◾この記事でわかること
- 酸化マグネシウム(MgO)の緩下作用における「投与回数」の影響
- 便通が安定している高齢者への減回数投与の実践的知見
- 投与回数を減らすことによる臨床的意義と注意点
試験結果から明らかになったことは?
◾研究の背景|服薬回数の多さはアドヒアランスの障害に
便秘治療薬として長年使用されている酸化マグネシウム(MgO)は、安全性が高く、高齢者にも広く使われています。
しかし、1日3回などの分割投与が一般的であり、服薬回数の多さは服薬アドヒアランスの低下や、介護現場での投薬負担の増加を引き起こす可能性があります。
そこで注目されるのが、「総投与量を維持したまま、回数だけを減らしても緩下作用は維持されるのか?」という疑問です。
◾研究の概要|酸化マグネシウムの投与回数変更前後を比較
この研究は、日本の薬剤師による在宅訪問と連携する介護施設に入所中の便通が安定した患者11名を対象にした後ろ向き観察研究です。
- 対象:便通が安定していた入所者11名(平均年齢などは抄録に記載なし)
- 介入:MgOの1日投与回数を「3回→2回」、「2回→1回」に変更(※総投与量は同一)
- 観察期間:変更前後それぞれ2週間
- 評価項目:
- 排便回数(2週間合計)
- ブリストル便性状スケール(BSFS)
- オンデマンド下剤の使用状況
◾主な結果は?
項目 | 投与回数変更前(2週間) | 投与回数変更後(2週間) | 差 | P値 |
---|---|---|---|---|
排便回数(平均±SD) | 7.6±3.4回 | 6.6±4.0回 | −1.0回 | 0.09 |
BSFSスコア(平均±SD) | 3.9±0.9 | 4.0±0.9 | +0.1 | 0.93 |
オンデマンド下剤の使用 | なし | なし | — | — |
→ 排便回数・便性状ともに有意な変化なし
→ 投与回数を減らしても便通に影響しない可能性
◾試験の特徴と限界
▶ 試験の特徴
- 実臨床に近い環境(介護施設・在宅訪問薬剤師)で行われた観察研究
- 患者のQOLやケア現場の負担軽減に直結する「投与回数」に着目
- オンデマンド下剤を併用せず、MgO単独での効果を評価
▶ 試験の限界
- 対象者が11名と非常に少数であり、統計的検出力に乏しい
- 非ランダム化・後ろ向き研究であるため、交絡因子(例:食事・水分摂取量)を排除できない
- 便秘が安定している患者に限定しており、便秘傾向が強い患者や導入期には結果が当てはまらない可能性
◾実際の現場ではどう活かす?
本研究の知見は、以下のような場面で参考になります:
- 便通が安定している高齢者で、服薬回数を減らしたい場合
- 在宅や介護施設で、投与回数の少ない処方により介助負担を軽減したいケース
- 下剤の調整を検討する際に、投与量だけでなく回数の見直しという選択肢を考慮する場面
◾まとめ
酸化マグネシウムを使用中で、便通が安定している患者においては、1日の投与回数を減らしても便通や便性状に大きな変化は認められない可能性が示唆されました。
ただし、症例数が少ないため、一般化には注意が必要です。投与回数の変更は、患者の状態や服薬管理体制を総合的に考慮しながら、段階的に評価していくことが大切です。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 小規模な後ろ向き研究の結果、MgOの1日投与回数を減らしても緩下効果に影響がないことが示唆された。
根拠となった試験の抄録
目的: 排便が良好な患者において、酸化マグネシウム(MgO)の1日総投与量は維持したまま、1日投与回数を減らした場合の下剤効果を検討する。
患者と方法: 薬剤師による訪問診療を伴う介護施設入所時に便秘のためMgOを処方された、排便が規則的な患者11名を後ろ向きに分析した。この調査は、2週間かけて1日投与回数を3回から2回、または2回から1回に減らす前と減らした後で実施した。
結果: 投与頻度の変更前と変更後の2週間の排便回数は、それぞれ7.6±3.4回と6.6±4.0回であった。この差は統計的に有意ではなかった(P=0.09)。変更前と変更後の2週間のブリストル便形状スケールは3.9±0.9と4.0±0.9であり、有意ではなかった(P=0.93)。変更から2週間後、MgO療法は変更されず、オンデマンド下剤は投与されませんでした。
結論: この結果は、MgOの1日投与回数を減らしても下剤効果に影響がないことを示唆しています。
キーワード: 便秘、酸化マグネシウム、1 日あたりの投与回数、介護施設
引用文献
Effect of reduced daily magnesium oxide doses on laxative effect: a single-center retrospective study
Norio Watanabe et al. PMID: 38975042 PMCID: PMC11222616 DOI: 10.2185/jrm.2023-038
J Rural Med. 2024 Jul;19(3):192-195. doi: 10.2185/jrm.2023-038. Epub 2024 Jul 1.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38975042/
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