チルゼパチドの使用実態を調査
チルゼパチド(Tirzepatide)は、GLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)とGIP受容体作動薬(GIP RA)の二重作用を持つ新しい糖尿病治療薬です。
2型糖尿病治療のみならず、体重減少効果が高いことから、肥満治療薬(WLM)としての使用も急速に拡大しています。
2022年に米国FDAで承認されたチルゼパチドは、GLP-1 RAに比べてより高い血糖降下効果と体重減少効果が示されており、従来薬(メトホルミンやDPP-4阻害薬など)に代わる新たな選択肢として注目されています。
本研究では、チルゼパチドの使用実態が、他の糖尿病治療薬(GLM)や体重減少薬(WLM)に比べてどのように変化したかを解析しました。
試験結果から明らかになったことは?
試験デザイン
項目 | 内容 |
---|---|
研究デザイン | 人口ベースのコホート研究 |
データソース | 米国の大規模商業データベース(2021年1月〜2023年12月) |
対象者 | 18歳以上の成人 |
比較対象 | 糖尿病治療薬(GLM)・体重減少薬(WLM)使用者 |
評価項目 | 月ごとの薬剤処方トレンド |
評価方法 | 処方頻度の変化を時系列で解析 |
主な結果
1. 糖尿病患者におけるチルゼパチドの使用傾向
薬剤 | 使用割合(2021年) | 使用割合(2023年12月) | 増加率 |
---|---|---|---|
チルゼパチド | 0.0% | 12.3% | 急増 |
SGLT2阻害薬 | 14.5% | 24.4% | 増加 |
GLP-1 RA | 19.5% | 28.5% | 増加 |
メトホルミン | 高頻度 | 減少 | 低下 |
- チルゼパチドの使用割合が急速に増加し、2023年12月にはGLM全体の12.3%を占めた
- SGLT2阻害薬やGLP-1 RAも増加している一方、メトホルミンなど従来薬の使用は減少
2. 糖尿病以外の肥満治療薬としての使用
薬剤 | 使用割合(2021年) | 使用割合(2023年12月) | 増加率 |
---|---|---|---|
チルゼパチド | 0.0% | 40.6% | 急増 |
セマグルチド(2.4 mg) | 0.0% | 32.2% | 増加 |
セマグルチド(2.0 mg) | 37.8% | 45.7% | 増加 |
その他のWLM | 多数 | 減少 | 低下 |
- 非糖尿病患者における肥満治療薬として、チルゼパチドの使用が急増し、セマグルチド(2.4 mg)も上昇
- 他のWLMは相対的に使用が減少
コメント
本研究から、チルゼパチドは2型糖尿病患者のみならず、非糖尿病の肥満患者でも急速に使用が拡大していることがわかりました。
特に、肥満治療薬としての位置づけが急速に変化しており、セマグルチド(2.4 mg)と共に市場シェアを拡大しています。
なぜチルゼパチドが急速に普及したのか?
- 高い血糖降下効果:GLP-1 RA単独よりも強力
- 強力な体重減少効果:GIP RA作用が寄与
- 複数の適応:糖尿病治療と肥満治療の両面で使用可能
ただし、本研究の限界として、商業保険データのみを用いているため、無保険者や公的保険加入者への一般化には注意が必要です。
また、チルゼパチドは比較的新規薬剤であるため、安全性や長期使用のリスク評価が今後の課題となります。
日本においても同様の傾向がみられるのか、更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 米国の人口ベースコホート研究の結果、チルゼパチドが米国市場投入後に急速に普及していることが示された。
根拠となった試験の抄録
背景:チルゼパチドは、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体およびグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)受容体の二重作動薬であるが、その使用傾向については他の血糖降下薬(GLM)および体重減少薬(WLM)と比較して未だ明らかではない。
目的:チルゼパチド承認後のGLMおよびWLMに関する保険請求データの傾向を明らかにすること。
試験デザイン:人口ベースのコホート研究。
試験設定:米国の大規模商業データベースから抽出された保険請求データ(2021年1月~2023年12月)。
試験参加者:18歳以上の成人であり、糖尿病(T2D)患者および非糖尿病患者を対象とした。GLMおよびWLMが処方された全てのケースを含めた。
「使用あり」とは、過去の使用に関わらず、薬剤が処方された場合を指す。
「新規使用」とは、前年に使用がなかった場合に処方されたケースを指す。
測定:チルゼパチド市場投入前後の薬剤処方頻度(月次傾向)。
チルゼパチドの導入速度を、他のGLMおよびWLMの承認直後の導入速度と比較した。
結果:糖尿病患者(T2D)でGLMが処方された成人において、チルゼパチドの処方は顕著に増加し、2023年12月には全GLM処方の12.3%を占めた。
同様のパターンが、ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬(14.5%→24.4%)およびGLP-1受容体作動薬(19.5%→28.5%)でも観察された。
一方で、メトホルミンを含む他のGLMの処方は減少した。
糖尿病を有さない成人でWLMが処方されたケースでは、チルゼパチド(0.0%→40.6%)およびセマグルチド(2.4 mg)(0.0%→32.2%)の処方が急増したが、最も頻繁に処方されたWLMはセマグルチド(2.0 mg)であり、37.8%から45.7%に増加した。他のWLMの処方は減少した。
同様の傾向が、新規使用者でも確認された。チルゼパチドの導入速度は、他の薬剤の承認直後の導入速度と比較しても、より迅速かつ持続的であった。
試験の限界:商業保険未加入の米国成人への一般化は不確実である。
結論:これらの結果は、チルゼパチドが米国市場投入後に急速に普及していることを示しており、GLMおよびWLMの処方パターンが急速に変化している現状を理解する上で貴重な知見である。
資金提供:米国国立糖尿病・消化器・腎疾患研究所(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases)。
引用文献
Trends in Tirzepatide Use and Comparison With Other Glucose-Lowering and Weight-Lowering Medications in the United States
Smith RJ, Johnson AP, Lewis TJ, et al.
PMID: 40228298
Ann Intern Med. 2024 Mar 28;2024(15):112-121. doi:10.7326/M23-1821
ー 続きを読む:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40228298/
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