Impact of the dialysate acid component on haemodialysis mortality rates
Cécile Couchoud et al.
Nephrol Dial Transplant. 2020 Jul 1;35(7):1244-1249. doi: 10.1093/ndt/gfaa168.
PMID: 32777080
DOI: 10.1093/ndt/gfaa168
Keywords: Poisson regression; citric acid; haemodialysis; hydrochloric acid; mortality.
背景
重炭酸塩系透析液に添加した比較的新しい酸濃縮物の死亡率への長期的影響を評価したプロスペクティブ研究はない。
本薬理疫学研究の目的は、塩酸またはクエン酸ベースの透析液と血液透析(HD)における死亡率との関連を評価することであった。
方法
本研究では、フランスの腎疫学情報ネットワークの全国登録簿に記録されているHD患者(3,723,887カ月)117,796例を対象とした。
透析酸成分は各施設ごとにレトロスペクティブに再構成した。
HD患者はすべて、治療施設での曝露量に基づいて各月の曝露量と関連づけた。各患者の時間変化する曝露を考慮に入れ、各曝露の月別死亡率を算出した。
死亡率の発生率比(IRR)は、酢酸を基準としてポアソン回帰を用いて算出した。回帰は、初期臨床特性(年齢、性別、心血管イベントの既往、活動性悪性腫瘍、糖尿病、肺疾患、移動性)、透析技術と場所(センター内、外来センター、セルフケアユニット)、およびESRDの年代で調整され、毎月更新された。
結果
・クエン酸{11.5[95%信頼区間(CI)11.1~12.0]}を用いた1,000人・月当たりの粗死亡率は、酢酸{12.9(95%CI 12.8~13.1)]または塩酸{12.8(95%CI 12.2~13.5)}のいずれかを用いた場合よりも低かった。
・2014〜2017年の死亡率のIRRは、クエン酸[調整済みIRR 0.94(95%CI 0.90-0.99)]および塩酸[調整済みIRR 0.86(95%CI 0.79-0.94)]のいずれも、酢酸の場合よりも有意に低かった。
結論
患者レベルでの透析液酸性化剤への長期曝露についての市販後調査では、クエン酸および塩酸ベースの透析液の使用は、酢酸と比較して、より低い死亡率と関連していることが明らかになった。
コメント
腎不全になると、腎臓が体液中の老廃物をうまく排除できないために、体液が酸性に傾き(アシドーシス)、細胞の働きが悪くなります。一方、体液が塩基性(アルカリ性)に傾いた場合、組織にカルシウムが沈着する異所性石灰化が起こる可能性が高まります。
アシドーシスを是正し、体液を生理的な弱アルカリ性に戻すために、透析液にはアルカリ化剤である重炭酸が含まれています。重炭酸の濃度は透析液によって異なり、25mEq/L、27.5mEq/L、30mEq/L、35mEq/Lなど、いくつかの種類があります。また、透析液中のカルシウムやマグネシウムが沈殿しないよう、酢酸やクエン酸、塩酸も入っています。これらは「酸」と呼ばれますが、肝臓で代謝されて重炭酸になるため、アルカリ化剤であるとも言えます。
さて、本試験結果によれば、透析液中に含まれる「酸」の種類により、粗死亡率が異なっていました。
- クエン酸:11.5/1,000人・月(95%CI 11.1~12.0)
- 酢酸 :12.9/1,000人・月(95%CI 12.8~13.1)
- 塩酸 :12.8/1,000人・月(95%CI 12.2~13.5)
死亡率の発生率比が最も低いのは塩酸、次いでクエン酸でした。ただし、本研究は後向き研究であるため、あくまでも相関関係までしか述べられません。
稀にではありますが、酢酸で消化器症状が認められる患者もいますので、他の酸性化剤で代替可能かつ死亡リスクの低下が認められるのであれば、酢酸から変更しても良いのかもしれません。
普段ありまり気にしたことがない分野でしたが非常に興味深い研究であると考えます。続報に期待。
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