HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer
Jiayao Lei et al.
October 1, 2020
N Engl J Med 2020; 383:1340-1348
DOI: 10.1056/NEJMoa1917338
PMID: 32997908
Funded by the Swedish Foundation for Strategic Research and others.
背景
これまでの研究結果により、HPVワクチンは、前がん病変を減少させることが報告されていました。しかし、その後の浸潤性子宮頸がんの発生数を抑制できるか否かはデータがありませんでした。
論文の抄録
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- Patients :HPVワクチン接種歴がなく、浸潤性子宮頸がんの既往がなく、2006年1月1日以降にスウェーデンに移住していない女児・女性
- Exposure:4価ワクチン
- Comparison:ワクチン接種なし
- Outcome :浸潤性子宮頸がん
- 追跡期間の定義:次のいずれか早い方の期間まで追跡調査を行った;①浸潤性子宮頸がんの診断を受けるまで、②スウェーデンから移住するまで、③死亡するまで、④登録簿から失われるまで、⑤二価HPVワクチン接種を受けるまで、⑥31歳の誕生日を迎えるまで、⑦2017年12月31日まで。
- Type :コホート研究(予防、病因、危険因子、予後)
- Setting :スウェーデン全土
- Limitation :大きく以下の4つに分けられる。ワクチン接種群では、収入および教育レベルが高いことから、バイアスの中でも健康志向バイアスが大きく、これが交絡因子に強く影響していると考えられる。
- ワクチンを接種した女性のごく一部が、分析ではワクチン未接種と誤分類されていた。
- 健康志向バイアス(HPVワクチンを接種した女性は、ワクチンを接種していない女性よりも一般的に健康であった可能性がある)。
- ライフスタイルや健康因子(喫煙状況、性行為、経口避妊具の使用、肥満など)による交絡。HPVワクチンを接種した女性における子宮頸がん検診の受診率が高いことは、無症状の子宮頸がんが検診で発見される可能性を高めると予想され、これは潜在的にリスク低下の過小評価を引き起こす可能性がある。HPVワクチン接種女性におけるCIN2+のリスクは未接種女性よりも実質的に低いため、ワクチン接種女性と未接種女性の間で前悪性子宮頸部病変の割合または治療の種類が異なることが、ワクチン接種集団における浸潤性子宮頸がんのリスクの低さを説明する可能性は低いと考えられる。
- ワクチン接種者の子宮頸がん症例数が少ないため、ワクチン接種と子宮頸がんリスクとの関連をワクチン接種回数に応じて確実に推定することができない。
選択基準
組入基準
- 女児および女性は、HPVワクチン接種歴がなく、浸潤性子宮頸がんの既往がなく、2006年1月1日以降にスウェーデンに移住していない場合に対象とした(移住前のHPVワクチン接種状況が不明であったため)。
除外基準
- 特記なし。上記、組入基準を参照。
批判的吟味
- ・どのようなタイプのコホート研究か? →メインは予後
- ・追跡期間は充分か? →🔺 子宮頸がんの好発年齢は20〜30歳代であり、ピークは30歳台後半。本試験では、最大でも31歳の誕生日を迎えるまでのフォローアップ※であると考えられるため、その後のワクチンの効果については不明。やや観察期間が短いと考えられるが、スウェーデンの背景※※を考慮すると妥当かもしれない。
- ※対象となったすべての女児および女性は、浸潤性子宮頸がんの診断を受けるまで、スウェーデンから移住するまで、死亡するまで、登録簿から失われるまで、二価HPVワクチン接種を受けるまで、または31歳の誕生日を迎えるまで、または2017年12月31日まで、いずれか早い方の期間追跡調査を行った。
- ※※スウェーデンでは2007年5月から、13歳から17歳までの女児を対象にHPVワクチン接種が助成されている。また2012年には、13歳から18歳までの女児と女性を対象とした無料のキャッチアップHPVワクチン接種プログラム、および10歳から12歳までの女児を対象とした学校ベースのHPVワクチン接種プログラムを導入している。現在では、23歳から64歳までの女性は、年齢に応じて3年から7年ごとに招待状を発行している人口ベースの子宮頸がん検診プログラムに参加するよう招待されている。
- ・脱落はどのくらいか? →🔺 試験のフォローアップ中止の内訳が群間で大きく異なる。これは上記のスウェーデンの背景および母親の国籍がスウェーデンである試験参加者が約80%超であることを考慮すると致し方ないと考えられる。
- レジストリーからの脱落:暴露群 3/527,871例(5.68%) vs. 対象群 87/1,145,112例(0.0076%)
- 移住 :暴露群 3,484/527,871例(0.06%) vs. 対象群 28,056/1,145,112例(2.45%)
- 満31歳 :暴露群 5,738/527,871例(1.09%) vs. 対象群 583,881/1,145,112例(50.99%)
結果
浸潤性子宮頸がん発生率
ワクチン接種群 19/527,871例(0.0036%) vs. 対象(ワクチン非接種)群 538/1,145,112例(0.0470%)
絶対差:0.0434
NNT:24
NNH:不明
調整後の発生率比:0.37(95%CI 0.21〜0.57)
総評
本試験結果は、アウトカムを発生率で算出していますので、ハザード比と同様に、追跡期間に大きく影響を受けます。追跡期間は最大でも満31歳までであることを考慮すると、結果を過大評価している可能性が高いです。コホート研究としては、内的妥当性がやや低いと言わざるを得ませんが、大規模な試験であるが故に調整しきれない部分があることは致し方ない側面もあります。
本コホートでは、そもそも浸潤性子宮頸がんの発生率が低く、それでもワクチン非接種と比較した場合、ワクチン接種により浸潤性子宮頸がんの発生率が大きく減少しています。
これまでの研究報告と合わせて考察すると、現時点においては集団でHPVワクチンを接種した方が、人類にもたらされる恩恵は大きいように思われます。特に性交渉を始める前に接種する、あるいは性交渉を経験した後であっても20歳までには接種した方が良いかもしれません。
安全性についての検証が充分になされていない(記述されていない)ように思われますので、この点は(本研究ではなく)本論文の制限であると考えます。過去の研究結果を参照する必要があると考えます。
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