SGLT2阻害薬同士の比較:エンパグリフロジン vs. ダパグリフロジン
ナトリウム-グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害薬は心不全患者に使用すると有益であることが示されています。しかし、SGLT2阻害薬同士の比較成績はまだ充分に明らかにされておらず、薬剤選択に影響を及ぼす可能性があります。
そこで今回は、エンパグリフロジンとダパグリフロジンの心不全患者における全死亡と入院の複合の減少に関する比較結果を明らかにすることを目的に実施された多施設レトロスペクティブコホート研究の結果をご紹介します。
本研究では、81施設の医療機関のネットワークから得られた非識別化電子カルテデータの集中データベースであるTriNetX Research Collaborativeに登録された2021年8月18日~2022年12月6日の心不全患者が対象となりました。対象患者は心不全と診断され、過去にSGLT2阻害薬の投与を受けたことがなく、エンパグリフロジンまたはダパグリフロジンの投与を新たに開始した患者でした。患者は1年間追跡されました。本研究の曝露は、ダパグリフロジンまたはエンパグリフロジンの投与開始でした。
主要アウトカムは試験開始1~365日目における全死因死亡または入院の複合が起こるまでの期間でした。主要アウトカムの評価にはKaplan-Meier解析、ハザード比(HR)、95%CIが用いられました。
試験結果から明らかになったことは?
適格患者744,914例中、28,075例がエンパグリフロジン(15,976例[56.9%])またはダパグリフロジン(12,099例[43.1%])を開始しました。人口統計学、診断、薬物使用について最近傍マッチングを行った結果、各群には11,077例の患者がいました。エンパグリフロジンを投与された患者のうち、9,247例(57.9%)が男性、3,130例(19.6%)が黒人、9,576例(59.9%)が白人でした。同様にダパグリフロジン投与群では、男性7,439例(61.5%)、黒人2,445例(20.2%)、白人7,131例(58.9%)でした。
投与開始後1年間 | ハザード比 HR (95%CI) |
全死亡または入院の複合 | HR 0.90(0.86〜0.94) |
入院 | HR 0.90(0.86〜0.94) |
全死亡 | HR 0.91(0.82〜1.00) |
エンパグリフロジンを投与された患者は、ダパグリフロジンを投与された患者と比較して、SGLT2阻害薬投与開始後1年間に全死亡または入院の複合を経験する可能性が低く(3,545例[32.2%] vs. 3,828例[34.8%]イベント;HR 0.90、95%CI 0.86〜0.94)、入院する可能性も低いことが示されました(HR 0.90、95%CI 0.86〜0.94)。全死亡率は曝露群間で差はありませんでした(HR 0.91、95%CI 0.82〜1.00)。平均ヘモグロビンA1cや有害事象に群間差はありませんでした。
コメント
SGLT2阻害薬同士の比較は充分に実施されていません。
さて、多施設の後向きコホート研究において、エンパグリフロジンを開始した患者は、ダパグリフロジンを開始した患者と比較して、全死亡または入院の複合を経験する可能性が低いことが示されました。
あくまでも傾向が示されたに過ぎませんが、入院リスクを低下させる効果はエンパグリフロジンの方が高いようです。
一方、2023年に発表されたコホート研究(2型糖尿病の韓国人を対象)では、ダパグリフロジンはエンパグリフロジンよりも心不全による入院や死亡、心血管死リスクが低い可能性が示唆されています。
人種や対象患者が異なることから、いずれの結果も一般化可能性に限界があります。今後の検証結果が待たれるところです。
続報に期待。
✅まとめ✅ 多施設の後向きコホート研究において、エンパグリフロジンを開始した患者は、ダパグリフロジンを開始した患者と比較して、全死亡または入院の複合を経験する可能性が低かった。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:ナトリウム-グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害薬は心不全患者に使用すると有益であることが示されている。SGLT2阻害薬同士の比較成績はまだ十分に明らかにされておらず、薬剤選択に影響を及ぼす可能性がある。
目的:エンパグリフロジンとダパグリフロジンの心不全患者における全死亡と入院の複合の減少に関する比較結果を明らかにすること。
試験デザイン、設定、参加者:この多施設レトロスペクティブコホート研究では、81施設の医療機関のネットワークから得られた非識別化電子カルテデータの集中データベースであるTriNetX Research Collaborativeに登録された2021年8月18日~2022年12月6日の心不全患者を対象とした。対象患者は心不全と診断され、過去にSGLT2阻害薬の投与を受けたことがなく、エンパグリフロジンまたはダパグリフロジンの投与を新たに開始した患者であった。患者は1年間追跡された。
曝露:ダパグリフロジンまたはエンパグリフロジンの投与開始。
主要アウトカムと評価基準:主要アウトカムは試験開始1~365日目における全死因死亡または入院の複合が起こるまでの期間。主要アウトカムの評価にはKaplan-Meier解析、ハザード比(HR)、95%CIを用いた。
結果:適格患者744,914例中、28,075例がエンパグリフロジン(15,976例[56.9%])またはダパグリフロジン(12,099例[43.1%])を開始した。人口統計学、診断、薬物使用について最近傍マッチング*を行った結果、各群には11,077人の患者がいた。エンパグリフロジンを投与された患者のうち、9,247例(57.9%)が男性、3,130例(19.6%)が黒人、9,576例(59.9%)が白人であった。同様にダパグリフロジン投与群では、男性7,439例(61.5%)、黒人2,445例(20.2%)、白人7,131例(58.9%)であった。エンパグリフロジンを投与された患者は、ダパグリフロジンを投与された患者と比較して、SGLT2阻害薬投与開始後1年間に全死亡または入院の複合を経験する可能性が低く(3,545例[32.2%] vs. 3,828例[34.8%]イベント;HR 0.90、95%CI 0.86〜0.94)、入院する可能性も低かった(HR 0.90、95%CI 0.86〜0.94)。全死亡率は曝露群間で差はなかった(HR 0.91、95%CI 0.82〜1.00)。平均ヘモグロビンA1cや有害事象に群間差はなかった。
*処理群に一番近い傾向スコアを持つ対照群をマッチングする方法
結論と関連性:このコホート研究において、エンパグリフロジンを開始した患者は、ダパグリフロジンを開始した患者と比較して、全死亡または入院の複合を経験する可能性が低かった。これらの所見を確認するためには追加研究が必要である。
引用文献
Comparative Outcomes of Empagliflozin to Dapagliflozin in Patients With Heart Failure
Katherine L Modzelewski et al. PMID: 38696170 PMCID: PMC11066699 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2024.9305
JAMA Netw Open. 2024 May 1;7(5):e249305. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2024.9305.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38696170/
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