Association of Cataract Surgery With Risk of Diabetic Retinopathy Among Asian Participants in the Singapore Epidemiology of Eye Diseases Study
Yih-Chung Tham et al.
JAMA Netw Open. 2020 Jun 1;3(6):e208035. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2020.8035.
PMID: 32543701
PMCID: PMC7298610
DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2020.8035
試験の重要性
白内障と糖尿病性網膜症(DR)は、世界的に後天性失明の主な原因となっている。白内障の標準的な治療法は摘出であるが、糖尿病患者ではDR発症のリスクが高まることも報告されている。それにもかかわらず、白内障手術と糖尿病網膜症(DR)のリスクとの関連性はまだ十分に理解されておらず、この分野での集団ベースの先行報告はなかった。
目的
2型糖尿病患者における白内障手術後のDR発症リスクを評価すること。
試験デザイン、設定、参加者
Singapore Epidemiology of Eye Diseases Studyから募集した参加者を対象に、集団ベースのプロスペクティブ・コホート研究を実施した。
ベースライン訪問は2004年6月1日から2009年3月31日まで、6年間の追跡調査は2011年6月1日から2016年7月31日までの間に実施した。
統計解析は 10 月 1 日~2019 年 10 月 31 日に実施した。
曝露
ベースライン時およびフォローアップ訪問時の水晶体状態のスリットランプ評価に基づいて決定されたフォローアップ訪問前に実施された白内障手術。
主要アウトカムおよび測定法
DRの発生率を有する眼は、ベースライン時にDRがなく、6年後のフォローアップ時に任意のDR(修正エアリーハウス分類システムに基づくレベル≧15、網膜写真から評価)が存在する眼と定義した。
白内障手術とDRの発生率との関連は、両眼間の相関を考慮して、一般化推定式を用いた多変量ポアソン回帰モデルを用いて評価した。
結果
・糖尿病患者972例(マレー人392例、インド人580例、男性495例、平均[SD]年齢58.7[9.1]歳)の合計1,734眼を解析対象とした。
・ベースライン時に白内障手術を受けていたのは163例、フォローアップ期間中に白内障手術を受けたのは187例(ベースライン時は白内障だった)であった。これら350眼のうち、77眼(22.0%)がDRを発症した。一方、白内障手術を受けなかった1,384例のうち、195例(14.1%)がDRを発症した。
・年齢、性別、人種/民族、ベースラインのヘモグロビンA1c値、糖尿病の罹患期間、ランダム血糖値、抗糖尿病薬の使用、高血圧、肥満度、喫煙状況を調整した後、多変量回帰分析を行ったところ、白内障手術の既往がDRの発生率と関連していることが示された。
★相対リスク =1.70、95%CI 1.26〜2.30;P =0.001
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・人種/民族別のサブグループ解析では、マレー人(相対リスク =1.73、95%CI 1.13〜2.69;P =0.02)とインド人(相対リスク =1.93、95%CI 1.33〜2.80;P < 0.001)の両方で同様の関連が示された。
結論および関連性
この集団ベースのコホート研究の結果は、白内障手術の経験が糖尿病患者のDR発症リスクの高さと関連していることを示唆している。この関連性を確認するためには、さらなる検証が必要である。
コメント
2型糖尿病患者における白内障手術は、糖尿病性網膜症の発症リスクとの関連性が報告されているようです。
さて、本試験結果によれば、マレー人およびインド人が対象となった集団ベースの後向きコホートでは、白内障手術を受けた患者の方が、手術を受けなかった患者と比較して、糖尿病性網膜症の発症リスク増加が認められました(相対リスク =1.70、95%CI 1.26〜2.30;P =0.001)。
人種差による違いはなく、白内障手術を受けた患者で一貫してリスク増加が認められました。
ただし、本研究は後向き研究であるため、因果の逆転も充分に考えられます。つまり、白内障手術を受けざるを得ないほどの重症白内障患者が、糖尿病性網膜症を発症しやすい可能性があると言うことです。この場合、原因は白内障手術ではなく、白内障そのものになります。また白内障手術を受けない場合にどのような代替手段を講じるのかについても検証していく必要があります。
また今回の研究で調整された因子に血糖コントロールが含まれていません。糖尿病性網膜症の発症リスクの1要因に、血糖の急激な変化が挙げられますので、調整因子として含めた方が、より正確な相関関係を検証できるように思います。
いずれにせよエビデンスの集積が待たれるところです。
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