高血圧患者における心血管疾患の罹患率と死亡率:ロサルタン vs. アテノロール(RCT; LIFE試験; Lancet. 2002)

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高血圧患者における心血管疾患の罹患率と死亡率はロサルタンとアテノロール、どちらが優れているのか?

高血圧症に対する薬物介入による血圧低下効果は、特に高リスクの患者ではよく知られています。しかし、治療を受けた高血圧症患者は、高血圧症ではない人に比べて、高血圧症に関連する心血管合併症の発生率が有意に高いことが明らかとなっています。これは、正常な血圧を達成できなかったこと、左心室肥大(LVH)などの標的臓器の損傷が残っていること、あるいはその両方に起因する可能性があります。

β遮断薬であるアテノロールは、ARBであるロサルタンと同等の降圧効果を有し、高血圧治療と二次的な心血管保護に役立つ高血圧治療の第一選択薬として世界的に認められています。

そこで今回は、高血圧患者における心血管疾患の罹患率と死亡率が減少するかどうかについて、ロサルタンとアテノロールを比較したLIFE試験の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

血圧は、ロサルタン群で30.2/16.6(SD 18.5/10.1)mmHg、アテノロール群で29.1/16.8(19.2/10.1)mmHg低下しました。

主要複合エンドポイント(死亡、心筋梗塞、脳卒中)において、アテノロール群に対するロサルタン群の相対リスクは0.87(95%CI 0.77〜0.98)であり、有意なリスク低下が認められました(p=0.021)。

ロサルタン群アテノロール群
主要複合エンドポイント
(死亡、心筋梗塞、脳卒中)
508例
(23.8人/1,000人・年)
588例
(27.9人/1,000人・年)
心血管疾患による死亡204例234例
致死性または非致死性の脳卒中232例309例
致死性または非致死性の心筋梗塞198例188例

アテノロール群に対するロサルタン群の相対リスクは、心血管疾患による死亡で0.89(0.73~1.07、p=0.206)、致死性または非致死性の脳卒中で0.75、(0.63~0.89、p=0.001)、致死性または非致死性の心筋梗塞で1.07(0.88~1.31、p=0.491)でした。また、糖尿病の発症はロサルタンの方が少ないことが明らかになりました。

コメント

高血圧治療ガイドライン2019ではCa拮抗薬、ACE-I/ARB、利尿薬での治療開始が推奨されています。一方、2009年にはα遮断薬、2014年にはβ遮断薬が診療ガイドラインの推奨から外されました。そのきっかけとなったのがALLHAT試験およびLIFE試験です。そこで今更ながらLIFE試験を読んでみました。

さて、試験結果によれば、アテノロールと比較して、ロサルタンは主要複合エンドポイント(死亡、心筋梗塞、脳卒中)を有意に低下させました。また構成要素である脳卒中(致死性または非致死性)についても有意にリスクを低下させました。一方で、心血管疾患による死亡、心筋梗塞(致死性または非致死性)については、有意でないことから、主に脳卒中に関連するイベントの低下作用に基づいていると考えられます。

LIFE試験のみで診療ガイドラインの降圧薬の推奨から外れた印象は強いですが、β遮断薬は糖尿病患者における低血糖をマスクする、徐脈を引き起こすなどの副作用を有することも使用しづらいのかもしれません。とはいえ、心機能が低下している症例については、糖尿病の有無に関わらず、β遮断薬を使用せざるをおえません。

診療ガイドラインの対象となるのは全体の60%、多くとも90%であることから、患者毎の個別化治療を実施する上では、診療ガイドラインのみに準じることは現実的でないように考えます。

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✅まとめ✅ ロサルタンは、アテノロールと比較して、同程度の血圧低下でより多くの心血管疾患の罹患と死亡を予防し、忍容性も高い

根拠となった論文の抄録

背景:β遮断薬と利尿薬による血圧の低下は、高血圧患者の心血管疾患の罹患率と死亡率を予防するために、現在までに記録されている最も優れた介入方法である。左心室肥大(LVH)は、心血管疾患の罹患率と死亡率のリスクの強力な独立した指標である。我々は、アンジオテンシンIIを選択的に遮断することで、血圧の低下以上にLVHが改善され、その結果、心血管疾患の罹患率と死亡率が減少するかどうかを確立することを目的とした。

方法:55〜80歳の本態性高血圧症(座位血圧160〜200/95〜115mmHg)で、心電図によりLVHが確認された9,193例を対象に、二重盲検ランダム化並行群間比較試験を実施した。1日1回、ロサルタンベースまたはアテノロールベースの降圧治療を、少なくとも4年間、患者1,040例が一次心血管イベント(死亡、心筋梗塞、脳卒中)を起こすまで行った。Cox回帰分析を用いてレジメンを比較した。

結果:血圧は、ロサルタン群で30.2/16.6(SD 18.5/10.1)mmHg、アテノロール群で29.1/16.8(19.2/10.1)mmHg低下した。
主要複合エンドポイントが発生したのは、ロサルタン508例(23.8人/1,000人・年)とアテノロール588例(27.9人/1,000人・年、相対リスク0.87、95%CI 0.77〜0.98、p=0.021)であった。
心血管疾患による死亡者数はロサルタンが204例、アテノロールが234例(0.89、0.73~1.07、p=0.206)、致死性または非致死性の脳卒中はそれぞれ232例と309例(0.75、0.63~0.89、p=0.001)、心筋梗塞(非致死性および致死性)はそれぞれ198例と188例(1.07、0.88~1.31、p=0.491)であった。また、糖尿病の発症はロサルタンの方が少なかった。

解釈:ロサルタンは、アテノロールと比較して、同程度の血圧低下でより多くの心血管疾患の罹患と死亡を予防し、忍容性も高い。また、ロサルタンは血圧低下以外の効果も期待できると考えられる。

引用文献

Cardiovascular morbidity and mortality in the Losartan Intervention For Endpoint reduction in hypertension study (LIFE): a randomised trial against atenolol
Björn Dahlöf et al. PMID: 11937178 DOI: 10.1016/S0140-6736(02)08089-3
Lancet. 2002 Mar 23;359(9311):995-1003. doi: 10.1016/S0140-6736(02)08089-3.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11937178/

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