Proton-Pump Inhibitors and Long-Term Risk of Community-Acquired Pneumonia in Older Adults. Zirk-Sadowski J, et al. J Am Geriatr Soc. 2018. PMID: 29676433
背景
プロトンポンプ阻害薬(Proton-Pump Inhibitor:PPI)使用により市中肺炎のリスク増加が報告されている。本試験は高齢者におけるPPI使用が同様にリスクを増加させるか否か、後ろ向きに検討した。結論
プライマリケアにおける高齢者へのPPI使用は治療開始2年後に肺炎リスクを増加させた。 本研究は retrospective cohort studyであるが、アウトカム評価にPERRを用いており因果関係の検証に適している。しかし交絡因子の調整は不十分であると考えられる。PICOTS
P: case – PPIを1年以上服用している60歳以上の患者 75,050名 control – 年齢および性別をマッチさせた 75,050名 I : PPI(エソメプラゾール、ランソプラゾール、オメプラゾール、 pantoprazole、ラベプラゾール)
C: (ー)
O: 市中肺炎の診断
T: 後向きコホート研究retrospective cohort study、害
S: イギリス電子カルテのデータベースClinical Practice Research
Datalink (CPRD) — 利用可能なデータ:基本的な人口統計的特徴、診断、処方、予防接種、および専門家紹介。さらに死亡診断書とリンクされていた。
組入基準
四半期毎に記録し、1年以上PPI処方を受けた患者かつ最初のPPI処方前の1年以上の臨床記録を有する60歳以上の者を選択。データベースの75,050人(男性n =31,202、女性n =43,848)と一致した。 PPI処方を受けていない75,050人の対照とPPIで治療した患者は1対1でマッチさせた。マッチングは性別と年齢のみ。 初回のPPI処方は、解析のための指標日としてデザインされた。照合の後、各治療の最初のPPI処方の日付を、対照の処方日としてコピーした。除外基準
退院後14日以内に肺炎診断を院内感染肺炎とみなし除外した。 28日以内の肺炎の診断は同じ事象とみなされた。個人の診療記録から30日以内の肺炎診断は、既往歴を反映している可能性として排除された。批判的吟味
追跡期間は? 約2年 結果に影響を及ぼす程の脱落はあるか? 脱落なし。ITT解析により全患者を解析に組み入れている。 アウトカムの観察者はマスキングされているか?(危険因子は既知であったか) 記載なしだが、大規模なデータベースを使用しているため、アウトカムへの観察者の恣意的な操作による影響はほぼ無いと考えられる。 交絡因子の調整は? 性別と年齢のみ コホートの背景は? 60〜74歳が70.7%、75歳以上が29.3%。女性が58.4%。 喫煙と並存疾患、アルコール摂取量、BMI25以上、冠動脈疾患、心不全、抗血小板薬、ベンゾジアゼピン、コルチコステロイド、NSAIDs使用の割合がPPI投与群で多い印象。 使用薬剤の調整までは難しいかもしれないが、もう少しマッチさせる項目を増やした方が良かったのではないかと感じた。 PERRPERR analyses were based on unadjusted Cox proportional hazard models, in accordance with validation studies.
Post-PPI hazard ratios (HRs) were adjusted by pre-PPI HRs using the PERR method (Supplementary Figure 2S) to account for unmeasured confounding and presented as PERR HRs and 95% confidence intervals (95%CIs) obtained using boots trapping.
PERR analyses require independence of events in the pre-PPI period from
risk of subsequent exposure. PERR also assumes that unmeasured confounding is time invariant.
PERR analyses analyzed post-PPI pneumonia risk adjusted by unmeasured confounding from the 24- to 13-month period before a PPI (Supplementary Figure 2S).
The number needed to harm was computed using an established formula and bootstrapped to obtain 95% confidence limits. Subgroup analyses according to age and co-morbidity were specified a priori in our original analysis application to CPRD
結果は?



本研究の強み
①使用されたCPRDデータベースは一般的なイギリス人口を代表するものであるため、イギリス人にとっては非常に外挿性の高い研究である。 ②アウトカム評価に用いたPERRは、PERR-ALTと同様に臨床観察データに適切に適用された場合、ランダム化比較試験の結果と近似することができる。 ③長期的なアウトカムに焦点を当てて交絡を減らすようにも設計。研究の限界
①交絡因子の調整が年齢と性別のみ。 →著者は「治療群と対照群の間の多くの潜在的に重要な差異は、臨床記録では未記録になるため」、また「PERR法は、治療開始前の結果(肺炎の発生率)の差異を調整することにより、群間の測定された差と測定されなかった差を説明しようとするため、ベースライン測定値に対する複雑なマッチングは重複してしまう」と言及していますが、診療記録にある喫煙や治療薬等については最小限に調整した方が良いと感じました。 ②感受性分析において、多くの測定された潜在的な交絡因子に関連する傾向スコアリングおよび逆確率重み付けアプローチを用いて同様の結果をもたらしたが、潜在的な尺度のリストには、例えば呼吸器疾患リスクを高める可能性のある脳卒中や神経疾患は除外された。 ③PPI暴露に関連しない条件を用いた変造分析の追加は、PERR分析に適した反復事象条件を特定し、同様の肺炎への偏見にさらされる可能性があるが、今後の作業を強化する可能性がある。 ④本研究ではプライマリケアからの処方記録を使用したため、店頭でPPIを購入した人は除外された(イギリスではPPIはOTCでも販売あり)。 ⑤今後の研究で検討される可能性のあるPPIについて薬物 – 薬物相互作用の影響があるかもしれない。 ⑥PERR法は時間依存交絡に対処できない。 ⑦PPI治療の前年を除外することにより、異なる分析手法によっても結果の一貫性が示唆されており、指示バイアス(indication bias、channelingあるいはprescription reason)のリスクは低減されたが、より長期の時間依存性の影響は不明。→つまり治療後2年以降のリスクについては不明ということ。コメント
後向きコホート研究。高齢者での長期PPI使用は市中肺炎リスクを増加させた。電子カルテデータベースとPERR法を用いているところが特徴的。 過去の報告と矛盾しない。-Evidence never tells you what to do-
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