2型糖尿病治療におけるGLP-1 RAの選択肢
2型糖尿病患者における血糖管理には、GLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)が広く用いられています。
中でもデュラグルチド(週1回投与)は、血糖コントロール改善や体重減少効果が期待される薬剤として普及しています。
一方、チルゼパチドは、GLP-1 RAだけでなく、GIP受容体作動薬としての二重作用を持ち、血糖降下作用と体重減少作用が共に優れていることが報告されています。
今回ご紹介する研究(SURPASS-SWITCH試験)は、デュラグルチドからチルゼパチドへの切り替えが、血糖コントロールと体重減少に与える影響を評価した第4相試験です。
試験結果から明らかになったことは?
試験デザインと対象
項目 | 内容 |
---|---|
研究デザイン | 第4相、ランダム化、多施設共同、オープンラベル |
対象者 | 2型糖尿病患者(HbA1c 7.0%~9.5%、BMI≥25kg/m²) |
治療期間 | 40週間 |
介入 | デュラグルチド増量(最大4.5 mg/週) vs. チルゼパチド切り替え(15mg/週またはMTD) |
主要評価項目 | HbA1c変化量(40週時点) |
副次評価項目 | 体重変化量(40週時点) |
主な結果
評価項目 | チルゼパチド群 | デュラグルチド群 | 群間差(95%CI) | P値 |
---|---|---|---|---|
HbA1c変化量(40週時点) | -1.44% (SE 0.07) | -0.67% (SE 0.08) | -0.77% (-0.98% ~ -0.56%) | <0.001 |
体重変化量(40週時点) | -10.5kg (SE 0.5) | -3.6kg (SE 0.5) | -6.9kg (-8.3 ~ -5.5) | <0.001 |
重篤な有害事象発生率 | 7.2% | 7.0% | – | – |
主な有害事象 | 悪心・下痢 | 悪心・下痢 | – | – |
- チルゼパチド群ではHbA1cが有意に減少(-1.44% vs. -0.67%)
- 体重減少効果もチルゼパチド群が優れていた(-10.5kg vs. -3.6kg)
- 有害事象発生率は両群で同等
- 主な副作用として、悪心や下痢が両群で発現
コメント
本研究の結果から、デュラグルチドからチルゼパチドへの切り替えが、血糖コントロールと体重減少の両面で優れていることが示されました。
特に、HbA1cの低下幅が約0.8%大きく、体重減少量も約7kg多いという結果は、臨床的に大きなインパクトがあります。
実臨床での意義
- 治療目標達成が困難な患者への切り替えを検討
- デュラグルチドで血糖コントロールが不十分な場合、チルゼパチドへの切り替えが合理的
- 体重減少効果を重視する場合の選択肢
- 肥満合併糖尿病患者では、体重減少効果が大きいチルゼパチドが有用
- 安全性には引き続き注意が必要
- 悪心や下痢が頻発するため、投与初期にモニタリングが推奨されます。
治療継続のために患者のモチベーションを維持することは重要な要素の一つです。したがって、HbA1cや体重減少等の代用のアウトカムの改善であっても、臨床的には貴重な報告です。
とはいえ、より重要なアウトカムである死亡リスクの回避(寿命の延長)、心血管イベントの発生リスクの低減等についても比較検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 非盲検ランダム化比較試験の結果、治療をチルゼパチドに切り替えると、デュラグルチドによる治療を段階的に増やした場合と比較して、HbA1cがさらに低下し、体重も減少した。
根拠となった試験の抄録(日本語訳)
背景: 2型糖尿病または肥満の成人の治療薬として承認されている、週1回投与のブドウ糖依存性インスリン分泌促進ポリペプチドおよびグルカゴン様ペプチド-1 受容体作動薬であるチルゼパチドは、SURPASS フェーズ3臨床試験プログラムにおいて、 ヘモグロビンA1c(HbA1c)および体重の臨床的に意義のある減少を示しました。
目的: 適切にコントロールされていない2型糖尿病患者において、デュラグルチド用量の増加とチルゼパチドへの切り替えの有効性と安全性を比較する。
設計: 多施設共同、ランダム化、非盲検、第4相試験(SURPASS-SWITCH [2型糖尿病成人におけるデュラグルチド週1回投与からチルゼパチド週1回投与への切り替えの有効性と安全性を調査する第4相、ランダム化、非盲検、実薬対照試験]、ClinicalTrials.gov:NCT05564039)。
設定: 5か国38か所。
参加者: HbA1c 7.0%以上9.5%以下、体重が安定、BMI 25kg/m2以上、デュラグルチド(0.75mgまたは1.5mg)の安定した用量を少なくとも6か月間、および経口血糖降下薬0~3種類を少なくとも3か月間服用している成人。
介入: デュラグルチドを4.5mgまたは最大耐量 (MTD) まで増量するか、チルゼパチドに切り替える。
測定: 主要評価項目は、40週目のHbA1cのベースラインからの変化でした。重要な副次的評価項目は、40 週目の体重のベースラインからの変化でした。
結果: 成人282名がチルゼパタイド(n=139)またはデュラグルチド(n=143)にランダムに割り付けられた。40週時点のHbA1cのベースラインからの変化量は、チルゼパタイド15mgまたはMTD群で-1.44%(SE 0.07)、デュラグルチド4.5mgまたはMTD群で-0.67%(SE 0.08)であった(推定治療群間差 -0.77% [95%CI -0.98% ~ -0.56%; P<0.001])。40週時点の体重のベースラインからの変化量は、チルゼパタイド群で-10.5 kg(標準誤差0.5)、デュラグルチド群で-3.6 kg(標準誤差0.5)であった(推定治療群間差 -6.9kg [CI -8.3 ~ -5.5kg、P<0.001])。重篤な有害事象は、チルゼパタイド群で10例(7.2%)、デュラグルチド群で10例(7.0%)報告された。治療関連で最も多くみられた有害事象は、吐き気と下痢であった。
制限: オープンラベル設計。
結論: SURPASS-SWITCH試験では、治療をチルゼパチドに切り替えると、デュラグルチドによる治療を段階的に増やした場合と比較して、HbA1cがさらに低下し、体重も減少しました。
主な資金提供元: Eli Lilly and Company。
引用文献
Comparison of Dose Escalation Versus Switching to Tirzepatide Among People With Type 2 Diabetes Inadequately Controlled on Lower Doses of Dulaglutide : A Randomized Clinical Trial
Liana K Billings et al.
PMID: 40183678 DOI: 10.7326/ANNALS-24-03849
Ann Intern Med. 2025 May;178(5):609-619. doi: 10.7326/ANNALS-24-03849.
ー 続きを読む:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40183678/
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