- 背景
- ベイズの定理って何?
-
インフルエンザ検査キットの感度・特異度は?
- 文献1:Accuracy of rapid influenza diagnostic tests: a meta-analysis.(SR&MA)
- 文献2:Diagnostic performance of the BinaxNow Influenza A&B rapid antigen test in ED patients(前向き研究)
- 文献3:Diagnostic Accuracy of Novel and Traditional Rapid Tests for Influenza Infection Compared With Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction: A Systematic Review and Meta-analysis.(SR&MA)
- 文献4:Comparison of three rapid influenza diagnostic tests with digital readout systems and one conventional rapid influenza diagnostic test.(前向き研究)
- 文献5:Factors influencing the diagnostic accuracy of the rapid influenza antigen detection test (RIADT): a cross-sectional study.(横断研究)
- 文献6:Accuracy of rapid influenza diagnostic test and immunofluorescence assay compared to real time RT-PCR in children with influenza A(H1N1)pdm09 infection.
- 文献7:インフルエンザ迅速診断キットクイックナビ-Flu の4シーズンにおける臨床検討
- 高熱と咳症状を呈す患者はインフルエンザに罹患している?
- まとめ
- ✅インフルエンザキットの感度は20〜70%、特異度は約90%✅
- ✅流行期に咳と高熱があれば約80%でインフルエンザ罹患✅
背景
前回は尤度比について解説しました。
インフルエンザ検査の是非④【尤度比】
この “尤もらしさ” を活用するために必要となるのが検査キットの感度と特異度,そして事前オッズです。
そして、これらの情報をもとに疾患の罹患確率を算出する方法論が “ベイズの定理” です。
ベイズの定理って何?
ベイズの定理とは、主観確率を算出するための公式。(条件付き)確率に関する定理とも言われる。
ベイズの定理は下記の式で示されます。
各記号の意味
・P(A):Aという事象が発生する確率(厳密には事象Bが発生する前に事象Aが発生する確率)
・P(B):Bという事象が発生する確率(これを事前確率とする。事象Aが発生する前に事象Bが発生する確率)
簡単に示すと次のようになります。
事前オッズ×尤度比=事後オッズ
インフルエンザを例に少し解説しますと、事前オッズとは、インフルエンザ検査実施前の期待値であり “目の前の患者がインフルエンザにかかっているであろう確率” です。
尤度比とは、インフルエンザ検査キットによる判定結果の “もっともらしさ” です。
インフルエンザ検査キットの感度・特異度は?
文献によっては感度と特異度だけでなく、尤度比や的中率についても併記してくれています。以下、いくつかの文献をご紹介します。
文献1:Accuracy of rapid influenza diagnostic tests: a meta-analysis.(SR&MA)
PMID: 22371850
PRIMARY FUNDING SOURCE: Canadian Institutes of Health Research.
対象:159研究,26種の迅速検査キット
以下、結果を抜粋:
・感度の推定値は非常に不均一、つまり異質性が高かった。
感度:62.3%(95%CI 57.9%〜66.6%)
特異度:98.2%(CI 97.5%〜98.7%)
陽性尤度比:34.5(CI 23.8〜45.2)
陰性尤度比:0.38(CI 0.34〜0.43)
・感度の比較
子供:66.6%(CI 61.6%〜71.7%)
成人:53.9%(CI 47.9%〜59.8%)
・インフルエンザの型による比較
A型:64.6%(CI 59.0%〜70.1%)
B型:52.2%(CI 45.0%〜59.3%)
文献2:Diagnostic performance of the BinaxNow Influenza A&B rapid antigen test in ED patients(前向き研究)
https://www.ajemjournal.com/article/S0735-6757(12)00182-9/abstract
Self WH, et al.
Am J Emerg Med. 2012.
PMID:22795995
対象:救急外来を受診した6ヶ月齢以上の患者561例
以下、結果を抜粋:
・インフルエンザ迅速検査キット(イムノアッセイ)による陽性判定とRT-PCRとの比較を検証。
感度:24.4%(95%信頼区間[CI] 17.5%〜32.9%)
特異度:98.8%(95%CI 97.1%〜99.6%)
陽性適中率:86.5%(95%CI 70.4%〜94.9%)
陰性的中率:81.1%(95%CI 77.4%〜84.3%)
・迅速な抗原検査感度は、対象年齢、症状の持続期間、インフルエンザサブタイプ、およびサイクル閾値のすべてのカテゴリーで低かった。
文献3:Diagnostic Accuracy of Novel and Traditional Rapid Tests for Influenza Infection Compared With Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction: A Systematic Review and Meta-analysis.(SR&MA)
PMID: 28869986
対象:162研究
(インフルエンザ迅速検査キットRIDT:130研究、デジタルイムノアッセイDIA:19研究、核酸増幅迅速検査NAAT:13研究)
以下、結果を抜粋:
・ベイズ二変量変量効果モデルによりプールされたA型インフルエンザに対する感度
RIDT:54.4%(95%信頼区間[CrI] 48.9%〜59.8%)
DIA:80.0%(CrI 73.4%〜85.6%)
NAAT:91.6%(CrI 84.9%〜95.9%)
・B型インフルエンザの検出率
RIDT:53.2%(CrI 41.7%〜64.4%)
DIA:76.8%(CrI、65.4%〜85.4%)
NAAT:95.4%(CrI、87.3%〜98.7%)
・プールされた特異度
一様に高かった(98%<)
・46のA型インフルエンザと24のB型インフルエンザの研究では、小児特有のデータを示した。
・35のインフルエンザA型および16のインフルエンザB型の研究では、成人特異的データを提示した。
・迅速NAATによるインフルエンザA型(2.7パーセントポイント)を除いて、プールされた感度は、子供で12.1〜31.8パーセントポイント高かった。
・プールされた感度は、企業がスポンサーの研究を6.2〜34.0パーセントポイント押し上げました。
・不完全な報告はしばしば不明瞭なバイアスリスクをもたらした。
文献4:Comparison of three rapid influenza diagnostic tests with digital readout systems and one conventional rapid influenza diagnostic test.(前向き研究)
PMID: 28407318
対象:2016年2月〜3月に採取した216件の鼻咽頭拭いサンプル(大人90件 + 0〜17歳128件)、デジタル式インフルエンザ迅速検査キット3種類(BUDDI, Sofia Influenza A+B Fluorescence Immunoassay, Veritor System Flu A+B assay)+従来の検査(SD Bioline Influenza Ag A/B/A(H1N1/2009))を比較
以下、結果を抜粋:
・A型インフルエンザに対する各検査の精度
感度/特異度
BUDDI:87.7% / 100%
Sofia:94.5% / 97.7%
Veritor:87.7% / 96.5%
Bioline:72.6% / 100%の特異性を示しました。
・B型インフルエンザ
BUDDI:81.7% / 100%
Sofia:91.7% / 95.3%
Veritor:81.7% / 100%
Bioline:78.3% / 100%
・各RIDTは、希釈レベルおよび特定のインフルエンザサブタイプに従って、希釈NIBSC溶液を検出することができた。
・4つのRIDTと他の呼吸器系ウイルスとの交差反応性は認められなかった。
文献5:Factors influencing the diagnostic accuracy of the rapid influenza antigen detection test (RIADT): a cross-sectional study.(横断研究)
PMID: 24384898
対象:82例(上部呼吸器症状および37℃以上の発熱を示した患者)、日本の東京にあるプライマリーケアセンターのみでの検討
以下、結果を抜粋;
・迅速インフルエンザ抗原検出検査RIADTの精度
感度:72.9%(95%CI 61.5%〜84.2%)
特異度:91.3%(79.7%〜102.8%)
陽性適中率:95.6%(89.5%〜101.6%)
陰性適中率:56.8%(40.8〜72.7%)
・症状発現から検査までの時間は、真の陽性判定群よりも偽陰性判定群の方が短かった(p = 0.009)。
・評価した他の要因に関して有意な差は検出されなかった
・真の陰性判定患者よりも偽陰性判定患者の体温が高いことを明らかにし(p = 0.043)、真の陰性判定患者よりも偽陰性判定患者の方が悪寒を示した(p = 0.058)。
文献6:Accuracy of rapid influenza diagnostic test and immunofluorescence assay compared to real time RT-PCR in children with influenza A(H1N1)pdm09 infection.
Nitsch-Osuch A, et al.
Postepy Hig Med Dosw (Online). 2012.
PMID: 23175329
対象:59ヶ月未満の乳幼児150例(発熱が37.8℃を超える、咳および/または喉の痛み、その他の既知の原因がない場合)、BD Directigen™ EZ Flu A+B® とdirect immunofluorescence assay (DFA) 、リアルタイムRT-PCRについて検討
以下、結果を抜粋;
・インフルエンザA(H1N1)pdm09に対する迅速検査の精度
感度:62.2%(95%CI 46.5〜76.2%)
特異度:97.1%(95%CI 91.8〜99.4%)
陽性的中率:90.3%(95%CI 74.3〜98%)
陰性的中率:85.7%(95%CI 78.1〜91.5%)
・DFAの精度
感度:60% (95%CI 51.9〜63.2%)
特異度:96% (95%CI 88.7〜98.8%)
陽性的中率:93.1% (95%CI 80.5〜98%)
陰性的中率:72.7% (95%CI 67.2〜74.9%)
・ロジスティック回帰分析により、症状が現れてから48時間以内に試験を実施した場合、RIDTの真の陽性結果が得られる可能性は2倍高かった(OR =0.40 vs. 0.22)。
文献7:インフルエンザ迅速診断キットクイックナビ-Flu の4シーズンにおける臨床検討
Hara M et al.
医学と薬学 第72巻 2015年9月1595-1602
以下、結果を抜粋:
・インフルエンザ発症3時間以内でも陽性一致率が90%超の検査キットもある。ただし全文読めず感度と特異度は不明。また日本の単施設での研究。バイアスとして手技の差や地域差が考えられる。
高熱と咳症状を呈す患者はインフルエンザに罹患している?
論文1:Clinical signs and symptoms predicting influenza infection.(後向きプール解析)
PMID: 11088084
対象:3,744人の成人
以下、結果を抜粋:
・3,744人の被験者のうち、2,470人(66%)がインフルエンザに罹患していた。
・インフルエンザ患者は、咳(93% vs. 80%)、発熱(68% vs. 40%)、咳と熱(64% vs. 33%)、および/または鼻づまり(91% vs. 81%)が見られた。
・インフルエンザに罹患していない人に比べ、インフルエンザ感染症の最も良い多変量予測因子は咳と熱であり、陽性的中率は79%であった(P <0.001)。
・陽性的中率は試験組入時の体温の上昇とともに増加した。
論文2:Symptomatic predictors of influenza virus positivity in children during the influenza season.(2試験の事後解析)
PMID: 16886147
対象:ザナミビルを使用した5〜12歳児、オセルタミビルを使用した1〜12歳児
以下、結果を抜粋:
・成人を対象としたザナミビル研究と同様に、小児を対象とした研究でも、咳と熱がインフルエンザウイルス感染の最も良い予測因子だった。
・38.2度以上の熱および咳嗽では、83%(95%CI 79%〜88%)がインフルエンザウイルス陽性と判定された。
・5〜12歳の小児におけるインフルエンザウイルス陽性の予測因子は咳(陽性的中率70%; 95%CI 64%〜75%)であり発熱ではなかった。
・1〜4歳の幼児では、咳も発熱も予測因子とはなり得なかった。
・1〜4歳児で得られた知見は、この試験のために募集された患者における症状の多様性がより少ないことの結果であるように見え、インフルエンザウイルス感染陽性患者とインフルエンザウイルス感染陰性患者とで同様の症状を示した。
まとめ
インフルエンザ検査キットによる迅速検査は、発熱タイミングに関係なく、いつ検査しても偽陰性が多い(感度が20〜70%、特異度は約90%)。つまりインフルエンザ患者を検査で見落とすことが多い、ということ。
またインフルエンザ流行期に、症状として咳と高熱があれば約80%がインフルエンザウイルス感染患者(ただし5歳以上)である可能性が高い。つまりインフルエンザ検査の精度が向上しても、流行期に検査する意義は低い。発症から間もないので翌日受診する、という行為に意味はないと考えられる。
企業や保育園等は、インフルエンザ様症状が出ている患者さんに対して、インフルエンザ検査を強要しないで欲しい。そして休める体制作りを進めて欲しいと切に願います。
では、いつ検査するのか?この問いについてはまたいつかに。
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