スコアマッチで解析。
試験設定:地域社会。
試験対象:ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、ワルファリンの使用を開始した心房細動のメディケア受給者。
測定方法:死亡、虚血性脳卒中、大出血の複合エンドポイントを、クレームベースのフレイル指数で定義したフレイルレベル別に評価した。
結果:ダビガトランとワルファリンのコホート(n=158,730、追跡期間中央値72日)において、1,000人・年当たりのイベント発生率は、ダビガトラン投与開始者で63.5、ワルファリン投与開始者で65.6であった(ハザード比[HR] 0.98[95%CI 0.92~1.05]、率差 -2.2[CI -6.5~2.1])。非フレイル者、プレフレイル、フレイル者のHRは、それぞれ0.81(CI 0.68~0.97)、0.98(CI 0.90~1.08)、1.09(CI 0.96~1.23)であった。
リバロキサバンとワルファリンのコホート(n=275,944、追跡期間中央値82日)において、1,000人・年当たりのイベント発生率は、リバーロキサバン投与開始者で77.8、ワルファリン投与開始者で83.7であった(HR 0.98[CI 0.94~1.02]、率差 -5.9[CI -9.4 ~ -2.4])。非フレイル者、プレフレイル、フレイル者のHRは、それぞれ0.88(CI 0.77~0.99)、1.04(CI 0.98~1.10)、0.96(CI 0.89~1.04)であった。
アピキサバンとワルファリンのコホート(n=218,738、追跡期間中央値84日)において、1,000人・年当たりのイベント発生率は、アピキサバン開始者で60.1、ワルファリン開始者で92.3であった(HR 0.68[CI 0.65~0.72]、RD -32.2[CI -36.1 ~ -28.3])。非フレイル者、プレフレイル、フレイル者のHRは、それぞれ0.61(CI 0.52~0.71)、0.66(CI 0.61~0.70)、0.73(CI 0.67~0.80)であった。
試験の限界:残存する交絡と臨床的フレイル性評価の欠如。
結論:心房細動を有する高齢者では、アピキサバンはすべてのフレイルレベルで有害事象の発生率が低かった。ダビガトランとリバーロキサバンは、非フレイル患者においてのみイベント発生率の低下と関連していた。
主な資金源:米国国立老化研究所(National Institute on Aging)
引用文献
Frailty and Clinical Outcomes of Direct Oral Anticoagulants Versus Warfarin in Older Adults With Atrial Fibrillation : A Cohort Study
Ann Intern Med. 2021 Jul 20. doi: 10.7326/M20-7141. Online ahead of print.
Dae Hyun Kim et al. PMID: 34280330 DOI: 10.7326/M20-7141
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34280330/
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