溶連菌咽頭炎の抗菌薬は短期投与でもOK?―現実世界データからみた治療期間と転帰(コホート研究; Open Forum Infect Dis. 2025)

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◆ 試験の背景

A群β溶血性連鎖球菌(Group A Streptococcus, GAS)による咽頭炎では、従来10日間の抗菌薬治療が標準とされてきました。しかし、抗菌薬の過剰使用を防ぐ「抗菌薬適正使用(Antimicrobial Stewardship)」の観点から、より短い治療期間の有効性が近年注目されています。

この研究は、2022年にニュージーランドのある地域で行われた診断・治療方針の変更(抗菌薬投与期間の短縮)を受けて「短期治療が臨床成績に悪影響を与えないか」を実地で評価したものです。


試験結果から明らかになったことは?

◆ 試験デザインと方法

  • 対象期間:治療方針変更の前後(2年間前+25か月後)のデータを比較
  • 対象患者数:プレチェンジ期 851名、ポストチェンジ期 1746名
  • データ:GAS陽性の咽頭ぬぐい液培養結果と抗菌薬の処方データをマッチング
  • 評価項目
    • 30日以内の再治療率(抗菌薬処方再発行)
    • 再びGAS陽性となる咽頭培養
    • 入院
    • 同一家族内でのGAS感染(二次感染)
    • 90日以内のリウマチ熱の発症

◆ 主な結果

  • ポストチェンジ期では、7日以内の治療を受けた患者の割合が59.0%に増加(プレチェンジ期では31.3%、P<0.01)。
  • 主要アウトカム(再治療率、再感染、入院、家族内感染、リウマチ熱)について、治療期間の短縮による悪影響は検出されなかった
  • ただし、「抗菌薬を処方されなかった群」では、30日以内の再治療率がやや高くなる傾向が見られた(15.6% vs. 11.4%、P<0.01)。

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◆ 解説と臨床的意義

本研究は、短期(5~7日)治療が必ずしも臨床的に不十分とは限らないことを、現実の診療環境におけるデータで示しています。特に、家庭内感染(家族へのうつりやすさ)やリウマチ熱などの懸念される転帰に変化がなかった点は、抗菌薬使用の最適化を考える上で非常に重要です。

ただし、抗菌薬をまったく投与しなかった場合には再治療の可能性が上がる点にも留意が必要であり、「すべてのケースで抗菌薬を省略できる」というメッセージではありません。


◆ 本研究の限界

  • 非ランダム化の観察研究であるため、因果関係の証明はできません。
  • GAS除菌率そのものは評価されておらず、あくまで「臨床的な転帰」に着目した解析です。
  • 対象地域が限定されており、他地域への一般化には慎重な検討が必要です。

◆ まとめ

短期治療(5~7日間)の抗菌薬投与は、GAS咽頭炎の臨床成績に有意な悪影響を与えなかったという現実世界データが示されました。抗菌薬の適正使用を進める上での重要な知見となる一方で、ケースバイケースの判断と慎重な経過観察が求められます。

どのような患者で抗菌薬の短期治療が適しているのか、再現性の確認を含めて、より精度の高い前向き研究の実施が求められます。

続報に期待。

doctor offering choice to patient in office

✅まとめ✅ コホート研究の結果、本集団において、抗菌薬を投与されなかった患者を含め、短期治療はA群β溶血性連鎖球菌(GAS)による咽頭炎の転帰に検出可能な悪影響を及ぼさなかった。GAS咽頭炎に対する短期治療は咽頭除菌率の低下と関連していたが、この実臨床環境において家庭内感染の増加は検出されなかった。

根拠となった試験の抄録

背景: A群連鎖球菌(GAS)咽頭炎に対する短期治療は、臨床治癒には10日間に相当する可能性があるものの、咽頭GASの除菌効果は不明である。家庭内感染への影響は直接検証されていない。2022年には、実験室における抗菌薬適正使用の取り組みにより、地域におけるGAS咽頭炎の治療期間が急激に短縮された。本研究は、これが主要な治療アウトカム(臨床的失敗、微生物学的失敗、免疫学的後遺症、家庭内GAS感染)に悪影響を及ぼしたかどうかを評価することを目的とした。

方法: 変更前2年から変更後25ヶ月までのGAS陽性咽頭ぬぐい液培養を抗菌薬調剤データと照合した。ロジスティックモデルを用いて、治療期間と30日間抗菌薬再投与、GAS陽性咽頭ぬぐい液培養の再検査、入院、家庭内感染発生率、および90日間リウマチ熱発症率との関連を検討した。

結果: 変更前851名、変更後1746名の患者が対象となり、変更前は7日間以下の治療を受けた患者が31.3%、変更後は59.0%であった(P<0.01)。いずれのアウトカム指標においても、期間間で有意差は認められなかった。変更後期間を具体的に検討したところ、0日間、5日間、または7日間の抗生物質投与を受けた患者と10日間の抗生物質投与を受けた患者を比較した場合、いずれのアウトカム指標においても有意な増加は認められなかった。ただし、変更当初に抗生物質投与を受けなかった患者では、30日間の抗生物質投与を受けた割合が高かった(15.6% vs. 11.4%、P<0.01)。

結論: 本集団において、抗菌薬を投与されなかった患者を含め、短期治療はGAS咽頭炎の転帰に検出可能な悪影響を及ぼさなかった。GAS咽頭炎に対する短期治療は咽頭除菌率の低下と関連していたが、この実臨床環境において家庭内感染の増加は検出されず、これは我々の知る限り新たな知見である。

キーワード: 抗生物質、診断管理、期間、咽頭炎、化膿連鎖球菌

引用文献

Effect of a Widespread Reduction in Treatment Duration for Group A Streptococcal Pharyngitis on Outcomes Including Household Transmission
Max Bloomfield et al. PMID: 40599493 PMCID: PMC12207974 DOI: 10.1093/ofid/ofaf323
Open Forum Infect Dis. 2025 Jun 6;12(7):ofaf323. doi: 10.1093/ofid/ofaf323. eCollection 2025 Jul.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40599493/

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