アジア人ではDOACが過少投与(off-label underdosing)される?
DOACはビタミンK拮抗薬(ワーファリン®️など)に替わる抗凝固薬であり、近年、その使用量が増加しています。
ワーファリン®️(ワルファリン)投与による静脈血栓塞栓症のリスク低下を実現するために、治療目標はPT-INR 2.0〜3.0の範囲を維持することです。しかしアジア人、特に日本人においては、頭蓋内出血リスクと静脈血栓塞栓症イベント予防のためのベネフィットを鑑み、臨床試験の目標PT-INRは2.0〜2.6(70歳以上では1.6〜2.6)とグローバルの目標治療域よりも低めに設定されていることが多いです。
このワルファリンの治療目標域の設定根拠から、アジア人におけるDOAC投与においても標準用量よりも過少の用量(off-label underdosing、low-dose)が用いられているケースがあります。しかし、この過少投与用量の妥当性については明らかとなっていません。
DOACであるアピキサバン過少投与による有効性と安全性は?
韓国の全国的コホート研究によれば、標準用量のアピキサバンを投与された患者(n=4,194)と比較して、過少用量のアピキサバンを投与された患者(n=2,890)では虚血性脳卒中、全死亡、複合アウトカムのリスクが高かったようです。
虚血生脳卒中 :調整後HR[aHR] 1.38、95%CI 1.06~1.81
全死亡 :aHR 1.19、95%CI 1.01~1.39
複合アウトカム:aHR 1.17、95%CI 1.03~1.34
しかし、重篤な出血には両群間で有意差はなかったとのこと。
また、減量基準を満たさなかった患者では、適応外の過少投与アピキサバンの使用は、標準用量アピキサバンの使用に比べて虚血性脳卒中のリスクが有意に高かったことが明らかとなりました(aHR 1.85、95%CI 1.25〜2.73)。
さらに、1段階減量の基準を満たした患者では、適応外の過少用量アピキサバン使用は、標準用量アピキサバン使用よりも全死亡リスクが高いことも示されました(aHR 1.32、95%CI 1.07〜1.64)。
したがって、DOACであるアピキサバンを過少投与する意義はないかもしれません。あくまでも相関関係ではありますが、他の研究によっても同様の結果が示されていますので、適応外の過少投与は避けた方が良さそうです。
✅まとめ✅ アピキサバンの適応外過少投与群では、標準用量投与群に比べて虚血性脳卒中、全死亡、複合臨床アウトカムのリスクが高かったが、重篤な出血リスクはどちらも同等であった
根拠となった論文の抄録
目的:アジアの心房細動(AF)患者を対象に、適応外の過少投与アピキサバンと標準用量アピキサバンの有効性と安全性を比較する。
方法:韓国全国のクレームデータベース(Korean nationwide claims database)を用いて、2015年1月から2017年12月までの間にアピキサバンを処方され、アピキサバンの減薬基準を満たさなかった患者を同定した。多変量Coxハザード回帰モデルを実施し、虚血性脳卒中、大出血(Major Bleeding, MB)、全死亡、複合アウトカムのハザード比(HR)を分析した。
結果:標準用量のアピキサバンを投与された患者(n=4,194)と比較して、過少用量のアピキサバンを投与された患者(n=2,890)では虚血性脳卒中のリスクが高かった(調整後HR[aHR] 1.38、95%CI 1.06~1.81)、全死亡(aHR 1.19、95%CI 1.01~1.39)、複合アウトカム(aHR 1.17、95%CI 1.03~1.34)が高かったが、MBには両群間で有意差はなかった。減量基準を満たさなかった患者では、適応外の過少投与アピキサバンの使用は、標準用量アピキサバンの使用に比べて虚血性脳卒中のリスクが有意に高かった(aHR 1.85、95%CI 1.25〜2.73)。1段階減量の基準を満たした患者では、適応外の過少用量アピキサバン使用は、標準用量アピキサバン使用よりも全死亡リスクが高かった(aHR 1.32、95%CI 1.07〜1.64)。
結論:アピキサバンの適応外過少投与群では、標準用量投与群に比べて虚血性脳卒中、全死亡、複合臨床アウトカムのリスクが高かったが、MBのリスクはどちらも同等であった。アジアの心房細動患者にとって最良の臨床アウトカムを得るためには、アピキサバンの投与量の適応内アドヒアランスを強調すべきである。
引用文献
Off-label underdosed apixaban use in Asian patients with non-valvular atrial fibrillation – PubMed
The off-label underdosed apixaban group showed higher risks of ischemic stroke, all-cause death, and composite clinical outcomes than the on-label standard dose apixaban group, but both showed comparable risks of MB. Label-adherence to apixaban dosing should be emphasised to achieve the best clinica …
— Read on pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33471125/
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