腎機能別の経口鉄剤の服用タイミングは?
正常腎機能(NKF)または慢性腎臓病(CKD)を有する鉄欠乏性貧血(IDA)患者における最適な経口鉄補給戦略は不明です。
そこで今回は、NKFまたはCKDのいずれかを有する鉄欠乏性貧血患者において、異なる経口鉄補給戦略とヘモグロビンおよび鉄指標の変化との関連を検討した後向きコホート研究の結果をご紹介します。
このレトロスペクティブコホート研究は、2009年から2019年にかけて全国の退役軍人保健管理施設で実施されました。対象としたのは、IDA(ヘモグロビン<12g/dL、鉄飽和度<20%またはフェリチン<50ng/mLと定義)を有し、初めて外来で経口鉄剤の処方を受けた退役軍人です。患者はさらにNKF(推定糸球体濾過量60mL/分/1.73m2以上)とCKD(推定糸球体濾過量15mL/分/1.73m2以上60mL/分/1.73m2未満)に分けられました。データ解析は2023年2月から10月まで行われました。
患者は経口鉄投与スケジュールに基づいて、次の3群に分類されました:毎日投与(1日1回)、1日複数回投与(MDD;1日2回以上)、隔日投与(ADD)。
本研究の主要アウトカムは、ヘモグロビン、フェリチン、総鉄結合能(TIBC)、鉄飽和度(ISAT)の変化であり、線形混合効果モデルにより算出されました。
試験結果から明らかになったことは?
IDAの退役軍人71,677人(男性 63,202人[88.2%]、女性 8,475人[11.8%];平均年齢68.47[SD 13.09]歳)(NKF 47,201人、CKD 24,476人を含む)が同定されました。
正常腎機能(NKF)患者 | 30日あたりの推定差(SE) |
毎日投与(1日1回) | 推定差 0.27(0.00)g/dL P<0.001 |
1日複数回投与(MDD;1日2回以上) | 推定差 0.08(0.03)g/dL P<0.001 |
隔日投与(ADD) | 推定差 -0.01(SE 0.01)g/dL P=0.38 |
毎日投与群のNKF患者では、ヘモグロビンがベースラインから増加しました(30日あたりの推定差 0.27[SE 0.00]g/dL;P<0.001)。毎日投与群と比較すると、ヘモグロビンはMDD群でより増加しましたが(30日あたりの推定差 0.08[SE 0.03]g/dL;P<0.001)、ADD群では差が認められませんでした(30日あたりの推定差 -0.01[SE 0.01]g/dL;P=0.38)。
フェリチン、ISAT、TIBCの結果は同様でしたが、TIBCはADD群で毎日群と比較して変化が少ないことが示されました。CKD患者では同様の傾向がみられたが、変化の大きさは小さいことが示されました。
正常腎機能(NKF)患者 | 90日後のヘモグロビン増加の補正平均値 (95%CI) |
毎日投与(1日1回) | 1.03g/dL(1.01~1.06g/dL) |
1日複数回投与(MDD;1日2回以上) | 1.38g/dL(1.36~1.40g/dL) |
隔日投与(ADD) | 0.93g/dL(0.84~1.02g/dL) |
NKF患者では、90日後のヘモグロビン増加の補正平均値は、毎日投与群で1.03g/dL(95%CI 1.01~1.06g/dL)、MDD群で1.38g/dL(95%CI 1.36~1.40g/dL)、ADD群で0.93g/dL(95%CI 0.84~1.02g/dL)でした。
CKD患者 | 90日後のヘモグロビン増加の補正平均値 (95%CI) |
毎日投与(1日1回) | 0.71g/dL(0.68~0.73g/dL) |
1日複数回投与(MDD;1日2回以上) | 0.99g/dL(0.97~1.01g/dL) |
隔日投与(ADD) | 0.62g/dL(0.52~0.73g/dL) |
CKD患者では、90日後のヘモグロビン増加の補正平均値は、毎日投与群で0.71g/dL(95%CI 0.68~0.73g/dL)、MDD群で0.99g/dL(95%CI 0.97~1.01g/dL)、ADD群で0.62g/dL(95%CI 0.52~0.73g/dL)でした。
コメント
経口鉄剤の投与タイミングの違いとヘモグロビンを含めた鉄指標との関連性については充分に検証されていません。
さて、鉄欠乏性貧血を有する退役軍人を対象としたこのレトロスペクティブコホート研究では、ヘモグロビンおよび鉄指標の改善において、毎日投与群と隔日投与群との間に有意差は認められませんでしたが、1日複数回投与群で最も早い改善が観察されました。
一方、患者レベルの吸収不良、胃腸の副作用、忍容性に関するデータはないことから安全性の比較はできません。また、退役軍人データベースであることから、主に疾病負担が大きい高齢男性退役軍人であるため、結果を妊娠中または若年のIDA患者に一般化することはできません。
このため、いずれの投与方法が適しているのかについては結論付けられません。更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 鉄欠乏性貧血を有する退役軍人を対象としたこのレトロスペクティブコホート研究では、ヘモグロビンおよび鉄指標の改善において、毎日投与群と隔日投与群との間に有意差は認められなかったが、1日複数回投与群で最も早い改善が観察された。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:正常腎機能(NKF)または慢性腎臓病(CKD)を有する鉄欠乏性貧血(IDA)患者における最適な経口鉄補給戦略は不明である。
目的:NKFまたはCKDのいずれかを有する鉄欠乏性貧血患者において、異なる経口鉄補給戦略とヘモグロビンおよび鉄指標の変化との関連を検討すること。
試験デザイン、設定、参加者:このレトロスペクティブコホート研究は、2009年から2019年にかけて全国の退役軍人保健管理施設で実施された。
対象としたのは、IDA(ヘモグロビン<12g/dL、鉄飽和度<20%またはフェリチン<50ng/mLと定義)を有し、初めて外来で経口鉄剤の処方を受けた退役軍人である。患者はさらにNKF(推定糸球体濾過量60mL/分/1.73m2以上)とCKD(推定糸球体濾過量15mL/分/1.73m2以上60mL/分/1.73m2未満)に分けられた。データ解析は2023年2月から10月まで行われた。
曝露:患者は経口鉄投与スケジュールに基づいて3群に分類された:毎日投与(1日1回)、1日複数回投与(MDD;1日2回以上)、隔日投与(ADD)。
主要アウトカムと評価基準:主要アウトカムは、ヘモグロビン、フェリチン、総鉄結合能(TIBC)、鉄飽和度(ISAT)の変化とし、線形混合効果モデルを用いて算出した。
結果:IDAの退役軍人71,677人(男性 63,202人[88.2%]、女性 8,475人[11.8%];平均年齢68.47[SD 13.09]歳)(NKF 47,201人、CKD 24,476人を含む)が同定された。毎日投与群のNKF患者では、ヘモグロビンがベースラインから増加した(30日あたりの推定差 0.27[SE 0.00]g/dL;P<0.001)。毎日投与群と比較すると、ヘモグロビンはMDD群でより増加したが(30日あたりの推定差 0.08[SE 0.03]g/dL;P<0.001)、ADD群では差は認められなかった(30日あたりの推定差 -0.01[SE 0.01]g/dL;P=0.38)。フェリチン、ISAT、TIBCの結果は同様であったが、TIBCはADD群で毎日群と比較して変化が少なかった。CKD患者では同様の傾向がみられたが、変化の大きさは小さかった。NKF患者では、90日後のヘモグロビン増加の補正平均値は、毎日投与群で1.03g/dL(95%CI 1.01~1.06g/dL)、MDD群で1.38g/dL(95%CI 1.36~1.40g/dL)、ADD群で0.93g/dL(95%CI 0.84~1.02g/dL)であった。CKD患者では、90日後のヘモグロビン増加の補正平均値は、毎日投与群で0.71g/dL(95%CI 0.68~0.73g/dL)、MDD群で0.99g/dL(95%CI 0.97~1.01g/dL)、ADD群で0.62g/dL(95%CI 0.52~0.73g/dL)であった。
結論と関連性:鉄欠乏性貧血を有する退役軍人を対象としたこのレトロスペクティブコホート研究では、ヘモグロビンおよび鉄指標の改善において、毎日投与群と隔日投与群との間に有意差は認められなかったが、1日複数回投与群で最も早い改善が観察された。これらの所見から、経口鉄療法の選択は、希望する反応の速さおよび副作用による患者の希望に依存すべきであることが示唆される。
引用文献
Optimal Oral Iron Therapy for Iron Deficiency Anemia Among US Veterans
Nilang Patel et al. PMID: 38819821 PMCID: PMC11143460 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2024.14305
JAMA Netw Open. 2024 May 1;7(5):e2414305. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2024.14305.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38819821/
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