抗生物質で風邪の重症化は防げますか?(Ann Fam Med. 2013:AMR対策シリーズ)

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Risks and benefits associated with antibiotic use for acute respiratory infections: a cohort study. Meropol SB et al. Ann Fam Med. 2013 Mar-Apr;11(2):165-72. PMID: 23508604 背景・疑問

2015年5月の世界保健総会で、薬剤耐性(AntiMicrobial Resistance: AMR)に関するグローバル・アクション・プランが採択され、加盟各国は2年以内に薬剤耐性に関する国家行動計画を策定することを求められた。

これを受け 2016年4月5日、厚生労働省において「 国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議 」のもとに、「 薬剤耐性に関する検討調整会議 」を設置、我が国として初めてのアクションプランが決定された。

厚生労働相のホームページ→薬剤耐性(AMR)対策について 今更ながら抗生物質の使用を減らした時のリスク・ベネフィットはどのくらいか?という疑問について文献を読んでみる。

結論

急性呼吸器感染症に対する抗生物質の効果は限定的。

ルーティンで使用するほどの益は認めらなかった。

抗生物質使用による重篤な副作用は、抗生物質を使用しない群と比べ差が認めらなかった。一方、感染症の重症化(市中肺炎)による入院については、抗生物質使用により 10万人当たり9(8.19)件減らすにとどまった。

これは有益な治療必要数(Number-Needed to Treat for Benefit: NNTB)に換算すると 12,255人であった。


組入基準

国際疾病分類コードと同様のシステムにより、急性非特異的呼吸器感染(ARIs)と診断された 18歳以上を組入れた。

除外基準

  • 市中肺炎
  • 慢性気管支炎の急性増悪等
  • 診療ガイドラインで推奨されている疾患結核や真菌感染症や寄生虫感染に使用される薬剤の使用

抄録

目的

おそらく小さなリスクであるが重大な細菌感染症への進行を避けるために、急性非特異的呼吸器感染(ARIs)に対し抗生物質は頻繁に処方される。しかし、薬剤に関連する有害事象の低リスクでさえ、人口集団レベルでは多くの有害事象をもたらす。

本研究の目的は、ARIs患者のコホートにおける抗生物質使用のリスクと有益性を、未治療の患者群と比較する事である。

方法

ARIsについては英国のプライマリケアデータベースからアクセスし、1986年6月から2006年8月までの成人患者コホートを使用した。 暴露は抗生物質処方であった。

主要アウトカムは、次項による15日以内の入院。 (1)重篤な副作用(過敏症、下痢、発作、不整脈、肝または腎不全) (2)地域性肺炎。 結果:コホートには、ARIs診断を受けた 1531,019回のアクセスが含まれていた。抗生物質は 65%の症例で投与された。100,000人当たりの調整リスク差は、未治療の患者と比較して、有害事象が 1.07(95%CI: -4.52〜2.38; P =0.54)、肺炎による入院は 8.16(95%CI: -13.24〜-3.08; P =0.002)。 肺炎による入院患者 1人を防ぐために必要とする治療数は 12,255人であった。 結論:抗生物質で治療されていない ARIs患者と比較して、抗生物質で治療された患者では、重篤な有害事象は差が認められず、肺炎の入院リスクを軽度に減少した。一般的な外来診断のための抗生物質処方による小さな利益は永続的な緊張を作り出す。社会レベルでは、医師は抗生物質を処方するにあたり、将来の抵抗を最小限にする一方で、遭遇時には、その患者の益-害のバランスを最適化するように強制されまる。


PICOT

  • 急性非特異的呼吸器感染症と診断された成人(1,531,019人)
  • I 抗生物質の処方
  • 処方なし
  • 次項による処方 15日後の入院①重篤な薬物有害事象(過敏症、下痢、痙攣発作、不整脈、肝障害、腎障害)②市中肺炎
  • T 害、後向きコホート研究、イギリスThe Health Improvement Network(THIN by CSD Medical Research)データベース 1986年6月〜2006年8月のデータを使用

批判的吟味

 追跡期間は?

➡抗生物質投与 15および 30日後

脱落はどのくらいか?

7%程度。結果に影響を及ぼすほどではなさそう。

マスキングされているか?

記載無し。一般的なデータベースを使用していることと、後ろ向きに検討していることから、入院決定における恣意性は低いと考えられる。

交絡因子の調整は?

傾向スコアを使用。既知の交絡因子については調整されていると判断(THINデータベースには、患者情報、治療、薬剤、その他の健康情報について登録されている)。

コメント

風邪に抗生物質は必要なさそうですね。しかし、重篤な副作用は抗生物質未使用群と大差ないため、高齢者等、細菌性二次感染が起こりやすいグループにおいては使用を考慮しても良いかもしれません。事実、今回の研究の対象者は高齢だったようです。

もちろん薬剤クラスや用量の設計は必要であると考えます。 また後ろ向きの観察研究であるため相関関係が示されただけにすぎず、さらに未知の交絡因子の影響があることも念頭に置かなければなりません。とはいえ、それでも NNTB=12,255という値はインパクトがあります。

抗生物質が必要な患者に、必要な用量、必要な期間使用するということを、改めて意識せざるを得ないのではないでしょうか。

-Evidence never tells you what to do-

コメント

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