Effects of a High-Dose 24-h Infusion of Tranexamic Acid on Death and Thromboembolic Events in Patients With Acute Gastrointestinal Bleeding (HALT-IT): An International Randomised, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial
Lancet. 2020 Jun 20;395(10241):1927-1936. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30848-5.
PMID: 32563378
DOI: 10.1016/S0140-6736(20)30848-5
This trial was registered with Current Controlled Trials, ISRCTN11225767, and ClinicalTrials.gov, NCT01658124.
Funding: UK National Institute for Health Research Health Technology Assessment Programme.
背景
トラネキサム酸は外科的出血を減少させ、外傷患者の出血による死亡を減少させる。小規模試験のメタアナリシスでは、トラネキサム酸が消化管出血による死亡を減少させる可能性があることが示されている。
我々は、消化管出血患者におけるトラネキサム酸の効果を評価することを目的とした。
方法
15ヵ国の病院164施設で、国際的な多施設共同ランダム化プラセボ対照試験を実施した。患者は、担当臨床医がトラネキサム酸を使用するかどうか不明であり、自国で成人とみなされる最低年齢以上(16歳以上または18歳以上)であり、重篤な(死亡に至るまでの出血の危険性があると定義された)上部または下部消化管出血を有する患者が登録された。
患者は、パック番号とは別に同一の8パックが入った箱から、番号のついた治療パックを選択してランダムに割り付けられた。
患者は、0~9%塩化ナトリウム100mLの輸液バッグにトラネキサム酸1gを添加し、10分間かけてゆっくりと静脈内注射したローディング用量、次いでトラネキサム酸3gを任意の等張性点滴液1Lに添加し、125mg/hで24時間点滴した維持用量、またはプラセボ(塩化ナトリウム0~9%)のいずれかを投与された。
患者、介護者、アウトカムを評価する者は割り付けをマスキングした。
主要アウトカムはランダム化後5日以内の出血による死亡であった。解析では、割り付けられた治療法のいずれの用量も投与されなかった患者および死亡に関するアウトカムデータが得られなかった患者は除外された。
所見
・2013 年 7 月 4 日から 2019 年 6 月 21 日までの間に、患者12,009 例をトラネキサム酸(5,994例、49.9%)または適合プラセボ(6,015例、50.1%)の投与を受けるようにランダム割り付けし、そのうち11,952例(99.5%)が割り付けられた治療法の初回投与を受けた。
・ランダム化後5日以内の出血による死亡は、トラネキサム酸群5,956例中222例(4%)、プラセボ群5,981例中226例(4%)で発生した。
★リスク比[RR]=0.99、95%CI 0.82〜1.18
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・動脈血栓塞栓イベント(心筋梗塞または脳卒中)はトラネキサム酸群とプラセボ群で同程度であった。
★5,952例中42例[0.7%] vs. 5,977例中46例[0.8%];RR =0.92、0.60~1.39
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・静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症または肺塞栓症)はプラセボ群よりトラネキサム酸群の方が高かった。
★5,952例中48例[0.8%] vs. 5,977例中26例[0.4%];RR =1.85、95%CI 1.15~2.98
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解釈
トラネキサム酸は消化管出血による死亡を減少させないことがわかった。
我々の結果に基づいて、トラネキサム酸は、ランダム化試験の文脈以外では消化管出血の治療に使用すべきではない。
コメント
2019年にLancet誌に掲載された研究では、急性外傷性脳損傷患者におけるトラネキサム酸は、死亡リスクを有意に低下させました。安価で効果が高いことから、トラネキサム酸への期待が高まっています。
さて、本研究結果によれば、重篤な上部または下部消化管出血を有する患者に対するトラネキサム酸の投与は、プラセボと比較して、5日以内の出血による死亡リスクや動脈血栓塞栓イベント(心筋梗塞または脳卒中)に差は認められませんでした。
一方、静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症または肺塞栓症)においては、トラネキサム酸の使用により、プラセボと比較して、リスク増加が認められました(RR =1.85、95%CI 1.15~2.98、NNH=250)。
そこまで静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症または肺塞栓症)の発生率が高いわけではありませんが、プラセボ群と比較して、イベント発生数は約2倍と、なかなかインパクトのある結果です。
少なくとも現時点において、重篤な上部または下部消化管出血を有する患者に対してトラネキサム酸を使用する意義はないと考えます。
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