進行性IgA腎症患者におけるミコフェノール酸モフェチルの効果はどのくらい?
免疫グロブリンA腎症(IgA腎症)の治療におけるミコフェノール酸モフェチル(MMF)の役割は、依然として非常に議論の分かれるところです。
国内の診療ガイドラインによれば、IgA 腎症に対する免疫抑制薬(シクロホスファミ、アザチオプリン、シクロスポリン、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、ミゾリビン)の有効性を検討したランダム化比較試験の報告で、一部の研究報告において蛋白尿減少効果が報告されているものの、副腎皮質ステロイド薬単独治療を上回る結果にはなっていない、とのことです。したがって、副腎皮質ステロイド薬が副作用などで使用できない場合や減量すべき場合に使用が検討されるべきである、とされています。
しかし、ランダム化比較試験によるエビデンスは限られており、MMFの検証が求められています。そこで今回は、腎機能低下のリスクが高いIgA腎症患者におけるMMFの有効性と安全性を評価したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
本試験は、2013年9月から2015年12月まで、IgA腎症、タンパク尿1.0g/日以上、推定糸球体濾過量(eGFR)30以上60mL/min/1.73m2未満、または持続性高血圧を有する成人を対象に、オープンラベル、エンドポイントデザインによるランダム臨床試験です。3ヵ月のランイン期間中、238例の患者にロサルタンを含む最適化支持療法(SC:レニン・アンジオテンシン系(RAS)の最適な阻害、厳格な血圧コントロール、生活習慣の改善)が実施されました。3ヵ月間の最適化SCにもかかわらず、尿中タンパク排泄率が0.75g/日以上の患者を3年間の試験に登録しました。透析や移植を受けなかった試験生存者は、試験後、中央値 60(IQR 47~76)ヵ月間フォローアップされました。データは2022年3月から6月まで解析されました。
本試験では、合計170例の参加者を、MMF(当初1.5g/日を12ヵ月間投与、少なくとも6ヵ月間は0.75~1.0gで維持)+SC投与またはSC単独投与に1:1の割合でランダムに割り付けました。
本試験の主要評価項目は、(1)血清クレアチニン値の倍増、末期腎不全(透析、移植、腎代替療法を受けない腎不全)、腎臓または心血管原因による死亡の複合、(2)慢性腎臓病の進行でした。
試験結果から明らかになったことは?
ランダム化された170例(平均年齢 36.6[SD 9.4]歳、男性 94例[55.3%])のうち、85例はMMFとSCの併用投与を受け、85例はSC単独投与でした。平均eGFRは 50.1(SD 17.9)mL/min/1.73m2で、平均蛋白尿量は1.9(SD 1.7)g/日でした。168例(98.8%)が試験を完了し、157 例(92.4%)が生存して透析や移植を受けずにすみました。
MMF群 | SC群 | 調整ハザード比 aHR (95%CI) | |
主要複合アウトカム (血清クレアチニン値の倍増、末期腎不全、 腎臓または心血管原因による死亡の複合) | 6例 (7.1%) | 18例 (21.2%) | aHR 0.23 (0.09~0.63) |
慢性腎臓病の進行 | 7例 (8.2%) | 23例 (27.1%) | aHR 0.23 (0.10~0.57) |
主要複合アウトカムは、MMF群 6例(7.1%)とSC群 18例(21.2%)に発生しました(調整ハザード比 [aHR] 0.23、95%CI 0.09~0.63)。
慢性腎臓病の進行は、MMF群 7例(8.2%)、SC群 23例(27.1%)に認められました(aHR 0.23、95%CI 0.10~0.57)。
主要アウトカムに対するMMF治療の効果は、事前に指定されたサブグループ間で一貫しており、サブグループごとの有意な交互作用は認められませんでした。試験後のフォローアップ期間中、MMFを中止すると、年間eGFRの低下が加速しました。試験期間中における年間の平均eGFR低下は、MMF群で2.9(SD 1.0)mL/min/1.73m2、試験後にMMFを中止したMMF群66例で6.1(SD 1.2)mL/min/1.73m2と、いずれもMMFの投与を中止した患者の方が、eGFRの低下が大きいことが示されました。
重篤な有害事象の発生頻度は、MMFとSC単剤で同様でした。
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国内の診療ガイドラインによればミコフェノール酸モフェチルの有効性は、副腎皮質ステロイド薬単独治療を上回る結果にはなっていないようです。したがって、現在のところ副腎皮質ステロイド薬が副作用などで使用できない場合や減量すべき場合にミコフェノール酸モフェチルなどの免疫抑制薬の使用が検討されるべきである、とされています。
さて、本試験結果によれば、ロサルタンを含む最適化支持療法(SC)にミコフェノール酸モフェチルを追加することで、SCと比較して、進行性IgA腎症患者における疾患進行のリスクが有意に減少することが明らかとなりました。主要評価項目は複合アウトカムであることから、結果の解釈に注意を要しますが、いずれのアウトカムもほぼミコフェノール酸モフェチルの方が発生数が少ないことから、大きな懸念はないと考えられます。ただし、患者背景において治療薬の使用率、ロサルタンの使用用量に偏りがある点は結果を解釈する上で考慮した方が良いと考えられます。とはいえ、ミコフェノール酸モフェチルの方が大きく有利となるような群間差はなさそうです。各症例数が100例未満とやや少ないことが起因していると考えられます。
今後の試験結果により結果が覆る可能性は充分にありますが、今のところ副腎皮質ステロイドが使用できない場合、免疫抑制薬(シクロホスファミ、アザチオプリン、シクロスポリン、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、ミゾリビン)の中でも、ミコフェノール酸モフェチルをまず考慮してもよいのかもしれません。
続報に期待。
☑まとめ☑ ロサルタンを含む最適化支持療法(SC)にミコフェノール酸モフェチルを追加することで、SCと比較して、進行性IgA腎症患者における疾患進行のリスクが有意に減少することが明らかになった。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:免疫グロブリンA腎症(IgA腎症)の治療におけるミコフェノール酸モフェチル(MMF)の役割は、依然として非常に議論の分かれるところである。
目的:腎機能低下のリスクが高いIgA腎症患者におけるMMFの有効性と安全性を評価する。
試験デザイン、設定、参加者:2013年9月から2015年12月まで、IgA腎症、タンパク尿1.0g/日以上、推定糸球体濾過量(eGFR)30以上60mL/min/1.73m2未満、または持続性高血圧を有する成人を対象に、オープンラベル、エンドポイントデザインによるランダム臨床試験が実施された。3ヵ月のランイン期間中、238例の患者にロサルタンを含む最適化支持療法(SC)が実施された。3ヵ月間の最適化SCにもかかわらず、尿中タンパク排泄率が0.75g/日以上の患者を3年間試験に登録した。透析や移植を受けなかった試験生存者は、試験後、中央値 60(IQR 47~76)ヵ月間フォローアップされた。データは2022年3月から6月まで解析された。
介入試験:合計170例の参加者を、MMF(当初1.5g/日を12ヵ月間投与、少なくとも6ヵ月間は0.75~1.0gで維持)+SC投与またはSC単独投与に1:1の割合でランダムに割り付けた。
主要アウトカムと測定方法:主要評価項目は、(1)血清クレアチニン値の倍増、末期腎不全(透析、移植、腎代替療法を受けない腎不全)、腎臓または心血管原因による死亡の複合、(2)慢性腎臓病の進行であった。
結果:ランダム化された170例(平均年齢 36.6[SD 9.4]歳、男性 94例[55.3%])のうち、85例はMMFとSCの併用投与を受け、85例はSC単独投与であった。平均eGFRは 50.1(SD 17.9)mL/min/1.73m2で、平均蛋白尿量は1.9(SD 1.7)g/日でした。168例(98.8%)が試験を完了し、157 例(92.4%)が生存して透析や移植を受けずにすんだ。主要複合アウトカムは、MMF群 6例(7.1%)とSC群 18例(21.2%)に発生した(調整ハザード比 [aHR] 0.23、95%CI 0.09~0.63)。慢性腎臓病の進行は、MMF群 7例(8.2%)、SC群 23例(27.1%)に認められた(aHR 0.23、95%CI 0.10~0.57)。主要アウトカムに対するMMF治療の効果は、事前に指定されたサブグループ間で一貫しており、サブグループごとの有意な交互作用は認められなかった。試験後のフォローアップ期間中、MMFを中止すると、年間eGFRの低下が加速した。試験期間中における年間の平均eGFR低下は、MMF群で2.9(SD 1.0)mL/min/1.73m2、試験後にMMFを中止したMMF群66例で6.1(SD 1.2)mL/min/1.73m2と、いずれもMMFの投与を中止した患者の方が、eGFRの低下が大きかった。重篤な有害事象の発生頻度は、MMFとSC単剤で変わらなかった。
結論と関連性:本試験では、MMFをSCに追加することで、SC単独投与と比較して、進行性IgA腎症患者における疾患進行のリスクが有意に減少することが明らかになった。
臨床試験の登録 ClinicalTrials.gov Identifier: NCT01854814
引用文献
Effectiveness of Mycophenolate Mofetil Among Patients With Progressive IgA Nephropathy: A Randomized Clinical Trial
Fan Fan Hou et al. PMID: 36745456 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2022.54054
JAMA Netw Open. 2023 Feb 1;6(2):e2254054. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2022.54054.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36745456/
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