院内専門薬局と院外専門薬局では経口化学療法薬のアドヒアランス率に差がありますか?(後向きコホート研究; Am J Health Syst Pharm. 2020)

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Comparison of Rates of Adherence to Oral Chemotherapy Medications Filled Through an Internal Health-System Specialty Pharmacy vs External Specialty Pharmacies

Colleen C McCabe et al.

Am J Health Syst Pharm. 2020 Jul 7;77(14):1118-1127. doi: 10.1093/ajhp/zxaa135.

PMID: 32537656

DOI: 10.1093/ajhp/zxaa135

Keywords: adherence metrics; medication possess ratio; oral anticancer medications; oral chemotherapy; proportion of days covered; specialty pharmacy; time to treatment.

目的

本研究の目的は、院内の医療システム専門薬局(HSSP)と院外の専門薬局で調剤された抗がん剤について、患者のアドヒアランス率を比較することであった。

方法

主要アウトカムは薬剤所持率(MPR)であり、副次的アウトカムには、proportion of days covered(PDC*)と治療までの時間(TTT)が含まれていた。

*PDC:「実際に飲んだ日数」を「本来飲むべき日数」で除した割合。処方レジメン通りにどれだけ服用したかの指標。値が高いほどアドヒアランス良好。

処方箋請求データを用いて、経口抗がん剤治療を受けた患者のMPR、PDC、TTTを比較するために、レトロスペクティブなカルテレビューを実施した。

アドヒアランスとTTTに対する人口統計学的要因およびその他の要因の影響を調べるために、t検定またはWilcoxon検定を用いた。

有意な因子を分析するために、後方排除を用いた重回帰モデルを用いて、アウトカムと有意に関連する共変量を特定した。

結果

・患者300例のうち、MPRとPDCのデータが完全に記録されている患者204例とTTTのデータが記録されている患者164例が分析に含まれた。

・患者がHSSPと院外薬局を利用した場合の平均MPR(1.00 vs. 0.75、P<0.001)および平均PDC(0.95 vs. 0.7、P < 0.001)には、グループ間で有意な差が認められた。

・薬局タイプ(P = 0.024)および腫瘍タイプ(P = 0.048)はTTTと有意に関連していた。

結論

重回帰分析の結果、学術医療センターの内部のHSSPで抗がん剤の処方箋調剤を受けた腫瘍内科患者は、外部の専門薬局で処方箋調剤を受けた患者に比べて、MPRとPDCで測定されるようにアドヒアランスが有意に高く、TTTが早いことが示された。

コメント

服薬アドヒアランスは、固形腫瘍および血液学的悪性腫瘍における根治的治療、転移性疾患における病勢管理の維持、血液学的悪性腫瘍における再寛解の代用としての深い反応(deep response as a surrogate of remission)の達成において、特に重要であることがかこに報告されています。また、ある研究では、腫瘍内科患者418例のうち、自己判断で服薬を中止したのが10%、処方箋による調剤を受けなくなったのが7%、定期的に処方箋による調剤を受けなくなったのが9%であったことも報告されています。さらに経口がん治療薬のアドヒアランスを向上させることで、副作用、入院、医療費全体の削減につながることが明らかとなっています。

米国では、日本と異なり、医療用医薬品の中でも特に高額かつ複雑な疾患の治療に使用される薬剤の一部は流通経路が制限されています。この薬剤を専門薬剤(スペシャルティ薬、Specialty Drugs)、この薬を取り扱う薬局のことを専門薬局(スペシャルティ薬局、Specialty Pharmacies)と区分しています。抗がん剤は、このスペシャルティ薬に区分されますので、抗がん薬を扱えるのはライセンスを保有している専門薬剤師(スペシャルティ薬剤師、Specialty Pharmacist)だけです。

海外における専門薬剤師制度では、それぞれの専門についてBoard of Pharmacy Specialties(BPS)という専門薬剤師理事会による認定を取得することが主流となっているようです。1980年代に核医薬品専門薬剤師がはじめて認定されてから、2018年現在までに薬物治療や腫瘍学など、以下11の専門が認定されているようです。

  • 薬物治療:Board Certified Pharmacotherapy Specialist(BCPS)
  • 腫瘍学 :Board Certified Oncology Pharmacist(BCOP)
  • 外来  :Board Certified Ambulatory Care Pharmacist(BCACP)
  • 精神医学:Board Certified Psychiatric Pharmacist(BCPP)
  • 核医薬品:Board Certified Nuclear Pharmacist(BCNP)
  • 栄養学 :Board Certified Nutrition Support Pharmacist(BCNSP)
  • 老年学 :Board Certified Geriatric Pharmacist(BCGP)
  • 小児科 :Board Certified Pediatric Pharmacy Specialist(BCPPS)
  • 集中治療:Board Certified Critical Care Pharmacist(BCCCP)
  • 循環器 :Board Certified Cardiology Pharmacist(BCCP)
  • 感染症 :Board Certified Infectious Diseases Pharmacist(BCIDP)
  • 無菌調剤:Compounded Sterile Preparation Pharmacy(CSPP)

日本においても、抗がん剤の調剤については、院内あるいは院外薬局で実施し、それぞれ服薬指導していると思います。院内と院外薬局におけるアドヒアランスの比較については、これまで報告がない(あるいは少ない)と考えます。

さて、本試験結果によれば、薬剤所持率(MPR)は院内薬局の場合1.00、院外薬局の場合0.75(P<0.001)でした。また、proportion of days covered(PDC)は院内薬局の場合0.95(95%)、院外0.7(70%)でした。治療までの時間(TTT)についても、院外に比べて(8.76)、院内(6.09)の方が早かったようです(P = 0.05)。

ただし、本試験で比較検討されたのは、院内(医療システム専門薬局)の利用者は180例、院外薬局は24例でした。また予算や在庫管理の観点から、全ての抗がん剤を院内調剤するのは困難であると考えます。さらに本試験は後向きコホート研究ですので、あくまでも相関関係であり、そもそもアドヒアランスが高い患者が院内調剤であった、あるいはアドヒアランスが高くなるような がん種だったかもしれません。

アドヒアランスの向上により副作用、入院、医療費全体の削減については過去に報告されていますが、今回のアウトカムにより、OSやPFS、検査値、死亡率などに差が認められるのかは明らかとなっていません。また、どのがん種が、よりアウトカムに影響しているのかについても明らかにしていく必要があります。

続報を待ちたい。

✅まとめ✅ 院内の医療システム専門薬局で経口抗がん薬を調剤された腫瘍内科患者は、院外薬局で調剤された患者と比較して、服薬アドヒアランスが高く、治療までの時間が短いかもしれない

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