降圧薬は併用した方が良いのか?
高血圧治療では、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬といった5つの主要薬剤クラスが広く用いられています。しかし、実際にどの程度血圧を下げられるのか、また単剤と併用でどのように効果が異なるのか、定量的な比較は充分ではありませんでした。
本研究は、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験を対象にした大規模システマティックレビューとメタ解析により、降圧薬とその併用の効果を整理しました。
試験結果から明らかになったことは?
◆研究方法
- 対象試験数:484件
- 総参加者数:104,176人
- 平均年齢:54歳
- ベースライン血圧:平均154/100mmHg
- 追跡期間:平均8.6週間
- 比較薬:ACE阻害薬、ARB、β遮断薬、Ca拮抗薬、利尿薬
- 評価項目:プラセボの収縮期血圧(SBP)との差を用いた変化
◆主な結果(アウトカム別)
アウトカム | 結果 |
---|---|
単剤(標準用量) | 平均-8.7mmHg(95%CI -9.2 〜 -8.2) |
単剤での用量倍増効果 | 追加で-1.5mmHg(95%CI -1.7 〜 -1.2) |
2剤併用(標準用量) | 平均-14.9mmHg(95%CI -16.8 〜 -13.1) |
2剤併用での用量倍増効果 | 追加で-2.5mmHg(95%CI -3.7 〜 -1.4) |
ベースラインSBPが10mmHg低い場合 | 降圧効果は-1.3mmHg減弱 |
強度分類 | 単剤の79%は「低強度(<10mmHg低下)」に分類。 2剤併用では58%が「中強度(10-19mmHg低下)」、11%が「高強度(≥20mmHg低下)」 |
◆結果の解釈
- 単剤治療では約9mmHgの降圧効果が期待できるが、十分な降圧が得られないケースが多い。
- 2剤併用は単剤より効果的で、約15mmHgの降圧が期待できる。
- さらに用量を増やすことで追加効果はあるが、その幅は比較的小さい。
- 薬剤クラス間で差はあるものの「併用療法の有効性」が一貫して示された点は重要です。
◆研究の限界
- 追跡期間が平均8.6週間と比較的短く、長期的な降圧効果やアウトカム改善との関連は評価されていない。
- 薬剤クラスごとの副作用や忍容性の違いについては充分に分析されていない。
- 個別の患者背景(高齢者や多疾患合併患者など)における一般化には慎重さが必要です。
◆まとめ
本メタ解析により、主要5クラスの降圧薬とその併用の降圧効果が定量化されました。
- 標準用量の単剤:-8.7 mmHg
- 標準用量の2剤併用:-14.9 mmHg
という明確な差が示され、多くの患者で併用療法が必要であることが裏付けられました。
臨床現場では、降圧効果の「強度分類(低・中・高)」を念頭に、より戦略的な薬剤選択が可能になると考えられます。
あくまでも代用のアウトカムではありますが、降圧の程度が大きいほど、心血管イベントの発症リスクが低減されることが明らかとなっていることから、降圧効果を比較することは実臨床においても一定の意義は得られるでしょう。
国や地域、人種差についても更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験を対象としたメタ解析の結果、主要5クラスの降圧薬とその併用の降圧効果が定量化された。降圧効果は単剤の用量増加よりも併用療法でより大きかった。
根拠となった試験の抄録
背景: 5つの主要薬物クラスの降圧薬とその組み合わせによる血圧降下効果を定量化することを目的としました。
方法: ランダム化二重盲検プラセボ対照試験の系統的レビューとメタアナリシスを実施し、成人参加者をアンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、β遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬、または利尿薬に無作為に割り付けた。適格基準は、4週間から26週間の追跡期間、追跡血圧評価前に少なくとも4週間すべての参加者で降圧薬治療が固定されていること、および治療群間の収縮期血圧の平均差を計算するために診療所血圧が利用できることであった。クロスオーバー期間間のウォッシュアウト期間が2週間未満のクロスオーバー試験は除外した。データベース開始から2022年12月31日までに発表された適格な研究は、Cochrane Central Register of Controlled Trials、MEDLINE、およびEpistemonikosの検索から特定された。検索は、2023年1月1日から2025年2月28日の間に発表された研究を含むように更新されました。主要評価項目は、プラセボ補正収縮期血圧の低下でした。血圧降下効果は、対象試験全体のベースライン血圧の平均に標準化した固定効果メタアナリシスを用いて推定しました。薬物療法は、ベースライン154 mmHgからの収縮期血圧降下効果がそれぞれ10 mmHg未満、10~19 mmHg、20 mmHg以上であることに対応して、低強度、中強度、高強度に分類されました。あらゆる降圧薬の組み合わせに対する有効性を計算するモデルが開発され、2剤および3剤併用降圧薬の外部試験で検証されました。本研究プロトコルは、国際登録システマティックレビューおよびメタアナリシスプロトコルプラットフォーム(INPLASY202410036)に登録されました。
結果: 104,176名の参加者(平均年齢54歳[SD 8]、男性57,422名[55%]、女性46,754名[45%]、ベースラインの平均収縮期血圧154/100 mmHg)を含む484件の試験を解析した。平均追跡期間は8.6週間(SD 5.2)であった。平均して、標準用量での単剤療法では収縮期血圧が8.7 mmHg(95%信頼区間8.2-9.2)低下し、用量が2倍になるごとにさらに1.5 mmHg(1.2-1.7)低下した。 1 つの標準用量での 2 剤併用により収縮期血圧が 14.9 mmHg (95% 信頼区間 13.1-16.8) 低下し、両方の薬剤の用量が倍増するごとにさらに 2.5 mmHg (1.4-3.7) 低下した。単剤療法では、ベースラインの収縮期血圧が 10 mmHg 低下するごとに降圧効果が 1.3 mmHg (1.0-1.5) 低下したが、薬剤クラス間に差異が認められた。標準用量での57の単剤療法のうち、45 (79%) が低強度に分類された。189 の異なる薬剤用量の 2 剤併用のうち、110 (58%) が中強度、21 (11%) が高強度に分類された。薬剤クラス間および薬剤クラス内では、用量反応関係およびベースライン血圧反応関係にかなりの差異があった。有効性モデルは、外部試験で検証されたときに、予測された収縮期血圧と観察された収縮期血圧の間に高い相関関係を示しました (r=0.76、p<0.0001)。
解釈: これらの分析により、あらゆる降圧薬の組み合わせにおける予想される血圧降下効果の堅牢な推定値が得られ、その有効性を低、中、高の強度に分類できるようになります。
資金提供: オーストラリア国立保健医療研究評議会
引用文献
Blood pressure-lowering efficacy of antihypertensive drugs and their combinations: a systematic review and meta-analysis of randomised, double-blind, placebo-controlled trials
Nelson Wang et al. PMID: 40885583 DOI: 10.1016/S0140-6736(25)00991-2
Lancet. 2025 Aug 30;406(10506):915-925. doi: 10.1016/S0140-6736(25)00991-2.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40885583/
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